第19話

 ♦︎


「柊、なんか元気ないな」

 お兄ちゃんが部屋にやって来て声をかけてくれる。

「うん。ちょっとね」

 わたしは、お兄ちゃんから目をそらす。

「マダムのことか」

「まあね」

「気を落とすなよ。柊のせいじゃないさ。早く元気になって、オレを撮ってくれよ」

「うーん。撮らない」

 わたしは机に突っ伏して答える。

「撮らない? なんで」

「うーん、なんでも。撮らない」

 わたしはカメラを持たなくなってしまった。

 もう写真を撮りたくないんだよ。

 雨に濡れるあじさいの花がとても綺麗だと思う。マクロレンズで青い花弁をクローズアップしよう、そう考えた瞬間、花の色が真っ赤に燃え上がる。あの日の夕焼け空のような、血の色のような、どろりとした赤。わたしは咄嗟にまぶたをつぶる。消えろ消えろ消えろ、と強く念じる。手のひらがじっとりと汗ばむ。それは血じゃないのか、と考えて怖くなる。

 わたしの両手は血に染められている。

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