第12話

 学校への通学路の途中で文月と待ち合わせをする。今日は少し文月を待たせてしまった。

「ヒーコ、おはよう。昨日の写真、フィルグラにアップしてないじゃん。楽しみに待ってたのに」

「あー、ごめんごめん。寝落ちしちゃって」

 そんな風にごまかしたけど、本当は、知らない不特定多数の誰かに見せるよりも、マダムに最初に見せるのがいいんじゃないかなあと思ったのが理由だ。いいねをもらうのも楽しいけれど、見てもらうべき人に先に届ける方が大事かなあ。

「今日さあ、写真屋にゆくんだけど、文月、ヒマ?」

「もう、ずっとヒマ!」

 わたしたちはそんな話をしながら教室に入る。自分の机に着いた時、その机に薄く影がかかる。そして、わたしの背後から声がかかる。

「まだ、あんたら映えー、とかやってんの?」

「……うわ。ヒーコ、またあとでね」

 文月がそそくさと自分の席に着く。

「ま、ね。写真好きだし」

 話しかけてきたのは、エミリー。華山はなやま英美里えみり。ウチのクラスには、いわゆるスクールカーストというのはないけれど、ちょっと前の時代なら、エミリーは確実にヒエラルキーの頂点にいるであろうタイプだ。

「今は、動画じゃん! コックテイルやってないの?」

 コックテイルっていうのは、今一番流行っているアプリかな。短い動画をスマホで撮影してすぐにアップできる。フィルグラの動画版みたいな感じ。もちろんいいねを集められる。

「わたし、動画向きじゃないんだよね」

「ハイ、ワンツースリー!」

 いきなり掛け声をして、エミリーは踊りだす。片手にスマホを持って上下左右に大きく回す。わたしは笑顔を作ってそれを見つめる。

 わたしたちの間には、エミリーが選曲したK-POPが流れている。

 決めの笑顔。小刻みに手を振るエミリー。スマホを降ろすと、びっくりするくらい素の顔に戻ったエミリーが言う。

「今、アップしたから、ヒーコもいいねつけてね。よろしくー」

 有無を言わさず、エミリーは去ってゆく。わたしは仕方なしに、スマートフォンのロックを外し、コックテイルの風見鶏のアイコンをタップする。一番上に今見たばかりのエミリーのダンスが載っている。口角を上げて、でもどこか無表情にエミリーが踊る。片手持ちだというのに、奥行きのあるダンスが撮れていて、へえ、すごい、とわたしは素直に感心する。そして、いいねする。

「いいね、いただきましたー!」

 窓際の方から、声と笑い声があがる。わたしは、お愛想で手を振る。エミリーのグループのみんなも手を振り返す。決して仲が悪いわけじゃないんだけれど、その薄っぺらい氷のような関係を割らないように気を遣う。別にハブられたっていいけどさ、とも思うけれど、そうならないのなら、その方がいいだろうと思っている。ちょっと、胃が痛い。

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