第11話
マダムのポートレートの現像には一晩かかってしまった。寝落ちして、気がついたらカーテン越しの外の気配がほんのり明るい。
「やば……。お風呂入ってない」
時計を見るとまだ午前5時。今日は土曜日で、授業は午前中に終わる。学校にゆく前にデータを転送して、帰りに写真屋さんに寄ろう。
わたしは、勢いよくカーテンを開ける。外は予想に反してどんよりと曇っていて、雨がしとしとと降っている。
「梅雨入りするかなあ」
タブレットから、クラウドサーバーに写真をアップロードする。そのURLアドレスをお兄ちゃんにメールする。それをUSBメモリに保存してもらいたいということも付け加える。
「オーケー」
と返信がすぐに入る。あの人、また徹夜したな。お兄ちゃんとは10歳年が離れているのだけれど、いつでもやさしいお兄ちゃんがわたしは大好きだ。
お兄ちゃんは、前に働いていたデザイン事務所で体を壊し、なし崩し的にフリーのグラフィックデザイナーとして独立した。フリーランスって自由でかっこよさそうだけれど、大変な部分も多いみたい。とにかく体には気をつけてよ。
「サンキュー」
と絵文字入りのメールを送り、わたしはシャワーを浴びにお風呂に向かう。
さっぱりした気持ちで部屋に戻ると、そこにはもうUSBメモリが置かれていた。
また、サンキューとメールを入れる。返信は返ってこない。もう眠ったかな。土日くらいしっかり休んでよ。
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