第6話 中間考査
前回のあらすじ。
肝試しに行った。
本物の妖怪が現れた。
倒した。
三行で、まとめることの出来るこの出来事だが、その後が面倒くさかった。
普通に参加したものはバレて怒られた。
まあ、犯罪だしな。
あの中の誰かが治安維持組織を呼んだのか、俺たちが建物を出てすぐにここら一帯を管轄している【
そこで、肝試しや諸々が発覚して学校に連絡が行った。
だが、そこで、機関が何かしたようで、停学にはならずに済んだ。
流石に、入学一か月で停学は笑えない。
恐らく、【SECURITY】から学校までの連絡に対して何かをしたのだろう。
怒られてはいるので恐らく事実がなくなったわけではないのだろうが、多分だが建物自体には入らなかったとかそう言ったことになっているのだろう。
ただ、廃墟には足を運んだのは事実として残り、怒られたってところか。
まあ、細かいところは分からん。
だが、今日は、5月11日土曜。
学校のことなど、まずは忘れることとしよう。
俺だって別に学校が好きなわけではないのだ。
今日は家でゆっくり過ごそう。
別に、高層マンションなどではないが、機関からの金があるので、それなりの場所に住めている。
それに、不便もないし、まさに俺にとってはこの世の天国とでも言えるほどの……
──ピンポーン
不意になったインターホンに驚きながら俺は立ちあがる。
何かネットで買っただろうか?
心当たりはないが、室内機に使づいて「通話」のボタンを押した。
「今出ます?」
『何で疑問形?』
何故とインターホン越しに聞かれるが、そりゃあお前が来たからとしか言えない。
そして、俺からの返答がないからか、未だやかましく画面越しで騒ぐ石原をみて俺はため息をついた。
カメラをのぞき込んでいるのか、異様に近い顔面を映したモニターを見た。
流石に近所迷惑になる前にこいつを中に入れるべきか。
「お邪魔しまーす!」
俺が扉を開けると、そんな声と共に石原は上がり込んだ。
遠慮なしにズカズカと俺より先に部屋に入っていく姿は、まさに先ほどの「お邪魔する」と言う言葉を実行に移しているようだった。
「お邪魔すると言って、お邪魔した奴を始めてみたよ」
「まあ、俺は有言実行できるタイプの男だからな」
「特別なんだからな~」などど意味不明なことを言ってさっさと中に入ってしまった。
そして、自分の家ながら遅れるようにして、俺も部屋に入った。
「一人暮らしの割には散らかってねぇな」
「まあな。どっかの誰かが、人使い荒いせいで家を散らかす時間もないんでな。……で、何しに来た?」
早々にあたりを物色し始めた石原に俺は用件を聞いた。
こいつが態々俺の家まで来るのなら、それなりの理由があるはずだ。
「ああ、ちょっと、頼みたいことがあってな」
「態々、俺の家に上がり込んでか?」
「いや、別にそれは別件。ここに来たのはなんとなく」
あっけらかんとそう言う石原は勝手に腰を下ろして「お茶を出してくれ」と偉そうに指図してきた。
仕方なく、俺がお茶を淹れていると、石原は更に話を続けた。
「嫌そうな顔するなよ。機関は極力プライバシーを尊重してるんだ。だから、俺が態々ここを訪問した」
「監視しといてよく言うぜ」
「そもそもこの部屋だって機関が用意したんだぞ。その時に、何も細工しなかったことを褒めてほしいくらいだ」
「お前らが、カメラやら盗聴器やらを設置しなかったのは、俺への配慮も対象あっただろうが、『魔眼』で見破られることを考慮しての話だろ」
1992年に公表された異能なんかよりもっと先にある、今更新しいのか分からない新しい人権であるプライバシー権の意味を知らなそうなこいつらは俺のためになどと考えるような奴じゃない。
「まあ、いい。で、本題を話せ。そして、さっさと茶を飲んで出ていけ」
俺が置いたお茶を、一気に飲んだ石原を見てそう言った。
「そう言うなって。まあ、今回はそう難しい話じゃない。
そう言われて、俺は首を傾げた。
単体の俺では戦闘に役に立たない。
と言う事は、そもそも戦闘ではないのだろうか。
「簡単だ。今回の依頼は中間考査で赤点をとらないこと」
「は?」
中間考査と言えば、まあ、何処の学校にでもあるアレ。
散々世界の闇みたいな印象を醸し出していた機関が、たかが高校のテストで高い点を取れと?
「ハハ、アハハハっ!!」
「おーおー、楽しいな浅野ォ!」
思わず高笑いをしてしまった俺に石原は言う。
「で?できるのか」
「…………」
「おい」
「入試の時みたいに異能を使ってやれば……」
「ダメに決まってんだろ。お前が天下の異能高校の入試で『魔眼』を使ったせいでどうなったか覚えてないのか?」
確かに、苦労した覚えがある。
異能の使用がバレそうになって、何とか機関のバックアップで耐えた。
頭のいい学校だけあって苦労したのは記憶に新しい。
「答案すり替えるとかできないのか?」
「出来るわけないだろ。異能学校だぞ?生徒もそうだが、それを教えることが出来る教員が多くいる中に下手に刺激なんかできるかよ」
「クソッ、もうあきらめるしかないってのか!」
「ちげぇよ。今から、何とかするんだよ」
石原は、諦めかけた俺にそう声をかける。
なんだか今日はこいつが異様に眩しく見える。
「機関としても、赤点で補修とかってのは避けたいからな。学生の身分であるからこその身軽さなのに、運用しずらくなったら困るんだよ」
「まあ、確かにな。だけど、どうすればいいんだよ」
「だから、さっさと、勉強しろって」
石原に言われて、俺は取りあえず教科書を開いてみる。
うーん、分からん。
数学はダメだな。
「よし、次はと」
「それじゃ、開いて閉じただけだろ!」
「だって、分からんし。次行った方が良くね。ほら、解ける奴からやった方がやる気もでるし」
なんか、分からない奴は飛ばすと聞いたことがある。
きっとそれは、テスト勉強にも応用が……
「ふぅ……えっと次は、あれ?もうない」
「結局全教科開いて閉じただけじゃねぇか!」
いつになく、感情をむき出しにする石原に少し引くが、確かにこいつの言う通りだった。
分からないのを飛ばしていったら、いつの間にか次の教科がなくなっていた。
「はあ、取りあえず、かったっぱしから解いてみろ。取りあえず、俺が逐一教えてやる」
ため息を吐いた石原はそう言うと、コップを置いた。
そして、まずは、数学を開いて俺に差し出してきた。
まあ、教えてくれるのならやれないこともないだろう。
俺は気合いを入れてペンをとった。
三十分後。
「マジかよ。……勉強法が間違っているとか以前に、四則計算すら怪しい」
石原の、そんな声は俺のピュアハートを傷つけた。
「いや、九九は言えるぞ」
流石に、小学二年生で習った範囲だ、それくらい余裕で出来る。
そして、九九が出来るのだから、割り算もできる。
流石に舐めないでもらいたい。
「浅野。今日何日だ?」
「ん?11日だけど」
不意に石原の口から出た声に俺は答える。
今使っているテーブルにほっぽり出している、いつもつけている腕時計には小さく「11」の文字が出ている。
多機能、と言うほどでもないが、時間と日付がわかる時計は便利だ。
逆に、たくさん機能のついたものだと使いこなせない様な気もするし。
「よく聞け浅野。定期考査は三日間。22、23,24日だ。本来なら第三週に行われるはずだったが、幸運にも今年はズレている」
「お、じゃあ──」
「だが、だ。それでも初日まで二週間もない、正直今のお前の学力じゃ厳しい。だから、死ぬ気でやれ」
いつにもまして圧をかける石原に俺は頷く。
条件反射で首を動かしてしまうほどに迫力があった。
「よし。じゃあ、早速やるぞ。こっちで勉強するためのスケジュールを組むからその通りにお前はやれ」
「わ、わかった」
そんなこんなで、俺のテスト勉強は始まった。
残り10日。
「おし、昨日に引き続きやるぞ」
「おー」
残り9日。
「学校の休み時間を使ってこれをやれ。俺が見れるとき以外は復習をしてろ」
「おう」
残り8日。
「おい、サボるな」
「いやまて、ちょっと休憩──」
「やれ」
残り7日。
「今日は、クラスでも頭のいい原城を連れて来た」
「よろしくね」
「え、良いの?態々」
「うん。私も、教えながら復習できるし」
残り6日。
「思った以上にあれだね……」
「これでも相当良くなった方だぞ」
「え?」
「え?って酷くない?」
残り3日。
「もう無理かも」
「浅野より先に諦めるな」
残り2日。
「これならギリギリ赤点回避くらいは……」
「マジで?やった」
「いや、赤点はこれじゃあまだ」
残り1日。
「出来たのは此処までか。あとは運しだい」
そして迎えた中間考査、俺はいつになく順調にテストを解いていった。
今までにない感覚、行ける。
そう確信した。
「で?」
「全部赤点回避したけど、現代文の名前書き忘れて0点」
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