娘さんは頂いていくぅ!

「まさか、こうしてまた目にするとはな」

「くくっ、あの程度のことでやられるとでも?」


 う~ん、それは正直予想外ではあった。

 輝夜と向かった妖の住み家……そこに居たのは以前に戦った時と何も変わらない最上級妖の姿。


(ちっ……相変わらずのイケメン野郎だ)


 娘が居るとは思えないくらいのイケメン面だ。

 それこそ蒼汰と比類するレベルのイケメンで……あれ、そう考えると主人公が敵のラスボスくらいイケメンなのって結構珍しくない?

 なんてことを考えつつも、手の平に感じる輝夜の温もりがこんな予想外の状況を前にしても常に俺を冷静にさせてくれていた。


「お父さま」

「なんだ? よくもまあ顔を見せれたものだな裏切者が」


 裏切者……その言葉に輝夜は一切のショックを見せず、それどころか逆に光栄だと言わんばかりにクスッと笑みを浮かべた。


「あら、それはとても嬉しい言葉だわ。妖を纏め上げるお父さまから直々にそう言われたということは、私は自信を持って人の側……正義の側だと言えるから」

「……………」


 輝夜の言葉に、奴は憎らし気に俺を見つめてくる。

 こうして話を進める間に何かしら術が発動していたりとか、幻を見せる類いのモノかなど観察してみたがそうではない……奴は間違いなく本物でありそこに存在している。


(どういうことだ……? こうして状況を把握したし慌てているわけでもないけど、なんで奴は生きている?)


 しばらく考えてみたがやっぱり分からん。

 というか分からないなら分からないで困ることはないし、それならばと今度もまた倒せば良いだけの話だ。

 それに、ここに入る前にも言ったがちょうど良い機会だからな。


「ま、こうしてアンタに会えたことはある意味良かったよ。様式美というか、やらないといけないことがあったからな」

「なに?」


 目を丸くした奴に、俺は言ってやった。


「お宅の娘さんをもらいます。絶対に幸せにしてみせます」


 幸せにするだとか、言葉だけならいくらでも言える。

 でもこれで満足するのではなく、この言葉を嘘にしないよう心掛けていくことが大事だと考えている。

 まさかこのようなことを言われるとは思っていなかったのか、驚きをこれでもかと奴は見せた。


「お父さま、私は彼と生きていくわ。妖として生まれたけれど、人の輪の中で幸せを探していきます。と言っても、彼の傍で幸せになれないなんてあり得ないでしょうけれど」

「……くくっ、耳障りな言葉だ」


 どうやら、奴にとって幸せという言葉はどうも苛立ちを覚えるらしい。

 しっかし俺の傍で幸せになれないなんてあり得ないか……ここまで言われて嬉しくないわけがない。

 輝夜の言葉によって、奴からは完全に娘に向ける感情は消え去った。

 元からなかったようにも思えるけど、それでも最後の繋がりは完全に途切れたと見て良い。


「貴様ら二人を殺し、完全なる復活を遂げよう――特に輝夜、貴様を殺してその肉体を食らえば……くくっ、その体を使うことにはなるが大して不便ではなかろう」


 これは……俺は瞬時に頭の中で今の言葉を考えた。

 もしかしたらこいつ……輝夜の体が目当てなんじゃ? というのもこうして姿が変わってないのも変だと思ったけど、そこに存在するという感じではない……まるでこの空間だからこそ存在出来ているかのようだ。


「アンタ、もしかして肉体がないのか。それで外に出るには別の体を用意する必要がある……他の体じゃダメで、血の繋がりがある輝夜だからこそ魂が適合するとかそういう感じか?」

「はっ、随分と的確じゃないか。その通り、そのためにこうして準備が出来て輝夜を誘い込んだというのに……こちらは一度死ねるが、生き返るには体が必要なのでなぁ!」

「ということはお父さま、現在のあなたを殺せば終わりというわけ?」

「忌々しいことにな」


 やっぱり、それも全部考えた通りだった。

 一度殺しただけでは消滅せず……肉体を失って魂のみになった今が唯一倒せる瞬間……ほんと良く出来た設定だよ。


(けどあれだな……もしも蒼汰たちが必死こいて倒せたとしても、後に復活していた……? あぁいや、原作だと輝夜は死んでるからその辺りはどうなんだろう? もしかして輝夜が生きているからこそ後付けみたいになったのかな)


 何はともあれ、やることは一つだけだ。


「それならここでアンタを斬る……それで終わりだ」

「そうね。伝えるべきことは伝えたし、後は引導を渡すだけよ」

「はっ! この空間で貴様らにそれが――」


 言い切る前に、俺は刀を手にして突撃した。


「がはっ!?」

「取り敢えず、これで終わりってことにしようぜ」


 俺の声は落ち着いていた。

 そもそもベラベラと喋りすぎだし、こうして俺に弱点と言えるものを口にしたのが間違いなんだ。

 それに……これからようやくって時に、こういう緊迫した瞬間は要らないと思うんだよなぁ。


「アンタを一度倒した時から鍛錬は欠かしてないさ――それに、今の俺にはあの時よりも明確に守りたいって気持ちは強いんだよ。アンタの敗因は輝夜に手を出そうとしたこと……もちろん他の誰かでも同じだけど、今回ばかりは相手が悪かったな?」

「き、貴様……人間風情が……っ」

「そんな人間風情にアンタは負けたんだよ」


 だからこれ以上、引っ掻き回さないでくれ。


「か、輝夜……っ!」

「さようならお父さま、生まれ変わってもどうか会いになんて来ないでくださいね」


 そして、最後は輝夜が完全に奴を消滅させた。

 奴が死んだことでこの空間は解除され、一応魂の残滓なんかを調べてみたが完全に消滅したことが確認出来た。

 これでようやく……本当に終わったんだ。


「お父さまはこれで完全に死んだわね……なんだか、不思議な気分よ」

「大丈夫だ輝夜」

「え?」

「俺と結婚すれば、俺の両親がお前の親みたいなもんだ」

「あ……」


 そう伝えると、輝夜は何も言わず胸に飛び込んできた。


「少なくともあんな奴よりは……って比べるのも嫌だな。とにかく、輝夜にとって過ごしやすい場所にはなるはずだ」

「そうね……きっとそうだと思うわ」


 それにしても……本当にしぶとい奴だった。

 今回ばかりは苦戦のくの字もなかったけれど、もしも輝夜に何かあったらと思うと……そう思えば、こうして俺が偶然ここにやってきたのも意味があったんだな。


「もう……帰る?」

「なんかある?」

「エッチしたいわ凄く……ここは誰も来ないし、この胸に渦巻くあなたへの愛を思いっきり発散したいの」

「っ……」


 え、エロ女がよぉ!

 突然のお誘いに顔が熱くなったのはもちろんだが、それ以上にあまりにも輝夜が可愛すぎた。


「まだ私としかしてないんでしょう? それはやっぱり、一番が私だからなのかしら?」

「そ、それはだな……」

「ふふっ、まあ良いわ。さてと、魔法で結界を作るわ――ねえ、未来の旦那様はここまでしても首を縦に振らないの?」


 ……ぐおおおおおおっ!

 俺は心の中で何とも言えない雄叫びを上げ、輝夜の作った結界の中でその後しばらく過ごし……そして今日は、彼女を初めて俺が家に招いた。

 俺の両親と輝夜の相性は悪くないようで、本当に話が絶えず楽しそうな雰囲気が伝わってくるだけでなく、祈もそこに加わって幸せな空間が広がっていた。


(……ふぅ、やれやれだ)


 俺はキンキンに冷えた麦茶を飲みながら、そんな光景を眺めて満足そうに頷く……ほんと、幸せってこういうことを言うんだろうな。



【あとがき】


次回で終わりです!

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