お父さんに挨拶行くよ~
考えることが多い時の休日ほど素晴らしいものはない。
とはいえ、ここ二日程度は彼女たち……知り合ったこの世界のヒロインたちとの出会いがあまりにも多いなと俺は感じた。
「あはは……」
「今日は愛華かよ」
そう、色々とあった翌日は早速愛華と出会っていた。
連絡を取り合って会おうと約束したわけではなく、また適当に外をブラブラしていたら愛華と出くわしたのだ。
案の定彼女も全てを知っており、興味津々に輝夜との情事を聞いてきたりしたのは……流石に俺も恥ずかしかったぞ。
「だ、だって気になるじゃん! 私だって……したいもん」
なんて、そんな風に言ってくるもんだから困ったものである。
(……ちょいあれなんだよな)
彼女たちがエロいんだと、キレのある言動は戻ってきた。
一日寝たらなんてことはなく、今日の俺なら輝夜を始め誰に出会ってもキレのある言葉を返せるはず……現にさっきみたいなことを言われ、だからお前たちはエロいんだよ考えろと声を大にして言ったからな。
「それで……今日もこれですか」
「あ、話を逸らした……ってそうだね」
俺と愛華が居るのはいつぞやのバス停で、目の前はざあざあと強い音を立てて雨が降っている。
正に以前の再現とも言うべき状況だが、今日に関してだけ言えば愛華は傘を持っているので濡れる心配はない……俺? 俺はスマホと財布しか持ってないけど?
「果たして俺と愛華のどっちが雨男で雨女なのか……」
「どっちもの可能性は?」
「大いにあるな」
「ね~」
そんなの嬉しくもなんともないが……。
雨が弱くなってくれないと外に出たくもないが、俺が動かないので愛華もここから動く気はないらしい。
ずっと続く無言の時間だが、やっぱりこういう時間も悪くない。
「……愛華」
「なに?」
「お前は……蒼汰と付き合うとかじゃなかったんだな」
「いきなりだね……あくまで幼馴染、よく言えば親友って感じかな」
「……………」
「私と蒼汰が親しくなるってのが正義君の見た未来?」
もうさ、自然に俺が未来のことを知ってたって言ってくるよね。
俺は否定することはせず頷いた……まあそれ以上のことをわざわざ語る必要はないし、愛華もそれ以上は聞いてこなかった。
「蒼汰……凄くイケメンだよね。私、自分に勿体ないなって思うくらいに素敵な幼馴染だと思う」
「ほんと、あいつはイケメンだよ俺と違って」
「あはは……蒼汰が外見的なイケメンなら、正義君は雰囲気イケメンってやつじゃない?」
「おい、あいつは全てにおいてイケメンだぞ? つうか俺へのそれはフォローなのか?」
「ごめんごめん。蒼汰のこともそうだって分かってるし、正義君のことは別にフォローとかそういうのじゃない……私は正義君の全てがかっこいいって思ってるよ」
……はぁ、恥ずかしいったらないぜ。
「つうか、自分に勿体ないとかよく言えたな? 女の子に嫌われる言い方をするなら、愛華はめっちゃ――」
「エロい女だって言うんでしょ? 大好きな人にエロいって言われても嫌じゃないね私は。むしろ好きかもね」
「っ……」
ええい、だからそうやって一々ドキドキさせるのを止めろ!
でも……こうして愛華と話していると思うのは、なるほどこれが幼馴染属性ってやつなのかと強く感じる。
「……エロいだけじゃなくて、良い女だよほんとに。接してて思う」
「そ、そういうところが正義君は誑しだよ!」
誑しじゃねえ……って言いたいけど、自分の言動を思い返したらそう言われてもおかしくないかもな。
でも誤解が無いように言うなら、俺は全部本心で喋っている。
「……私はね? ずっと正義君の傍に居た気がする……あ、妖狩りの時とかって意味ね?」
「うん? うん」
「何度も危ないことはあったけど、その度に助けてくれて……単独でピンチになっても、すぐに助けてくれて……甘やかすだけじゃなく、怒ってもくれて……ちゃんと考えてくれてるんだなって分かってさ。でもやっぱり命を助けてくれただけでも大きすぎたかな……すぐ惚れちゃった」
強い雨が降るのを眺めながら、静寂に包まれたバス停での告白。
チラッと横目で愛華を見ると頬を赤くしながらも、決して俺から視線を逸らさずに見つめてきている。
「……ほんと、逃げられねえなぁ」
「逃げる……? う~ん、仮に逃げようとしても無駄だと思うけど」
「なんで?」
「だって追いかけるもん。どこまでもどこまでも、絶対に追いついて捕まえてみせる」
そう言い切った愛華の目は本気で、同時に恐怖さえ感じさせた。
……いや、普通に妖より怖いんだが? まあ妖に恐怖を感じたことは力のおかげでそこまでないけど、それでも今の愛華の言葉はあまりにも重いというか……どこか輝夜を彷彿とさせる。
「そうか……いやぁ参ったなぁ」
参った参った……でも、腹を括るには十分だ。
俺は……彼女たちと一緒に居たい――それなら難しいことを考えるのはやめて、彼女たちが望む俺で居れば良いんじゃないかと思う。
彼女たちが俺を望むのであれば傍に居るし、俺もそれを望んでしまえば良いじゃないか。
「愛華、一生傍に居てくれって言ったら居てくれるのか?」
「それはもちろん。言わなくても居たいかなぁ」
「……よろしく」
「!!」
よ~し決めた。
俺は、彼女たちと一緒に居たい……それは絆されたと言えばその通りなんだけど、決して後に引けないから仕方なくではない。
まあ何だかんだ……俺はずっと心のどこかでそれを望んでいたのかもしれないな。
「い、今確かによろしくって!」
「あぁ……なんか不思議な気分だよ。数日前はエロだのなんだの言ってたのにさぁ」
「……それってもう、私たちにエロを感じないってこと? 魅力がないってことなの!?」
「そういうわけじゃねえよ!」
ずっとエロを感じてますがぁ!?
それからしばらく、互いに笑顔で言い合いをした後……愛華と別れて俺はあの裏山へ。
居るわけがないと思いつつも、彼女はそこに居た。
「……なんで居るんだよ」
「来ると思ったからかしら? なんてね……散歩よ」
木に背を預ける輝夜だ。
彼女はジッと俺を見つめ、言葉を催促するような視線を投げかける。
「……決めたよ。俺はみんなと……輝夜たちと一緒に居たい」
「そう……ふふっ♪ 答えは分かっていたけれど、それでも実際に聞くまでは怖かったのよ? ま、私はあなたに直接好きと言われたから確実に結ばれるとは思っていたけれどね♪」
ニコッと、そう微笑んだ輝夜に俺は肩を竦めた。
まあでもこれで本当に後戻りは出来ない……俺はこの先、彼女たちとずっと過ごしていくことになる。
それは幸せが約束されているのは当然だろうけど、それ以上に疲れそうな気もしている……何にとは敢えて言わないけど。
「……え?」
未来に向かって小さく胸を躍らせていた時だ。
輝夜が信じられない物を見たかのように目を丸くし、すぐに叫び声を上げようとした――その瞬間、俺は転生特典のトンデモパワーを使うようにあるはずのない刀を呼び出す。
それを守るように構えれば、向こうから鋭い刃が刀に触れた。
「まさか……そんな……お父さま?」
「……マジでフラグだったのか」
振り向けば既視感のある穴……妖が作り出す穴で、その向こうから感じるのは最上級妖のモノ。
途端に体を震わせた輝夜だが、俺としては本当に驚いた。
奴は確かにこの手で殺したはず……けれど、俺というイレギュラーが居るのならこういうこともあるのかもしれないって不思議なほど落ち着いている。
「怖がるなよ輝夜。なんでこうなったかは分からんけど、俺がやるのはまた同じことだ」
「正義……」
「でも、ちょうど良かったんじゃないか?」
「え?」
何がちょうど良いんだと彼女は問う。
いやだって、形式的にはやらないといけないことがあるじゃないか。
「ほら、娘さんをもらうんだから挨拶くらいしないとな?」
そう言うと輝夜はこれでもかと目を丸くし、そしてすぐにクスッと堪えきれないように笑みを零す。
「本当にあなたは……ふふっ、そうね! なら私も、お嫁さんに行ってくるから喜んでまた死んでって言わないと」
「……物騒な言い方だな」
それじゃあ、お父さまに改めてご挨拶と行きますか。
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