逆にエロいことを考えたらフラグは建たないのでは?

「うん?」

『先輩、今日はありがとうございました。それに……子供たちを交えた運動も楽しかったですね♪』


 風呂から上がった後、桜花からそんなメッセージが届いていた。


「いやはや、子供の元気ってなんであんなに凄いんだろうなぁ」


 夕方のことを思い出し、俺はそう言って笑みを浮かべる。

 というのも桜花と話をした後、こちら側にサッカーボールが転がってきたので、それを返す流れで何故か俺と桜花も遊びに加わったのだ。

 しばらくサッカーなんてやってなかったので俺はもちろんだけど、桜花も幼い子供たちと遊ぶのはよほど楽しかったのかサッカーボール級のバストをこれでもかと揺らし、子供たちの親御さん仲を引き裂こうとしていたほどだ。


「お兄ちゃん、入っても良い?」

「おう」


 桜花に返事をしてすぐ、祈が部屋にやってきた。

 相変わらず……というかかなり気に入ったのか、あのハートの穴が開いているパジャマ姿である。


「……なあ祈」

「うん?」

「そういう服を着てるのも……その……あれか?」

「アピールだよ?」


 やっぱそうかぁ……やっぱそうかぁ!

 いや、そうでないかと思わなかったのは……思いたくなかったのは実の兄妹だからだ。

 正直なことを言えば俺は祈のことを好いている……愛していると言っても過言じゃない――でもそれは家族だから、妹だからだ。

 親愛はあっても男女間における愛はないと……それは今も変わらないとは思っている。


「その……私はお兄ちゃんの妹であることに満足してるの。他の誰もがなれない妹という立場がね……でも、やっぱり色々と話を聞いていくとそれだけじゃ満足出来なくなっちゃった。私ももっと、もっとお兄ちゃんと近い場所に居たくなったの」

「……………」


 胸に飛び込んできた祈を抱き留めた。

 今までも感じていたドキドキ……それは祈からの明確な好意を認識した後だからなのか、強く感じてしまう。

 見上げる祈の瞳には期待と不安が混ざっていた。

 俺に拒絶されるのではないかという不安と、俺に受け入れてもらえるのではないかという期待。


「なあ祈……お兄ちゃん色々大変だぜ」

「そうだね……それは凄く感じてるよ。でも……私は伝えておきたかったから……ずっとずっと言いたかったこと……もちろん好きとは何度も言ってたけど、兄妹としてのモノじゃなくてね」

「あぁ……そうだな――まあ何というか、現状で返せる言葉としては適切なものが何かは分からん。ただそれでも、祈が好きで居てくれるのは凄く嬉しいことでそれは俺も同じだ」

「あ……」

「これからも、お兄ちゃんの傍に居てくれるか?」

「……うん!」


 ま、色々と突然すぎたので今はこれで許してほしい。

 つっても既に俺の中で祈はもうずっと一緒に居たいと願う存在になっているけれど……それでもまだ、実の兄妹だからという気持ちが残り続けているからなぁ。


(……マジで嘘じゃなかったし)


 会長が言っていた実の兄妹でも大丈夫という例外中の例外について、それをネットやSNSで調べたらマジだった。


「……えへへっ」

「どうした?」

「ううん、こうして気持ちを知ってもらうのは恥ずかしいけど……今までにない幸福さがあるんだなって思うの」

「それは……そうかもな。俺も輝夜には似たようなもんかもしれない」

「輝夜さんかぁ……お兄ちゃんって輝夜さんにはどこか特別な何かを持ってるの?」

「ま、かもしれないな」


 その点についてはちょこっと誤魔化す。

 昨日の今日なので輝夜には会ってないけれど、あのサキュバスさえ凌駕するエロ女兼大好きでたまらない子に俺はどんな顔をすれば良いのか……ちょっと今から怖くなってきたぞ。


「でも輝夜だけが特別だってそういうわけじゃない……っていうのもどうなんだろうって気はするけどなぁ!」

「う~ん、お兄ちゃんとしてはやっぱり複雑か」


 複雑も複雑だししばらくは悩み続けるだろうよこんちくしょうが。

 それでも知り合った彼女たちに離れないで良い未来があるならそれを望んでもみたいし……とにかく、今は思うがままに動いてみるとしよう。


「ところでお兄ちゃん」

「なんだ?」

「夕方にすっごく汗を掻いて帰ってきたじゃん? 桜花さんと会ったっていうのは聞いたけど……エッチなことをしたわけじゃないんだ?」

「外だぞ? いくらこの世界が俺にとってエロに溢れまくってるとはいえそんなこと出来ねえよ」

「じゃあ運動しただけ?」

「子供たちに交ざってサッカーを少しな」

「へぇ……あの桜花さんとサッカーなら、色んな意味で別のボールを蹴りそうになったりしない?」

「祈も意外と酷いことを言うようになったな……」


 もちろんジョークであることは分かってるけど。

 それから祈と兄妹水入らずで……新しい気持ちで一緒の時間を過ごし、今日は俺から彼女に一緒に寝ないかと提案した。

 そう聞いた時の表情は正直笑ってしまうくらいにポカンとしており、すぐにもちろんと頷いてベッドに飛び込んだくらいだ。


「一緒に……寝るだけ?」

「勘弁してくれ」

「……じゃあ今度ね」


 実の妹に今度ねと、ベッドの中で切なそうに言われる兄貴って全国探しても俺くらいでは?

 別に自慢とかマウントとかそういうのじゃなくて、単に普通じゃあり得ない経験という意味での話だ。


「でも……お兄ちゃんと気持ちが通じても、一緒に戦えるわけじゃないから……私はずっと待つ側だね」

「それはそれ、これはこれってだけの話だ。たとえ祈が妖狩りだったとしても、俺みたいに戦えたとしても……俺はそれでも嫌だって思うかもしれないな」

「それは私がいつも思ってることだよ?」

「分かってるさ……だから力を持ったのが俺だけで良かったと思うんだ」


 もしも祈まで妖狩りになってたから毎日不安で仕方なかっただろうさ。

 それこそ彼女を絶対に一人で行かせたりはしないだろうし、そもそも俺がその分戦うから武器を捨てろとも言いかねない。

 人がやろうとしていることを個人の感情で潰すのはダメだと分かっていても、それだけ俺にとって祈の存在は……家族の存在があまりにも大きいのだから。


「……でもよ」

「え?」

「ドサクサに紛れて俺の手を胸に持ってくのやめない……? これでも良い匂いとかして必死に我慢してるんだぞ?」

「我慢……する必要あるの? なんちゃって」

「本当に俺の気持ち分かってくれてるぅ!?」


 この妹め……中々やってくれるじゃないか。


(けど……平和で良いねぇ。最上級妖が死んだだけでこうなるのか……まあ当たり前だけど。この先は俺さえ知らない世界……死んだはずの最上級妖が生き返ったりとかそういうことが無ければ良いんだけど)


 なんというか、こういう話にありがちなのがボスの復活だ。

 わざわざ自分で想像してフラグのようなものを建てる必要もないなと苦笑し、少々開き直って祈を強く抱きしめて眠りに就くのだった。

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