淫乱ギャルピンクも時には真面目に……ならねえな

 婚姻届けにサインをするかはともかくとして、突然だということは会長も理解してくれたし、そもそも色々と彼女の体には余韻が残っているとのことで今日は既に帰った。


「……怒涛の日々だぜ」

「ふふっ、それにしても妖狩りというのは色々あるのねぇ」


 何やら話があるとして、祈と父さんが出かけて行った後のことだ。

 残った俺は母さんと過ごしているわけだけど、母さんは手に持った婚姻届けをジッと見つめている。


「母さんは……」

「うん?」

「変って思わなかったの?」


 これは……まあ聞くことだよな。

 いくら妖狩りならば実の妹とも……家族と結婚が可能であるとはいえ、普通ではないのだから。

 この世界に普通がどうとか言ってても仕方ないけど、それでも母さんはどう思ったんだろう。


「別に思わなかったわよ? むしろ安心したのもあるかしら」

「安心?」

「えぇそうよ。祈が正義のことを好きなのは分かっていたし、娘のことを考えたら立派な人に嫁いでほしいじゃない? それが正義であることの何が不満なの?」

「……そこまで言うんだ」


 父さんもそうだけど、母さんからの信頼もとにかく厚いらしい。

 というかこの流れだと既に祈と俺が結婚することが反対なだけでなく、むしろもうその通りになると疑ってないのか……。


「……………」


 頭の中に、輝夜が直接語り掛けてくるようだった。

 こんな風に外堀を埋められてお前はどうするんだと……俺は現状に関してどうしたいんだろうなぁ。


「輝夜ちゃんだったかしら? その子とはもう気持ちを伝えたったみたいだけれど……あなたの答えが何より大事だと思うわ――どんな答えを出したとしても、彼女たちはきっと受け入れてくれるんじゃない?」


 ……そうは言われてもねぇ。

 その後、部屋に戻ってから色々と考えてみた――この世界に来てから一心不乱に戦い、その戦いが終わってからは常に煩悩に悩まされながら……でもそうして過ごす中で、彼女たちと過ごす時間が嫌だったかと言われたらそんなことはない。


「……そりゃそうだろ」


 好きに……決まってんじゃん。

 もちろん一番は輝夜だけど、他の面々にもそれはもうお世話になった下の意味で。

 この世界に初めて来た時、力があるなら守ってやると誓った。

 そうして頑張りまくる中で知り合った彼女たちを守りたいと、そんな気持ちが更に強くなったのは言うまでもなく……本来部外者であるはずの俺が生徒会に入り、毎日を楽しく過ごしていたのは彼女たちが居たからだ。


「まず、会長が卒業して……次は俺と蒼汰に愛華……あぁ今はもう輝夜もそこに入るのか」


 最強世代と言われた俺たちも別れがやってくる……それを考えると何とも言えない寂しさが胸に溢れてくる。

 輝夜を含めた彼女たちだけじゃなくて、蒼汰も……他の友人たちとも仲良くなったし、別れはいつか来るとは分かっていてもやっぱり寂しくて。


「……………」


 こんなの……ただの気の多いクズじゃねえかよ。

 そんな風に若干の憂鬱になりつつも、決して想いを向けられることが嫌ではないので男心が刺激されてニヤニヤしてしまうのも仕方ない。

 ……あれなのかなぁ?

 彼女たちがエロい様を見せ付けてきたことに対し、必死に抵抗していたのは俺自身が惹かれないため……純粋なこの世界の人間じゃない自分に対する戒めだったのかな?


「でも……それにしては会長を筆頭に愛が重たい気もするんだが」


 なんかこう……恋愛って甘酸っぱいものじゃん?

 それなのに会長もそうだけど桜花とか勢いがヤバいし、輝夜に至っては絶対にそうなるんだと信じて疑わないくらいの詰め寄り方だったし……祈も実の兄妹とか知ったことかと言わんばかりに、思い返してみればそういう仕草が多かった。


「俺……なんも気付こうとしてないじゃん」


 いや、一つだけ弁明させてもらいたい。

 俺は自分がモテるとか思ってないし、複数の女性に想いを寄せられるほど出来た人間じゃねえんだ……イケメンでもないし、俺がやれることは彼女たちのために……守りたい存在のために力を振るうなんていう単純なことだからな。


「……ちょっと出かけてくるか」


 少し、外の空気を吸いに行こう。

 家に残る母さんに一声掛けた後、俺は家を出て当てもなくブラブラと足を進めて行き……そしてとある公園に着くと、見覚えのある女の子の姿があった。


「お姉ちゃんありがと~!」

「いいんだよぉ♪」


 小さい男の子の頭をよしよししながら笑みを浮かべる桜花だった。

 俺と接する時と違って色気がないというか……いや、今のあいつの服装も露出が激しすぎるし足ふっといけどそれが良いというか……とにかくエロの化身と言っても良い。

 けれど桜花の笑顔は純粋なもの……あいつ、あんな笑顔が出来たんだなとは言わないけど可愛いじゃねえかよ。


「……ってあれ?」


 その時、桜花が俺に気付いた。

 彼女はふと、自身の手を見つめたかと思いきやいきなり目の前まで走ってきた。

 ぶるんぶるんと胸を揺らしながらの駆け寄り方に、子供と一緒に遊んでいた父親の視線をガッツリ奪っている。


「ち、違いますよ先輩! あたしはショタコンとかそういうのじゃないですからね!? あたしはちゃんと毎日、先輩のことを思い浮かべながら一人でオナ――」

「言わせねえよ!? というか小さな子供たちが居る公園でお前は何を言おうとしてんだ!」


 彼女の言葉を止めた俺はパーフェクトな男だと思う。

 もしも俺が思った通りの言葉が放たれていたとしたら、彼女と向き合う俺もそうだし桜花もそうだし、何よりそれってなあにと子供に質問をされる親御さんたちも火傷を負ったに違いないからな。


「……ははっ」

「先輩?」


 ……まあでも、普段と変わらない勢いの桜花が今はとても良い。


「ほんと、お前はいつも変わらないな……でもそういうところが桜花の良い部分なんだと思うよ」

「ちょ、ちょっといきなりなんですか? 風邪ですかまた……?」

「人がいつもとちょっと違うだけで失礼じゃねえか……?」

「だって先輩ですもん」


 取り敢えず座りましょうと言って、桜花は俺の腕を抱いた。

 そのまま特大サイズの柔らかさを存分に当ててきたことに、俺の中の眠れる狼が目覚めそうになったが……やっぱ今の俺は少し賢者入ってる。


「聞いてるか?」

「会長からのことですか? あははっ、先輩がついに観念するかもしれないって話ですねぇ」

「……………」


 なんだ、やっぱりみんな知ってんのかよ。


「正義君を堕とし隊ってグループチャットがありますからねぇ。あたしを含めてみなさんそこで知ってますよぉ?」

「初耳なんだけど!?」


 なんそれ詳しく……いややめておこう何を書かれてるか見たくねえや。

 それなら話が早いなと俺は切り出し……けれども言葉が止まったのはこういう状況になれてないからだ。

 桜花もそれに関しては分かってくれているようで、いつもみたいに誘惑全開で迫っては来なかった……それどころか、彼女は落ち着いた雰囲気で言葉を続けた。


「ねえ先輩? あたしはしつこく言わないですよ――ただ一言、あなたに伝えさせてください。大好きです……心の底から、あたしは先輩のことが好きです」

「……おう」

「……あははっ、流石に今回ばかりは先輩の心内も理解出来るので大変そうだなって思います。でも改めて言いたかったんですよねぇ……ま、いつだって言いたいんですけど」


 ニコッと、笑った桜花はやっぱり可愛かった。

 ドキッとするような仕草は今まで何度も見てきたはずなのに、今までとは違う感覚でドキッとした。


「最初は、みなさんとシェアというか……そういうのはあまり考えてなかったんです。先輩が誰を選んでも奪う気満々でしたし、先輩がなんと言おうと篭絡する気でしたし」

「改めて聞くと怖いな」

「だってそれがあたしですもん。あなたに命を救われ、優しい言葉と勇気と強さをもらった……あなたが居なければ、あたしはきっとこうして存在していません。先輩があたしの運命を変えたんです――先輩はあたしの運命の人です」


 ……ヤバイ、あまりに真っ直ぐな気持ちすぎて頬が熱い。

 でも……俺自身も認めるしかないのかもな――ここまで来た以上、こうして彼女たちと向き合い関係を構築してきた以上……命の危険という極限の中で培ってきたものを手放したくないんだって。


「先輩、きっと気が多いとかで悩んだんじゃありません?」

「分かるのか?」

「分かりますよ。だって先輩優しいですし……ま、その辺りのことは気にしないで良いんじゃないですか? だって法律というか、妖狩りにおけるルールが容認していますし、先輩のことをみんな大好きですから」

「……俺も好きなんだよたぶん……いいやきっとそうだ。それこそずっと前から」


 やっと、自分のしたいことが明確になった気がする。


「開き直って良いと思いますよぉ? 英雄色を好むという言葉がありますけれど、先輩は文字通り世界を救った英雄なんですよ? 後世に語り継がれてもお釣りが来るほどの偉業を成し遂げたんですよ? だから良いじゃないですか! 小さいことは気にせず、狼さんを解き放ってズッコンバッコンしまくっても! 何なら今からあたしとしましょうよほら!」

「……ほんと、変わらないな桜花は」


 けれど、こうして桜花と話が出来たのは良かった。

 俺がそれから家に帰ったのは一時間後くらいだった……ふぅ。

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