おかしい……俺の知らない設定がある!?

 まずは一旦、全ての事情を整理するべく祈と会長を部屋に入れた。

 俺を見つめるように並ぶ二人ではあるが、そんな俺たちの間には婚姻届けと……どうやらこれは幻覚ではなく、本当に会長が持ってきたもののようだった。


「……はぁ」

「お兄ちゃん、ため息を吐くと幸せが逃げるよ?」

「……誰のせいだと思ってんのさ」

「誰のですか? あなたにそのような気持ちを抱かせる者、わたくしが排除してきますが?」


 だとしたら自分で自分を排除することになるけど……ま、早速本題に入ることにしよう。


(輝夜のこともあって疲れてるし……)


 一番はとにかくそれだった。

 輝夜との出来事は間違いなく嬉しかったし、疲れよりも癒しの方があったのも本当だ……でも、それ以上にこれからのことを考えるとやっぱり疲れの方が圧倒的っぽいからなぁ。


「それで、会長はどうしてここに?」

「……えっとですね」


 ……うん?

 会長がいきなり顔を赤くしたことに俺は首を傾げ、何か知ってるかなと思い祈に視線を向けた。

 ただ祈も突然の会長の変化はよく分からないらしく、フルフルと首を振っていた。


「少しこちらに来てもらっても良いですか?」

「え? あぁはい」


 取り敢えず祈には聞かせられない話らしい。


「その……こうしてここに来たのは、あなたの意思が固まったというのもありますけれど、それ以上に輝夜さんが羨ましかったんですよ」

「ちょっと話が見えないんですが」

「……昨日、輝夜さんとしたんでしょう?」

「っ!?」


 わっつ!?!?

 そのこと自体は何も間違ってないし、祈に察せられないように表情に一切出てないのも褒めてほしい。

 でもなんで……?

 まさか輝夜……知り合いに言い触らしてるとでも!?


「輝夜さんの住居を用意したのはわたくしということで、今までに何度かお礼をされましたがまた昨日それをされたのです」

「は、はぁ……」

「今日こそ正義君を堕としてみせるからと言って、昨日一日自身とわたくしの感覚共有をしたのです。妖の力を使うことでですね……だからその、わたくしは昨日ずっと落ち着くまで寝れなかったんです」

「……………」


 な……何をしてんのあいつはああああああっ!?


「お礼というのは、輝夜さんと同時にあなたを感じるというもので……もちろんわたくしも最初は何が何だか分からなかったんです! ですが彼女はこれもお礼の一環だと言って、それで……っ!」


 顔を真っ赤にする会長を見つめながら、俺は妖の設定を思い出す。

 確か己の体に女を取り込んだままアレをすることで、どちらの感覚も抱かせながら云々のシチュエーションがあったなそう言えば……今回のことはそれと違うものの、妖である輝夜だからこそ他人との感覚共有することで……って冷静に分析してるけどマジで何してんのあいつ!?


「で、ですがわたくしたちはいずれ結婚するのです! ですからたとえ夢のような……文字通り夢のようでしたけど! それでもわたくしが愛するあなたとセックスを疑似体験したのは間違ってないのです!」

「ちょっと!?」

「……何を話してるの?」


 ついに会長も頭がおかしくなってきたぞ……いや元々だわこれ。

 相変わらず顔を真っ赤にした会長は、上に羽織っていた一枚の上着を脱ぎ、先ほどまで隠されていた自慢の横乳を見せてきた。

 ご丁寧に絶妙な角度から下着の色も見えたりで、とにかく暴走しているのが手に取るように分かる。


「だってあなたは言ってくれたではないですか!? これからもずっとわたくしを見守ると! それはつまり結婚してずっと一緒に居るということでしょう!? あなたはわたくしを娶るつもりだと、出会ってすぐに言ってくれたではないですか!!」

「言ってないけどぉ!?」


 マズイ……いつも以上に会長がおかしくなってるぅ!?

 ま、まあ輝夜からこんな俺を好いてくれている……なんて実際に話に聞くだけじゃ信じられなかったことも教えてもらったけれど、それでもここまでとは思っていなかった。

 というか、複数の女性に想いを寄せられるだなんてそんなこと……普通に過ごしてたら経験なんてするはずがないだろ……?


「とにかく! 正義君が好きです……もう止まりません絶対に結婚までするんですからね!? 正義君は知らないだろうし、そもそもまだ表に出ていませんけど妖狩りの婚姻制度も変わろうとしているんです! ですから重婚とか全然大丈夫なんですよ!」

「だから落ち着いてくれぇ!? 一からまず話してくれぇ!?」


 でも……好きと言われたことは嬉しかったので、ありがとうございますと照れながらお礼を口にした。

 そこから会長の様子は一転し、詳しいことを話してくれた。

 まず、俺の家みたいに例外は数多くあるが、基本的に強い妖狩りの遺伝というのは濃く受け継がれるようで、最上級妖が消え去ってもまだまだ妖の脅威はなくならない……それはつまり、以前ほどの脅威はないが同時に完全に無くなるわけではないという証明であり、これから先も妖との戦いは避けられないということで、妖狩り限定ではあるが、結婚制度の見直しなんかが議論されているのだとか。


「一応、ここ日本なんだけど……?」


 いや、厳密には俺が居た日本じゃないし化け物も居ないけど……。


「それでこうして色々とお話をしに参上したというわけです! 祈さんも心から喜んでくれましたし、ご両親も乗り気でしたからね」

「……うん。私もお兄ちゃんと結婚出来るならしたいし」


 ……??


「祈、俺たちは実の兄妹だぞ……? 実の兄妹で結婚は……」

「妖狩りの正義君とそうでない祈さんだからこそ問題ありません。これも最近分かってきたことで、確かに血の繋がりはありますが遺伝子に若干の違いがあるようでして……その辺りのことは話し出すと長いですし把握出来ていない部分もありますが、とにかく正義君は妖狩りとして力を持った人間ですので祈さんとの結婚は事実上可能です」

「そういうことらしいよ? だから私、凄く嬉しかった」

「……………」


 ごめんなさい。

 俺、もう少しこの世界について勉強させてもらって良い? 座学を疎かにしたつもりはなかったし、何よりこの世界に関しては普通より知ったつもりで居たけどまだ勉強不足だったらしい。

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