気付けなければいけないけどやっぱりエロいのよ

「俺は……エロいことがしたいのか?」


 一人、部屋で俺はそう呟く。

 自室には俺だけなので何を呟こうと自由だし、誰かに聞き耳を立てられている心配もないので大丈夫だ。

 さて、どうしていきなりこんなことを呟いたかなのだがちゃんとした理由がある――最近の俺は、この世界のエロ女共たちの度重なる誘惑を跳ね除けているだけでなく、何があっても襲わないようにと常に警戒を怠っていない。

 共に戦った仲間たちだからこそ大切なのもある……この世界において襲うのが当たり前、やることやって気持ち良くなることこそが正義みたいな世界だとしても、清き青少年としての心を持っているからこそ俺はそれがダメだと考えている。


(でも……そもそも俺はエッチなことが好きだ。経験がなくても憧れみたいなのはあるし、まず前提としてこの世界は俺のやり込んだゲームの世界で、ヒロインはみんな美人だし可愛いしで嫌いなわけがない)


 推しは輝夜である……と言うのは当然として、俺に彼女たちをランク付けするような資格はないが、他の子たちもそりゃ魅力的だ。

 近付くなとかエロ過ぎるとか色々言ってるけど、それはつまり彼女たちがあまりにも魅力的過ぎるわけで……エッチなことがしたいかどうかは一旦置いておくとしても、ああいう子たちとイチャイチャ出来るならしたいかと言われたら……そりゃしたいわけで。


「そりゃしたいだろ……エロいこと」


 俺だって男の子だもんエッチなことしたいさエチエチな絡みとかしてみたいに決まってんじゃん!

 でも……でもさ?

 確かにこの世界はエログロ上等世界だよ?

 ラスボスが消えて過去形になったようなものとはいえ、それでも妖に敗れたら女が苗床になるってのは変わらないみたいだし、現在でもそういうのが発見されたりはしているわけで……何度も言うがそういう世界であることは変わらない。


「……………」


 身近の女たちにエロさを感じ、体を押し付けてきたり際どい部分を見せ付けてきたりと、そんなことをするならこっちこそやってまうぞと常に思っているし、そうならないように鋼の意思で自らを抑えつけている……そもそも俺はどうしたいんだろうか?


「……ふむ」


 エッチなこと……してみたい。

 というか発散したいから風俗に行きたいと思ってるし、毎晩毎晩迫りくる彼女たちを妄想して……げふんげふん。

 とにかく!

 俺はエッチなことに興味はあるし、やれるならやりたい……そんなことを考え続けて時間を浪費するのだった。

 そして、夜になり妖の気配を感じ取って出撃の果て……なんやかんやあって輝夜と合流し、彼女と一緒に妖を狩り終えた後に事件が起きた。


「お、おいお前!」

「ふふっ、大変なことになったわね」


 目の前でニヤリと笑う輝夜。

 俺と輝夜が入り込んでしまったのは……まあ言葉で表現するならぶよぶよとした肉壁に囲まれた部屋で、俺はこの部屋に見覚えがある。

 これは妖が女を引き入れる際に用いる部屋で、妖の穴とそこまで見た目は変わらない場所だ。


「さてと、それじゃあやりましょうか」

「やるって何をさ」

「楽しいことよ。ほら、あなた学校で言ったじゃないの――セックスをしないと出られない部屋に入ってしまったらやるしかないって」


 ……彼女は一体何を言っているんだい?

 俺はしばらく、ポカンとしたのは言うまでもない。



 ▼▽



 夜になり、妖を狩るために出撃して全てが終わったと思えば、輝夜にトンと背中を押されてこの部屋の中へ入ってしまった。

 まあ、全力全開で叩き切ればここから出ることは容易だ。

 だがしかし、いきなり桜花が見ていた部屋の再現をしたとか言われたらそりゃ動きが止まるというものである。


「……なんだって?」

「だからセックスをしないと出られない部屋よ」

「……はぁ」


 ごめん、もう一回言うよ。

 彼女は一体、何を言っているんだい?


「何を言ってるの?」


 あ、実際に声に出てしまった。

 突然のことにキレのある言葉は出てこないが、それでも彼女が言っている言葉の意味は理解している。

 ……逃げるか?

 エロ女最終形態である着物姿……本当にいつ見てもエロいし、そもそもこの部屋には特殊な匂い……おそらく媚薬に類した何かの香りが充満している。

 このままここに居たら俺の中の獣が暴れ出すだけでなく、今度こそ確実に息子が立ったを隠すことが出来ない気がする。


「あぁ、逃げようなんて思わないでね? この部屋は私の肉体とリンクしているの……もしもここを切り裂いて外に出ようとしたら、私のお腹もバッサリ切れちゃうから勘弁してちょうだい?」

「何してんの!?」


 そんな設定あったかなと首を傾げたが、妙に真剣な空気を輝夜が醸し出すせいで刀から手を離してしまった。

 そうして無防備に押し倒されてしまったのはきっと、以前からも言っているように輝夜を敵として認識ていないからなのと、それ以上に驚きの方が強かったんだ。


「さっき言ったこと、少しオーバーだけど嘘でもないの。だってこうでも言わないとあなたは簡単にここから出てしまうから」

「そりゃ……そうだけどさ」


 そりゃ逃げますとも……だってねぇ?


「ねえ正義? どうしてあなたは逃げようとするの? 私は自分のことを極上の女だと思うし、他の子たちもそうだと思うのよ。それなのにあなたは全然靡こうとしないのはどうして?」

「どうしてって……靡いちゃダメだろ。俺は――」

「俺は、なに?」

「……………」


 この世界の人間じゃないから……そうボソッと呟きそうになって瞬時に言葉を飲み込んだ。

 こんなことを話したところで意味はないし、そもそも本当に意識せずに言葉が出てしまう所だった……というか、こんな風に押し倒されて何も抵抗しないのは俺らしくもないぜ!

 いつものようにサッと体を起こし、キレのある言葉で応戦しようとした俺だったが、輝夜は肩に掛かる着物を脱ぐ……ぼろんと目の前で圧倒的なまでの膨らみが姿を見せた。


「っ!?」

「正義、あなたに一つ言いたいことがあるのだけど?」

「な、なんだよ……」


 視線を逸らそうとしたが、グッと頬に手を添えられて正面を向かせられた。


「あなたは色々と言って私たちを煙に巻いているけれど、こうは思わなかったの? もうハッキリ言ってしまうわね――私たちが、私があなたに好意を抱いているから誘惑しているんだって」

「……??」

「そこで首を傾げるのがあなたの良い所だなんて言わないわよ。やっぱり分かっていなかったのね……鈍感というより、何か理由があってその答えに辿り着かないようにしていたのかしら? そんなことはあり得ないからと、だからそんなことはないんだと必死に考えるようにしてね」


 ま、待て……ちょっと待ってほしいと輝夜の肩に手を置く。

 そのまま勢いよく体を押そうとしたがやはり、彼女の勢いに負けるように唇を塞がれた――他でもない輝夜の口によって。

 突然のことに呆然としてしまった俺……顔を赤くしていつもは絶対に見せない照れ顔を披露する輝夜。


(……可愛い)


 思わず、そう思った。


「愛してるのよ正義――あなたが欲しくてたまらないの」

「……え?」


 愛している……俺を?

 何の冗談だと、揶揄うのを止めろとは言えなかった……だって輝夜の照れたようでありながら真剣な言葉に、聞かないフリをして誤魔化すのは直感で失礼だと思ったから。

 肩を震わせ始めた輝夜は、まるで溜め込んでいたものを吐き出すように言葉を続ける。


「そもそも! あなたはどうして私たちが好意を持っているって答えに至らないの!? あなたは私に多くのことを教えただけでなく、命を助けてくれたのよ!? あなたは自分がしたことをよ~く思い出しなさい。それで好意を抱くなんて嘘だと言ってみなさいよぶっ飛ばすわよ!?」


 その必死の叫びに、俺は……。

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