アレをしないと出られない部屋とかエッチすぎるだろ
まだ最上級妖を倒す前のことだ。
正義が本人で言うところの頑張りまくっていた頃、この世界における最強の一角――心を読む上級妖との戦いにおいて、正義はトドメを刺す寸前に妖と会話をしている。
「……貴様は何者だ。何故、こんなにも強い?」
「俺だからだよ」
「……なんだその返答は」
心を読む妖とはいえ、それだけが取り柄ではない。
上級妖としての力は本物だし、たとえ心を読まずとも人間を圧倒する力を彼は持っていた。
弱い人間との戦いが退屈だと、そう考えていた彼にとって正義という存在との戦いは心躍るモノだったようで……ただ心を覗いた時、己を殺すとしか考えていなかった心には恐怖したみたいだが。
「それだけの力があればなんだって出来るだろう? 力によって支配することも、無数に女を抱くことも……ましてや、金なんてものも容易に手に入るはずだ」
妖の甘言に、正義は頷くこともしなければ目の色を変えることもせず、ただため息を吐くだけだった。
「力によって支配とか面倒なことしたくねえし、無数に女を抱いても疲れるっつうか……病気とかあったら怖いだろ。金はまあまああるけど、最近の高い買い物は冷凍庫くらいだ」
正義には欲が一切なかったが、それは妖からすれば未知の生物を見るような感覚だった。
妖も人間も、力があればそれ相応に気を大きくすると思っていたからこその反応で、本当に妖にとって正義は不思議な存在だったのだ。
「貴様に欲はないのか?」
「あるぞ? 今はただ、お前を殺すって欲が」
「……ふっ、そうか」
元も子もない言葉だが、妖は笑った。
こうして言葉を交わすことが出来ても、正義は目の前の妖を殺す以外の選択肢はない……というのも、正義はこの妖の危険性を知っているから。
(お前は生かしちゃおけねえ……絶対にこの場で殺す)
やはり、どれだけ読んでも心内はそれだった。
そしてこの瞬間、このような並外れた強さだけでなくただ一つのことを我武者羅に貫くからこそ、強いのだとも妖は悟った。
『きっとあなたでも彼には……正義には勝てないわ。彼は誰よりも……お父さまよりも強いのよ。だから私は……って、彼の方がお父さまより強いのであれば私も殺されるというのに何を言ってるのかしらね』
妖の姫である輝夜がここまで言うとは、そう驚いたのも確かだ。
そしてそんな風に言う正義がどんな存在であるか、それを確かめたかった……何故確かめたかったか――それはもしかしたら、輝夜を救ってほしいと思ったからなのかもしれない。
決して語られない真実であり、正義も知らないこと――輝夜が人間に恨みを持つ原因になった出来事、それは実の父である最上級妖によって齎されたということを。
「人間……いや、正義と言ったか」
「名乗ったっけか?」
「姫様を通じて知っているだけだ――お前は、どこまでも強い男だな」
「妖に褒められても嬉しくはねえが……ま、妖の中でも強いアンタに言われるのは光栄だよ」
そうして刀が振り上げられ、妖は正義に斬られた。
「……姫様を……守ってくれ」
「……はっ、言われずとも守ってやるさ――なんせ輝夜は推しだからな」
その時、妖は最後に正義の心を見た。
今まで戦っていたのが嘘なくらいに、彼の心に殺意はなく……それどころか妖の全く知らない明るい世界が広がっていた。
輝夜が推しという言葉の意味は理解出来ないが、正義が生半可な気持ちで戦っていたのではなく、全てを守ると考える一種の馬鹿であることも妖は理解した。
(……くくっ、妖である俺がただの馬鹿に負けるか……まあだが、勝てそうもないな……馬鹿は馬鹿でもこのような大馬鹿にはな)
正義は知る由もないが、妖もまた散り際の心は晴れやかだった。
この世界に正義が転生し好き勝手暴れたことで、何も変化を起こしたのはヒロインたちだけはなく、戦った一部の妖もそうなのだろう。
もしかしたらもっと平和な戦いの終わりもあったかもしれないが、それももう終わった話である。
▼▽
「……ふむふむ」
生徒会の会議が早めに終わり、もう少しみんなでゆっくりしようかとなって思い思いに過ごしている。
そんな中、スマホを見ている桜花が何やら熱心に頷いていた。
「何見てんだ?」
「あれぇ? 気になるんですかぁ?」
「前に座ってたら嫌でも気になるんだよ。というかちゃんとボタンを留めて捲れているスカートを元に戻せ淫乱ギャルピンク」
そう言うと、桜花は更にヒラヒラとスカートを揺らしてボタンを更に外していく……隣に座る蒼汰が視線を逸らすが、俺は絶対に逸らさない!
「だからなんで逆にそうすんだっての! お前さぁ、もうちょい年頃のレディとして羞恥心を持てよ!」
「ねえ先輩? 妖との戦いでそういうことは目にしまくってるし、何よりあたしはああいうことがあったしさぁ? 今更羞恥心を持てってのが無茶な話だと思いますけどぉ」
ドヤ顔で言うことじゃねえよぉ!?
とはいえあの植物状態をこんな風に笑い話に出来るのは……果たして良いことなのか悪いことなのか分からんぜ。
にんまりと笑った桜花はぴょんと飛び上がり、そのまま俺の隣へと座ってスマホを見せてきた。
「実は、こういうのを見てたんですよぉ」
「……エロ漫画じゃねえか」
桜花が見ていたのはエロ漫画で、具体的に言うと男女のアレをしないと出られない部屋系のやつである。
「先輩はぁ、もしもこういう部屋に入ったらどうしますぅ?」
「女の子がそういうことを聞くんじゃねえよ……」
「まあまあ答えてくださいよぉ」
「……………」
アレ……セックスしないと出られない部屋に入り込んだらどうするか。
そんなの部屋を叩き切って出るなんてのはダメだろうし……ま、そういう部屋に入ったらやるしかないんじゃないか?
「そこはまあ……やるしかないんじゃね? 一生出られないんだとしたら相手もじゃあやろうって言うだろうし」
「ですよねぇ!」
「……やるのね?」
「やるんですね?」
「やるんだね?」
え、なに……?
答えた瞬間に向けられる多くの目に、俺は思わず蒼汰の背に隠れたくなるほどだった。
だけどまあ……そう言う他なくない?
何をやっても出られないのならやるしかないだろ……? まあ俺はそういうの全く経験ないし、部屋を出た瞬間にこの下手くそってビンタされるまでがセットだろうけど……言ってて悲しくなったわ。
(何だろう……凄く嫌な予感がする)
俺が感じたその予感……それは、その日の夜に的中するのだった。
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