滝行の場でもエロいハプニングばっかり!

「あれ、お兄ちゃんどこ行くの?」

「滝行だ」

「……え?」


 俺はそれだけ言って家を飛び出した。

 本日は土曜日ということで、特に予定もない俺からすれば暇でしかない一日と化す……まあ普段のムラムラを解消する意味も込めて、エッチな動画なんかを漁るのも一興だが、やはりこのムラムラとした気持ちを制御出来てこそではないかと考えた。


「……ふっ、充実した一日になりそうだぜ」


 祈に伝えたように、今日は滝行をしようと考えている。

 今までに何度か足を運んだことがある場所で、時々だけど近所の坊さんと一緒になることもあり、その縁もあって滝行仲間は意外と多い。


「到着っと」


 本格的な夏も近いので気温は高く、少し走っただけでも汗だらだらだ。

 服が汚れてしまうことに気持ち悪さを感じはしたものの、こうしてすぐ水に体を濡らすのならば気にならない。

 ざあざあと喧しすぎる音で水が叩きつけられており、いくら滝行にもってこいとはいえ経験しているから分かるがそれなりに衝撃はある。


「よっこらせっと」


 前に坊さんがご厚意でくれた行衣を身に纏い、いざ滝の中へ……っと思ったのだが、そこで別の声が響く。


「あら、正義?」

「正義君じゃないですか」

「……はっ?」


 おかしい……ここで聞こえるはずのない声が聞こえたんだけど?

 いやいやあり得ないそんなこと……そう思って振り返ると、何故かその場には輝夜と会長が居て、何故か俺が今着ている行衣らしきものを抱えているじゃないか。


「何……してんの?」

「滝行というものを経験したいと思ってね」

「元々、今日行こうかと話をしていたんです。正義君が行きそうだと思って絶対に間違わない勘に従ったとかじゃないですからね? これはただの偶然ですよ」

「……………」


 ……偶然? ほんとに?

 二人をジッと見つめるが、全く意に介した様子はなく……服を脱ぎ始めてえええええええっ!?


「な、なんでいきなり脱いでんだよ馬鹿野郎!!」

「なんでってまさかこのまま濡れるわけにはいかないでしょう?」

「そうですよ。このために用意したんですからね」


 輝夜も会長も、一切体を隠そうとすることなく着替えを始めやがった。

 咄嗟に背後を振り向いた俺だが、後ろから聞こえてくる布の落ちる音だったりがいつも以上に敏感に聞こえてしまう……おかしいぞ? 滝の音もうるさいくらい聞こえるのに、どうして俺の耳はそれを追い抜く勢いで彼女たちの脱衣音を感じ取る!?


「……ええい! 心頭滅却、俺は浄化しに来たんだここにぃ!! この神聖な修行場所において、一片たりともエロい妄想をするんじゃない!」


 次から次へと頭に浮かぶ輝夜と会長の裸体を考えないようにしながら、俺は一足先に滝の中へ。


「……はっ!!」


 頭から肩にかけて、それなりの衝撃が襲い掛かる。

 そして結構な高さから落ちてくる水なのでやはり冷たい……この冷たさは夏であることを忘れさせるだけでなく、脳内に蔓延るいやらしいと感じる雑念を払ってくれるようだった。


「……………」


 とはいえ、何故か俺を挟むようにして滝に打たれる二人……チラッと瞼を持ち上げて視線を向ければ、文字通りびしょ濡れのエロ女がそこには居た。

 髪の毛が肌に張り付くだけではなく、真っ白で清潔感があるはずの行衣には肌色が滲み、二人の大きな胸の形さえもバッチリ見せている。


(……あかん……集中出来ねえ……!!)


 もしもこの場に修行の神が居たとしても、修行僧たちが居たとしても、知り合いになった坊さんたちが居たとしても……きっと修行どころではないほどの光景が広がっている。


(おかしい……俺は滝行をしているはずなんだ……それなのにどうしてムラムラを解消するどころか更に増してきやがってんだ!?)


 滝行による浄化よりも、視覚と嗅覚、そして聴覚から入り込む情報の方があまりにも多すぎる。

 視覚からはエロ女たちの体、嗅覚からはエロ女たちから香る甘い匂い、聴覚からはエロ女たちの息遣い……その全てが本来押し流されるはずのムラムラを留まらせるだけじゃなく、更に増幅して戻ってきている。


「滝行というものを初めてしたけれど、中々悪くないわね」

「そうですね。これなら、今後も正義君に付き合いたいものです」


 やめてくれ?

 だが、ある意味でこれはいつも以上の修行になる……何故ならこの滝行をしている状態で、彼女たちの存在に意識を割かないよう特訓出来るからだ……いや辛いけどさぁ……俺の俺がピクピクしそうになるけどさぁ!

 そうしてまずは10分、水に打たれた後に休憩に入った。


「それにしても、妖である私が滝行だなんてねぇ……父が……アレが生きていたらそれはもう驚くでしょうよ」

「あ、そうですよね。よくよく考えたら輝夜さんは妖でしたか」

「……………」


 あのさぁ……あのさあのさあのさぁ!

 仲良く話しているのは見てて良い気分だし、人間と妖という垣根を越えた素晴らしい光景だと思うよ?

 でもさぁ……二人とも色々危ないって理解してる!?

 さっき俺は良い感じに……何が良い感じなのかはともかく、行衣が肌に張り付いてるって言ったよね? 正面から見たら先端のアレがバッチリ見えてるわけさ……二人とも気付いてる? 気付いてないから堂々としてるんだよなぁ!?


「ほんと、良い気分だわぁ」


 体から力を抜くように、輝夜は体を逸らすようにして空を見上げる。

 そんなことをしてしまったら更に大変なことになるだろうが! それとなく視線を逸らしたものの、やはりずっと溜め込んでいるせいもあって俺はしばらく立ち上がれそうにない……アレは立ってんだけどなって喧しいわ!


「ねえ正義、あなたはよくこうしてここに来るの?」

「あ? まあな……ここでお坊さんに会ったりするし、そこでよく話とかもしてるよ。今日は居ないみたいだけどな」

「ふむ……やはりこういうのも正義君が強い秘訣なのですね」


 強い秘訣……そう言われるとそうじゃないって言いたくなるんだが。

 だってこれ、最近の目的は完全にエロい妄想を頭から弾き出すために利用しているようなものだからな。

 アレのポジションを絶妙に整えながら、とにかく二人にバレないように会話を進める……しかし、輝夜がニヤリと笑って立ち上がった。


「さっきから随分と様子がおかしいわね?」

「……えっと」


 ぴちゃぴちゃと水音を響かせて輝夜が近付く。

 歩くたびに揺れる胸元に視線が吸い寄せられ、必然的に見てはいけないものも見えてしまう。

 このままでは……このままではバレる!?

 というか輝夜は妖だから既にバレてるんじゃないの!? そんな風に焦りを感じた瞬間、輝夜に向かってぴょんと何かが跳んだ――それは緑色の生き物……可愛いカエルだ。

 カエルはまるで狙いすましたかのように、輝夜の胸の谷間へと入り込んだ……なんて羨ましい奴!? じゃなくて、その後の輝夜の様子が予想しなかったものだった。


「か、カエル……? いや! 嫌よ取って! お願いだから!」

「え、えぇ……?」

「お、落ち着いてください輝夜さん!」


 もしかして輝夜さん……カエルのことがお嫌いで?

 輝夜の谷間に挟まれて極楽な様子を見せていたカエルだが、輝夜が涙を流すほどの拒絶を見せてしまい、物凄くしょんぼりした様子で水の中へ帰って行き……そして遠くに居た別のカエルに蹴っ飛ばされていた。


「だ、大丈夫か?」

「っ!?」


 涙目で胸元に輝夜が飛び込んできたので、どうにか受け止めて腰を下ろす。


「わ、私ああいうの苦手なのよ……悪戯で知能の低い妖が近付けてきた時に消し飛ばしたくらいだもの……っ」

「カエルがかわいそうだよそれは……」

「妖の方よ消し飛ばしたのは」

「おっ」


 ……俺は今、初めて名前も知らない妖に同情したかもしれない。

 つうか、いつもならこうして抱き着いてきたら徹底的に距離を離そうとするのに、こうして実際に泣き顔を見せられると無理だ。

 最上級妖である父親に拒絶された時の顔と同じ……だからな。


「……もう居ないわよね?」

「居ないね……あのう輝夜さん?」

「ふぅ……安心したわ」


 だ、だったら離れてくれない?

 というか輝夜はきっと意識してないと思うけど、さっきから股を大事な場所に擦り付けているんだよこの子!

 分かるか!? 色々大変な時にこれだぞ!?


「……あら」

「っ……」

「……ご、ごめんなさい正義。私ったら生粋の妖だから、こうして精神が不安定になっても正義のソレを感じ取ったら無意識に体が反応してしまって……」

「正義君のソレ……」


 流石の輝夜もこの状況で俺を追い詰めるのはダメだと思ったからいつも違い、そんな風に言ってくれたんだろうけどさぁ! そっちの方が俺を追い詰めてるって分かってるぅ!?

 輝夜の言葉を聞いて会長まで様子がおかしくなったし……はぁ。

 俺は……俺は滝行に来たんだ……それなのにどうして、こんな目に遭ってんだろう……俺には安息の瞬間はないんだろうか。


(でも……弱気の輝夜はやっぱり可愛いというか……)


 つい、水面に顔を付けて惚れてまうやろって叫んじゃったよね。

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