最近、何やら怪しいエロスを感じるぜ!

「なあ蒼汰」

「なんだ?」

「最近……やけにみんな優しくね?」


 隣に座る蒼汰に、俺は最近のことを考えながら問いかけた。

 数日前……正確には祈と一緒に出掛けた翌日から、妙にみんなが優しいというか……相変わらずエロさを感じさせる誘惑はあるのだが、その中に決まってとてつもない包容力のようなものを感じるのである。


「俺はよく分からないけど、あまり変わらなくないか?」

「……そうかぁ?」


 い~や、絶対に何かあるねと俺は考察する。

 それともう一つ……優しさの中に混じり込む不思議な暗さのようなものもあって……そっちはちょっと怖いかもしれないけど、とにかく以前に比べて色々と優しい。


「なあ蒼汰よ」

「うん?」

「前から気になってたんだけど、お前って愛華のこと好きじゃないの?」

「愛華はどこまでも幼馴染だけど?」

「……………」


 前から聞きたかった答えは呆気なく知ることが出来た。

 本来の世界線では愛華に対して淡い感情を蒼汰は抱いていたし、その逆も然りだったはず……二人のやり取りから分かってたけど、やっぱりそうなのか。


「それよりもさ、そろそろ夏休みじゃん?」

「おう」

「白雪会長の別荘に行くとかは決めてるけど、他に正義は何かやることあるのか?」

「ま、祈が寂しくないように過ごすのと祖父ちゃん祖母ちゃんのとこへ行って稲刈りかな」

「稲刈り……そういや去年もそうだったか」


 祖父ちゃんと祖母ちゃんが田舎済みなもんで、毎年稲刈りの時期になると率先して手伝いに行ってる。

 俺としても運動になるのはもちろん、祖父ちゃんたちが喜んでくれるのは嬉しいからな。


「米とかもらってるし、それなら稲刈りを手伝わないわけにはいかないからなぁ。正直刀でスパッと色々やりゃ早いんだけど、やっぱこういうのって人間が元々持っている力のみでやるのが良いんだよ」

「ほんと、そういうところしっかりしてるよな」

「そりゃそうだろ――強い力に頼りすぎてたら、いざ何も出来なくなった時に困るだろ?」

「……そんなこと考えてるのか?」


 はっ、ないとは思いつつも絶対にあり得ないとは言えないからなぁ。

 この世界において戦う力を持たないってのは致命的ではあるけど、持っているからこそ力に溺れていざって時に絶望してちゃダメだ。


「人生、何があるか分からないもんだからなぁ……ま、何があっても良いように、どんな壁でも乗り越えられるように頑張るのさ」

「……………」

「なんだよ」


 ジッと見つめてきた蒼汰を不思議に思い、俺も負けじとジッと見つめ返す……しばらくして蒼汰は笑い、こう言葉を続けた。


「なんつうか、妖狩りとしての戦いって命がけだったじゃんか。けどどんな戦場でも、お前が居てくれるなら大丈夫だって思えた……正義の存在感や、くれる言葉が俺たちを安心させてくれて……どんな戦いでも、必ず勝てるんだって思わせてくれた」

「スポーツチームに一人は欲しい逸材じゃね?」

「確かにその通りだな!」


 ほら、やっぱ俺みたいなムードメーカーって必要っしょ!

 そんなやり取りをしばらく続け……気付けば昼休みも一瞬で終わりそうだった。


「やっぱ悪くないもんだな。妖狩りとして生きているわけだけど、こんな風にただ友人と気楽に話す時間は必要だわ」

「戦いのこととか気にしなかった小学校の頃を思い出すよ」

「おい、それは俺がガキだって言いたいのか?」

「そういうわけじゃないって」


 じゃあどういうわけだよ、そう言ってまた俺たちは笑い合った。

 昼休みの後はいつものように授業が再開され、更に流れて生徒会室に向かう放課後になる……ただ、ちょっと向かうのが怖いよなやっぱり。


「……う~ん」

「おや、どうしたんだ?」

「あぁ、望月先生」


 エロ先生こと望月先生が背後に立っていた。

 これから生徒会に向かわなければならないのだが、最近の著しい変化を受けてちょい足踏みしている俺が変に見えたんだろうか。


「その……別に何かあるってわけじゃないんですが」

「ふむ? 大人として何か話を聞こうか?」

「そこまでじゃないっすよ」


 本当に大丈夫なのでお構いなしと伝えれば、先生はどこか不満そうに俺を見てくる……なんで?


(というか……今日もまた一段とエロ過ぎるでしょこの人)


 生徒たちがエロければ先生もエロい……それで青少年を導けるのかと疑問に思うくらいに、先生の恰好はこう……とにかくエロい。

 特に今日は下が凄い……眩しいくらいの太ももはともかく、そのガーターベルトは何ですか破廉恥すぎでしょ。


「あの……先生」

「なんだ?」

「失礼を承知で言わせてほしいんですが」

「うん?」

「生徒たちもそうなんですけど、大人の先生がそんな破廉恥すぎる格好をするのはどうかと思います」

「は、破廉恥……?」


 というか、俺は何度だって言いたい!

 普段の恰好もそうだが、妖を狩る時に着ているバトルスーツは流石にあかんだろうと!

 まるで即落ち二コマヒロインですよろしくと暗に言っているようなものだぞあれ! 凛々しい顔から一転、ページを捲ったらアへ顔晒してるパターンの人だぞそれはぁ!!


「い、いきなり何を言ってるんだお前は!」

「相手が教師だからって遠慮はしませんよ俺は……くぅ! 最近、不名誉な新聞が掲載されたから知ってんでしょ!? 先生も同罪なんですよ他のエロ女たちとさぁ! そこんとこちゃんと分かってますぅ!?」

「私のことも……そんな風に見れるのか? 私はもうおばさんだぞ?」

「おばさん……? はっ! 年齢的にはそうかも……いやいや、まだ十分若いでしょうお姉さんって感じでしょう!? そんな見せ付けるようなやらしい恰好をして生徒が欲情したらどうするんすかぁ!?」

「……お前はどうなんだ?」

「しそうになるから言ってんでしょうがぁ! ったく……生徒もエロけりゃ先生もエロい……この学校終わってるぜ」

「……………」


 相手が大人であろうと、勢いを失わないのが俺って人間だ。

 ボソボソと下を向いて呟く先生にじゃあと声を声を掛けた後、一足遅れて生徒会室に辿り着いた。


「う~っす」


 ガタンと扉を開け、中に入ればホワイトボードを囲む卑しい女たちの姿だ……はっ、今日も後ろ姿から分かるエロさがエロ過ぎてエロの渋滞が起きてるわ。


「あれ、何してんだ?」

「……さあ」


 昼休みを共に過ごした蒼汰の隣へ座り、俺は女たちを見つめる。

 何やら熱心に勉強……してるのかあれは? マジックを持って色々と説明しているのは輝夜で、会長さえもジッと動かず輝夜の説明に頷いているだけ……??


「……俺ら、今日居る意味ありそう?」

「勝手に帰ると怒られるぞ?」

「なら……ジッとしとくか」

「そうだな……そうしててくれお前は」


 つうわけで、触らぬエロに祟りなし――俺は小さく欠伸をしながら、女子たちの何かが終わるのを待つのだった。




「良いこと? 決して最後まで自分よがりにならないこと、常に相手を慈しむ心を忘れないことよ。自分が楽しむのはもちろんだけれど、相手を楽しませる心を忘れないように」

「なるほど……でも大丈夫かな?」

「……輝夜先輩の話を聞いたら、いざって時にリード出来るのか不安になってきましたよぉ」

「輝夜さん、あなたの見立ては本当なのですか?」

「当たり前じゃないの――私は妖として、彼が持つアレの戦闘力すら計ることが出来るわ。彼は妖にすら劣らないほどのアレを持っている……おそらく私ですら簡単に敗北するかもしれないわね……妖の女として情けない限りだけれど、好きという感情がある以上そういうものだわ」


 決して、正義には聞かせられない話なのは言うまでもなかった。

 彼は……正義はこの世界において、全てに負けない圧倒的な力を持って転生した――お分かりだろうか?

 全てに負けない圧倒的な力とは、武力の他に何を示すかを。

 もっとも、正義がアレなので発揮する瞬間がないだけではあるが……果たしてどうなるのか謎である。

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