いや、本来の未来は嫌じゃん……? だったら回避するべ
「良いなぁ……良いなぁ良いなぁ良いなぁ!」
「ど、どうしたんだよ桜花」
放課後、いつものように集まった生徒会メンバーたち。
ただ少しばかり違うのは正義の姿がないこと……そのことに関して桜花が全身で悔しさを表すように、ぶるんぶるんと特大バストを揺らしている理由はもちろん正義のことだ。
「正義君、祈ちゃんとお出掛けなんだって?」
「あぁ。映画を見に行くんだってさ」
家族を大事にする正義だからこそ、どれだけ妹にさえエロスを感じても二人の時間を少なくすることはない。
祈が突然映画を見たいと言い出したわけだが、正義が分かったとすぐに頷いた結果である……ただの兄妹デートとはいえ、正義に淡くも重たく搾り取りたいエロ女である桜花は祈が羨ましくて仕方ないのだ。
「デートねぇ……」
「というか酷いですよぉ! あたしだって正義先輩と水着買いに行きたかったのにぃ! 日付ずらしてくれても良かったじゃないですか! ねえ会長!」
「そうですね……ですが過ぎ去ったことです――気にしても仕方ないのですから諦めましょう?」
「……なんで会長は変に余裕なんですかぁ?」
「それは――」
将来の約束された夫婦ですから……そう火種が爆発しそうな台詞を白雪は口走りそうになったが、そこでちょうど良くお客さんの姿が。
「会長! ってみなさんお揃いで」
入ってきたのは一年生の男子だった。
その手には傷だらけの端末が握られており、どうやらそれがここに来た理由らしい。
「実はこれ……裏山の方へ行った時に見つけたんです。ボロボロだったんでそのまま捨てようかと思ったんですけど、かろうじてまだ機能は生きてるようでして」
「ふむ……ですがそれなら捨てても良いのでは?」
「はい……その、音声データが残ってたんです。それで、冒頭だけ聞いたら判断が難しくなってしまって」
どうやら、後少しで機能が完全に死んでしまいそうなこの端末に残されたデータ……そこに何かがあるようだ。
彼が言うには本当に冒頭のみしか聞いていないとのことで、その内容が生徒会の判断を仰ぐべきだと思ったらしい。
「では、自分はこれで失礼します」
一年男子が去り、生徒会全員が汚れた端末を囲む。
この端末は生徒会全員に配られるものであることが分かったが、それ以上にこれが誰の物であるかもすぐに分かった。
「これって正義君のじゃない? 最上級妖を相手する前に無くなったとか言ってたような」
「そうですね……それで新しいのを今は使っていますが、なるほど裏山に落ちていたのですか」
「これ、どうするんですか? 流石にもうすぐ壊れそうですし、正義先輩は絶対に要らないって言いそうですよ?」
そう、本当にこの端末はもうボロボロだ。
正義も無くした時にそこまで残念そうにしたりしていなかったので、ただの端末には何も思い入れはないのだろう……だが、残されていた音声データに関しては気になる。
「何が残されているのかは気になるわ。再生してみない?」
「えっと、良いのか? 正義が居ないってのに……」
「う~ん、でもこの端末そろそろ本当にダメになりそうだから確かめる意味でも聴いた方が良いと思うけど」
「それも……そっか」
ということで、満場一致になったので音声データを聞いてみることに。
白雪が代表して音声を流す……するといきなり聞こえたのはザザザッとした雑音と、刀と硬い何かがぶつかり合うような剣戟の音だ。
そして――。
『はっ! こうして互いに逃げられない戦い……決着が付くまで踊り狂おうじゃねえか親玉野郎があああああああ!!』
『ぐぅ……っ! 貴様が……貴様が全ての元凶だ! 貴様さえ居なけれ今頃全てが上手く行き、人間界を侵略出来たというのに!!』
聞こえてきたのは正義と最上級妖の声だった。
このやり取りを自分たちは知らない……娘である輝夜でさえも知らないやり取りで、全員の興味が端末へと注がれる。
『貴様は全てにおいてイレギュラーだった……貴様が居たせいで、上級妖たちは滅び、輝夜さえも貴様へと靡き……本当に忌々しい!』
『ははっ! 輝夜が俺に靡く? あんな良い女が俺に靡くわけねえし、勿体ないから止めとけって言いたいが!? つうか、あんな良い子がてめえの娘って事実があり得ねえ方だろうがよ!』
これは音声だけでも分かる激闘だった。
輝夜を除く生徒会メンバーには、もしかしてというある記憶が蘇ってきた……それは最終決戦の時、全ての道を拓けたところで正義がちょっと待っててくれと言って亜空間に飛び込んだ時……後一歩のところまで最上級妖を追い詰め、逃げた奴を正義が追いかけた時だ。
『何故だ……何故貴様は立ち向かえる!? ただの人が……血を流せば力を失い倒れる弱い人間が!? 何故……何故我が見た未来を……人間どもを殺し尽くし、苗床へと化す未来を変えられた!?』
『決まってんだろうが……認めたくないからだよ……俺はそのためだけに生きてきた……この世界で知り合ったみんなを守るために、そのためにてめえを殺す……そのためだけに生きてきたんだよ……っ!』
正義の必死な声……それはどれだけの激闘が繰り広げられ、そしてどれだけの怪我を負いながら戦っているのかが分かった。
正義は強く、そして色んな意味で熱い男だ。
最近の彼はエロ方面を否定する姿が多いせいで忘れそうになってしまったものの、本来の彼は妖を狩ることに全てを懸けていた。
『てめえの敗因はただ一つ、それは俺が居たことだ』
『くっ……!?』
『てめえは未来が見えるっつったな? てめえの見た未来に俺は居なかっただろ? てめえは自らの手で輝夜を殺し、てめえの部下は俺の仲間たちを弄んで殺し……そして人間たちの世界は妖に浸食され、妖たちの完全勝利って筋書きだったんだろう?』
『貴様……どこまで知って――』
『ぜ~~~んぶ知ってんだなぁこれがぁ!!』
その驚いた顔たまんねえ~、そんな正義の声が聞こえてきそうなほどに楽しそうな雰囲気が伝わってくる。
もちろん状況的に楽しいだなんて言ってられないが、正義をよく知るこの場の者たちだからこそ分かるのだ。
『俺は生まれた時から自分がすべきことを理解していた……この身に宿った強すぎる力、それをこの先出会うであろうみんなを守るために使うってことをな……傲慢だって思うか? 夢物語だって笑うか? でも残念だったなぁ! こうして今、てめえは俺っていう本来居ないはずのイレギュラーに負けんだよ!』
『ふざけるなぁああああああああ!! 貴様ごときに……人間風情が、弱者が強者を陥れるなどと……っ!!』
『そうやって見下してるから足元を掬われんだよ――良いか親玉野郎、よおく覚えておきな。人間の世界で流行ってる物語には、人間が化け物を倒す系の物が多いんだよ』
『何が言いたい!?』
『いつの時代も、いつの瞬間も、化け物を倒すのは人間ってことだ!』
そうして一閃したかのような音が響き渡り、最上級妖の声は消えた。
残るのは荒く息を吐く正義の声だけだ。
『これで終わった……な……本当に終わったか――輝夜も、颯太も愛華も会長も、桜花もみんな生きてる……はは……ははははっ! 最上級妖のてめえを倒せたことよりも、俺にとってみんなが生きてることの方が嬉しいんだよば~~~~か!』
そこで端末は完全に機能を停止し、正義の声も聞こえなくなった。
「……正義は……あなたは――」
勘が良い者なら気付くであろう多くの言葉たち。
音声データを聞いた輝夜たちはしばらく、余韻に浸るかのように静かなままだった。
▼▽
「……?」
「どうしたの、お兄ちゃん」
「いや……何でもない」
何か……不穏だけど心地の良い感情がいくつも芽生えたような……そんなよく分からない何かを感じたんだが何だったんだろう。
『逃がさないわ……♡』
『逃がさない……♡』
『逃がしません……♡』
『逃がしませんよぉ……♡』
聞き覚えのある声に囁かれたというか、お前オワタと誰かに言われたような……う~ん?
「お兄ちゃん、この前は水着を買いに行った」
「うん」
「今日は下着を選んでほしい」
「……何を言ってるの?」
下着……下着!?
映画を見に行って非常に良い気分の中、いきなり我が妹君は何を言っているんだ……?
「水着と違って下着はかなり大事……ちょっとでもサイズが合わないと形が歪む原因になるから」
「……ほう」
「だからお兄ちゃん手伝って。お兄ちゃんのためだけにある私のFカップおっぱいを守るために」
「だから何言ってんだよぉ!!」
つうかFカップ……!?
何この自分の妹のカップ数を知った許されざる罪みたいな感覚……というか分かってたけどやっぱり祈ってデカいな!?
(……何だろう、ま~じで明日の学校が怖いんだが)
いつになく不安を抱くせいか、俺は特に祈に付いて行くことを拒むことはせず……またちょっとエッチなイベントに巻き込まれ、狼を解き放ちそうになるのを必死に堪えるのだった。
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