この世界がおかしいと言って何年経った!?

(……はぁ、俺の理性はいつまで持つのやら)


 最近、輝夜と桜花の主張がヤバイ……というのも、明確に風邪を引いた翌日からそれを強く感じる。

 まず輝夜だが……相変わらずゴリゴリに理性を削ってくるのはもちろんだが、その中に大きな思い遣りを感じる……俺を全てで包み込もうとするような、そんな慈愛のようなものだ。


(エロの中に優しさというか……それが混じるだけでなんでこうも揺さぶられるんだろうか)


 凄いよなぁ……あんなにもブルンバインバストが襲い掛かってくることから逃げたいって思うのに、優しくされるとじゃあ飛び込んじゃおって一瞬なるからヤバイ。

 女性の胸には夢と希望だけでなく、包容力もあるというのか……っ!


(輝夜はこれだけど……桜花も桜花でなんか凄いんだわ)


 輝夜が俺の秘密に気付いたこと、それは輝夜が桜花に教えた。

 桜花としては自分だけが知っていたかったことらしく、ドヤ顔を決める輝夜にそれはもう凄まじいほどの敵意を抱いていた……敵意とは言っても仲間割れしたりとか深刻なものではなく、あくまで先輩後輩間の軽いいがみ合いだ。


(せんぱぁい♪ 輝夜先輩があんな風にするならぁ、あたしだってもっともっと攻めて良いですよねぇ?)


 桜花は……あの淫乱ギャルピンクは今まで以上にアプローチが凄い。

 今までもゴリゴリガリガリに理性にダメージを与えてきたのは言うまでもないことだが、まるで輝夜に対抗するかのようにエロ方面で全力を出してきやがる。

 ……だが考えてもみろよ。

 輝夜と桜花がそんな風に接してくるせいで、愛華と会長もそれが良いのかと言わんばかりにエロの暴力を押し付けてくる……具体的には強制的にラッキースケベをさせようとしてくるんだ。


(この世界そのものが俺をエロに染めようとしてるかのようだぜ……)


 俺はその度に同じことをずっと言ってる……良いから止めろと、お前たちは本当にエロ過ぎるからあっはんうっふんしながら近付いてくるんじゃないって!

 というか原点に立ち返ろう。

 何故、彼女たちはエロいと言われて嫌な気分にならない? 普通はエロいだとか乳が~尻が~って言われたら拒絶間マックスちゃうのか!?

 普通、俺みたいな奴って嫌われたりキモイって言われるムーブしてるはずだろう!? ……自分で言ってて悲しいけどさぁ!


「正義君? 何を考えているのですか?」

「アンタのことだよぉ!!」

「っ……!」


 隣を歩く会長に唾も飛ぶ勢いで叫んだ。

 今日も今日とて距離はちけえし、相変わらずの横乳を晒すアンタのことを俺はずっと考えてたんだよ! 正確にはアンタだけじゃなくて、他の奴も同じだけどさぁ!


「もしかして、わたくしのこの部分だったりしますか?」


 そう言って会長は、横乳部分の布に指を当て……ヒラヒラと間を空けたり閉じたりする。

 見方によっては胸の先端が見えてもおかしくないし、何ならこの場には俺だけじゃなくて生徒も沢山居る……それなのにこの人は一体何をどうしたらそんなことが出来るっての!?


「そればっかり考えるに決まってんじゃんだから言ってんでしょそれを止めろって!」

「……ふふっ、そうですか♪」

「なんで喜んでんの!?」


 会長はニコッと微笑み、そのまま歩き出す。

 今にもスキップしそうな勢いの会長だったが、そこで俺たちに近付いてくる二人組の生徒が居た。


「救世先輩! 麻宮会長!」

「ちょっとお話を聞かせてください!」


 やってきたのは一年生の二人組だった。

 この後輩たちとは何度か妖狩りを共にしたことがあるだけでなく、俺に関しては校内で会ったら話くらいはする二人である……ちなみにこの後輩男女は互いに付き合っているとかでリア充を満喫中だ。


「話とは何でしょうか?」


 俺たちを見かけた途端、駆け寄ってきたくらいだ……まさか何か問題でも起きたのか?

 妖に関することでなくとも、校内で起きた問題には基本的に俺たち生徒会が対処するのだが……ここ久しく、問題は何も起きていない。


「何があった?」


 二人とも、言いづらそうに下を向いた……これは何やら、重大事件の香りがしてきたぞ。

 俺は会長と目配せをしながら、まずはこの問題に取り組むことに。

 つっても生徒会としての見回りなので時間はある……さあ、話してもらおうか後輩たち。


「その……俺たちは救世先輩に憧れてます。俺たち妖狩りにとっての希望であり英雄……でも、親しみやすい最高の先輩です」

「私たちを助けてくれるだけでなく、時に厳しく指導してくれる最高の先輩です」

「お、おぉ……いきなり褒めてきてどうしたよ」


 おいおい、いきなり褒めてくるとか照れるじゃないか。

 隣で微笑ましく見つめてくる会長の視線から逃げるように、俺は後輩二人に視線を固定する。

 それで何だろうと思い言葉を待つと、続いた言葉はこんなものだった。


「その……救世先輩が最近、会長を始めとした女性たちにエロいだとか誘惑するなとか、そんな言葉を言ってると聞きました!」

「救世先輩がそんな……エロいとかそういうことを言うわけがないだろって私たちは主張してるんです! それでも分からず屋のあいつらときたらそんな場面を見たって言うんですよ!?」

「……………」


 ふむと、俺はその話を聞いて瞬時に考え……そしてこう答えた。


「すまん、思いっきり言ってるわ」

「……え?」

「……先輩?」


 瞬間、世界から音が聞こえたように静かになった。

 ここには俺と会長、後輩たちの他にも生徒の目は沢山ある……そんな中で、俺は一切否定せずに頷いたんだからこうもなる……のか?


「だってこれを見ろよ」


 そう言って俺は会長の横乳を指差す。


「なんだこの服は、エロいと思わないのか? 俺はずっと思ってるよエロいだろうがって……シャツを着崩したりして見える谷間とも違う横乳だぞこんなんそういう特徴的な服を着ないと絶対にこうはならんだろ」

「あ、あの先輩?」

「……先輩が……壊れちゃった……?」


 おい、俺をそんな絶望した眼差しで……あぁいや、冷静に考えたらそれも仕方ない。

 もしも本当に彼らが俺のことをヒーローだとか思ってるんだとしたら、そんな俺がいきなりこんなことを言い出したので幻滅したとも言える。


「会長だけじゃねえ、他の生徒会メンバーもエロ過ぎるだろ。常に体を擦り付けてくるわ目の前で乳と尻は揺らしてるわ……挙句の果てには俺のイライラ棒を覚醒させようとしてくるわで大変なんだよ」


 やべえ言葉が止まらねえよ。

 俺は更に言葉を続ける……別に自棄になったつもりじゃないけど、言わないとスッキリしねえんだ。


「希望だとか、英雄だとか言われるのは悪い気分じゃない……でもそんなのは前までの俺であって今の俺には似合わねえ言葉さ――なあ後輩たち、俺はただずっと必死だっただけなんだよ。目の前の脅威から仲間たちを守るために、それこそ最上級妖を前にしても逃げることなく、その首を取るための勇気をくれたのが仲間を守りたいって気持ちだった」


 相変わらず静かになった空間の中で、俺は更に喋り続ける。


「そう……必死だったんだ。俺は強い……言っちまえば、俺が勝てても他の奴が勝てない相手なんて沢山居た。だったら俺が頑張らないとみんなが居なくなってしまう……それなら俺が必死にやるしかないだろ? ここに居る会長もそうだし、お前たち後輩も……そして俺たちを見ている他の生徒たちも全部守るために」


 ほんと、何度考えても少し前の俺は頑張りすぎてたわ……たぶんこの体のスペックがなかったら絶望していただろうし、速攻で妖に殺されたりでこの世界に転生させた神様を恨んだはずだ。


「何か余計なことを考えるくらいなら敵を殺す……そんな風に手に入れられる最大限の平和を考えたら、いくら傍にエロい恰好をした女が居てもそれを気にすることはなかった……けどよぉ、その戦いが終わったら事情が変わるだろ?」

「あ、はい」

「えっと……はい」

「必死さに当てていた脳のリソースが傍の女たちに向けば、うわこいつエロ過ぎんだろってなるだろうが! そうなって気になって仕方ないから俺は近付くなって、誘惑するなって言ってんだよ!」


 そこからはもう俺の愚痴ばかりだった。

 エロくてたまんねえけど狼になるわけにはいかないと、俺の俺が暴れ出さないように必死に耐えてんだよってそれはもう宣言しまくりだ。

 前半はともかく後半はエロいだとかいやらしい女共とか引かれることばっかり口にした……それなのに、いざ話が終わったら後輩二人がまだ俺を尊敬したような目で見てる……どうなってんだよ。


「先輩、俺もっと頑張ります!」

「私も頑張ります! 先輩が必死になって守ってくれたこと、それを胸に刻んで!」


 そんな後輩の言葉に続き、周りの生徒たちも似たような雰囲気だ。


「やっぱり先輩は英雄だ!」

「俺たちをあんな風に必死になって守ってくれた……!」

「そうよ……どんなピンチになっても先輩は下を向くなって!」

「俺たちを導いてくれたんだ……!」

「むしろそんな先輩にエロいとか思われるのってご褒美じゃない?」

「会長羨ましいぃ!」


 なんだかよく分からない空気に居た堪れなくなり、俺は会長と一緒にそそくさとその場を去った。


「……ドン引きされると思ったんだが」

「難しくないですか? そもそも、この学校のほぼ全ての生徒を助け導いたという実績があまりにも強すぎるんですよ」

「……それでもじゃないですか?」

「だったらどうして、あなたにエロいだとか言われているわたくしたちが離れていかないのだと思います?」

「……それは確かに」


 ……って、それで納得したらダメじゃないか!?

 クスクスと笑う先輩は、それじゃあどうしますかと言って再び横乳に手を当てて……ってだからなんでそうなるんだ続きなんてねえよ何も!


「ま、いずれ沢山することになりますものね。わたくしたちは約束された仲なのですから……ふふ……ふふふふふっ!」


 ちなみに翌日、校内新聞で俺の発言を纏めたものが玄関の掲示板に貼られた……もちろんエロいだとか色々ヤバイ発言をそのまま書かれていたのに、更に憧れの視線が増えたのは解せない。

 おかしい……やっぱこの世界おかしいよ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る