大人しく掃除をしたいだけだってのによぉ!!

「何故だ……何故俺がこんな……っ」

「ま~だ言ってるのかよ正義。いい加減諦めろって」

「黙れやイケメン野郎がよぉ!」

「……なんで俺がキレられるんだ?」


 そりゃお前が俺と比べて堂々と胸を張ってるからだろうが。


「ちょっと桜花ちゃん!? そんな風に水を掛けないでよ!」

「良いじゃないですか~。こうやって遊べるのも今だけの特権ですよ!」


 エロ女共が互いにホースから出る水を掛け合ってやがる……全くなんて光景だと俺は声を大にして言いたい。

 夏を目前にしたことで生徒会によるプール掃除だ。

 封妖高校は確かに妖狩り育成高ではあるが、きちんとこういう面でも普通の高校と何一つ変わらない。


(プール掃除くらいは良いんだよ……全然良いんだけどよぉ!)


 こちとらえっさほいさと頑張って掃除してるってのに……いや、女子たちもちゃんとしてはいるが、やはり騒ぎたい年頃ということで水の掛け合いに発展するわけで……しかも濡れて良いように水着姿なもんで、それはもうバルンバルンでバインバインだわ。


(それをこいつと来たら……)


 後少しで下半身に血液が溜まりそうでヤバイ俺と違って、蒼汰の野郎は元気だなぁと微笑ましく見つめるだけで余裕綽々だ。

 俺の方が前世も合わせて生きた年数は上のはずなのに、エロ女たちの姿にドキドキしまくる俺より遥かに大人な様子が……なんつうかこうすっごくムカつく。


「白雪、水着を貸してくれてありがとう」

「いえいえ、別に体操服でも良いのですが濡れてしまったら困るでしょうしね。ですが……その、サイズが少し合ってないようですが苦しかったりはしないですか?」

「大丈夫よ。若干の窮屈さはあるけれど、この食い込みに目を向けてくる人も居るみたいだし?」


 っ!?!?!?

 その時、輝夜とバッチリ目が合った――ここに居る全員がまだ今年の水着を揃えておらず、古い物を着ているというのは共通だが……そもそも水着を持ってなかった輝夜は白雪に借りている。

 白雪も凄まじいほどの胸部をしているが、それ凌駕する輝夜だからこそ紐の部分が若干の食い込みを見せておりとにかくエロい……エロ過ぎる。


「……ぐぅ」

「お、おい大丈夫か?」


 突然、前屈みになった俺を蒼汰が心配したように駆け寄る。

 別に……別にまだ取り返しが付かないことになっちゃいない……いないのだが、これ以上ここに居たら大変なことになってしまう。


「蒼汰……」

「どうした!?」

「……あいつらがエロ過ぎてヤバイ」

「……またかよ! つうか前屈みって……そういう?」

「言うんじゃねえ!!」


 ただ……やはり蒼汰は引いたりしなかった。

 それどころか、何故か嬉しそうに笑っている……おいお前、なんで俺が興奮して嬉しそうな顔をしてるんだ?


「おい、なんで笑ってる?」

「あぁごめん……今でもちょっと、前にお前が女子たちに関してエロいとか言ってたことが嘘じゃないかって思うけど。やっぱ正義も一人の男というか人間なんだなって」

「一人の男だし人間だよ何言ってんだ。性欲はこれでもかとあるぞ」

「……ほんと、二重人格とか言われた方がしっくり来るよ」


 これがもしも、元から存在していた人間に憑依とかしたならそれも間違っちゃいないけど、俺は生まれ変わった瞬間から自分のことが分かっていたからなぁ……だから今の俺も俺自身だ。


「俺はさぁ……最初はとにかく必死だったんだよ」

「必死?」

「そう……お前らは俺のことを英雄だとか、ヒーローだとか色々と言ってくれた。俺には力があった……お前らが苦戦する相手でも、容易に狩れる力があった」

「そうだな……そうだった」

「でもさ……だからこそ、俺が全部守ってやるって思った。こんなに強い力があって、身近な存在を守れるのだとしたら……やらないわけにはいかないだろ?」


 いつの間にか水を撒く音さえ消えていたような気がするけど、俺の口は止まらず蒼汰をずっと見つめ続けていた。


「俺がやらなくちゃ、俺がやらないと……そんな風に自分を追い詰めていたのも確かかもしれない。けどな? 俺は決して嫌じゃなかった……何だかんだ言ってるけど、俺さ――お前らが好きなんだよ」

「……正義」

「好きで好きでたまらねえんだ……だから守りたいって思うし、どんな強敵が現れても俺が必ず倒すと決めていた……だから俺は仲間だと思ったお前らが傷付けられるのは嫌だし、いつかのように見捨てろだなんて言われて黙ってるなんざ絶対に出来ねえ……仲間を、大切な友達を助けることに理由なんざ要らねえだろ?」


 そう言うと、颯太はしばらく目を丸くしたが嬉しそうに頷いてくれた。


「……ははっ、まさか正義がそこまで考えてくれてるなんてな」

「考えまくってるに決まってんだろ? どんな脅威が訪れても、どんな事態に陥ろうとも俺が必ず助ける……って、そんな風に気を張っていたから俺は今まで気付けなかったんだ――女たちのエロさに」

「いきなり話の流れが変わったなぁ?」


 そこから俺は蒼汰に語った。

 自分に力があったのは確かだけど、調子に乗って痛手を踏むようなことさえもしないくらいに気を張ってたんだ……最上級妖を狩ったことで、気を張る必要が幾分かなくなったことで、その考えるためのリソースは何になるのか――当然、今まで感じなかった女たちへのエロスだろぉ!?


「いや、そうはならないんじゃ……」

「なるに決まってんだろうがぁ!? つうか蒼汰、お前だって何度か妖に捕まった女たちを見てきただろ? 戦闘の講義の中でも、こんな風になっちまうってビデオを見ただろ!? お前はなにも思わんかったんか!?」

「思わねえよ! ま、まあ確かに喘ぎ声とか凄かったけど可哀そうだっただろ!?」

「そうだよ可哀そうなんだよそう思えるお前が俺は憎い!」

「なんでぇ!?」


 そこまで言って俺はふぅっと息を吐く。

 本来であれば他の学生が授業をしているこの時間、俺たちは生徒会だからこそプール掃除をしているわけで……ある意味特別待遇だが、それで遅れちまったら何を言われるかたまったものじゃない。


「おら、さっさと続きをやるぞ」

「切り替えが早すぎるだろ……」


 それから順調に掃除を進めていったが……目の前の光景は凄まじい。

 相変わらずブルンブルンバインバインなのはもちろんだが、水に濡れている影響もあってとにかく女共が色っぽく見える。

 ただでさえ色気ムンムン魅力バリバリなのに、あたかも見せ付けてくるかのような仕草に我慢は限界を迎えようとしていた。


「……クソが」


 特に桜花なんか酷いもので、去年に比べて成長しているのだから古い水着だと小さいことが分かっているはずなのに、激しく動いて水着がズレることすらお構いなし……しかも蒼汰が居る時は全然なのに、俺が傍に居たら逆に見せてきやがる……クッソ変態女がよぉ!


「……はぁ、なんて日だ」


 これでまだ、水着を買いに行ったり……実際に海に行ったりとか、色々あると思うと俺は耐えられるのかマジで不安だぞ。

 一旦休憩ということで会長が全員にアイスコーヒーを振舞う中、俺は輝夜と愛華に囲まれていた……なんで?


「凄く暑いねぇ」

「この暑さは好きじゃないわ……ずっと夜に生きていた私には辛い」


 二人が肩をグッと当ててくるほどの距離感なせいで、俺は満足に動くことさえ出来やしない。

 というか愛華がこうするのを蒼汰に見られるのは……ってあいつ、何も気にしてなくね……? 愛華はお前のメインヒロインだろうが何をしてんだよあの野郎は!


「ねえ、正義」

「……あんだよ」


 愛華はともかく、輝夜の方は見れない。

 サイズの合ってない水着がまさかここまでの凶器になるとは……最初は紐が食い込んで痛くないのかって思ったけど、絶妙な加減で全く痛くはないらしい……つまり、そこにはエロしかない。

 輝夜と愛華から漂う良い香りもそうだが、それ以上に右を見ても左を見てもボインがあるし、前を見てもボインボインばかりで頭がパンパカパーンしそうだ。


「私は人ではなく妖……だから男が発する性の香りに敏感なの。ずっと嫌いだったそれも、相手があなたならまるで香水のようにずっと嗅いでいたいくらいだわ」

「……いきなりなんだよ」


 これは……この会話の流れは危険な気がする。

 流石にこんな会話を振られては目を向けないわけにもいかず、俺は輝夜と視線を合わせた。

 彼女は微笑み、耳元に顔を近付けてこう言った。


「ただ一言、言ってくれればいいのに――スッキリさせてくれって」

「っ!?!?」

「そうすれば私があなたを気持ち良くさせてあげるのに……これ以上の我慢は体に毒よ?」

「毒じゃねえよ!?」


 ダメだ……やっぱりこいつは歩く18禁なんて言葉じゃ生温い!

 つうか喋り方とか言葉が高校生じゃねえんだよ……いや、確かに高校生でも通じるし……これが通じるってのを認めたくないが、既に転入した以上は俺が文句を言う権利はない……それに言いたくもない。


(……マジで、お店に行って発散しよう……近いうちに)


 輝夜だけがちょっかいを出してくるかと思えば、次に愛華も加わってそれはもうえらいこっちゃだった。

 そして、時間は流れて早くも放課後だ。

 学校が終わり、一人で学校を出たつもりが愛華も一緒だった……途中まで一緒に帰ろうとのことで、意外と時間があったので買い物なんかもした後のこと。


「輝夜は……やっぱり凄いね」

「色んな意味で凄いよな」


 もうさ……エロ過ぎんだよ。

 ただ一つ嬉しかったというか安心したのが、どうやら学校の連中たちも輝夜のことはエロいとして認識しているらしい……どうやら獣を飼っているのは俺だけではなかったようだから。


「私も負けてられない……もっと攻めないと。それこそ既成事実を作るくらいに――」

「既成事実……?」

「あ、お兄ちゃん!」


 その時、俺たちの元に祈が駆け寄る。

 おそらく帰りで偶然見つけたんだろうが、短いスカートが捲れるのも構わずに駆け寄ってきた彼女を俺は受け止めた。


「あ、愛華さんもこんにちは」

「こんにちは祈ちゃん」


 ……なんだ?

 挨拶をしたのは別に普通だけど、どこか祈の様子がおかしい……?


「祈、何かあったのか?」

「え? 祈ちゃん?」

「……………」


 しばらくの沈黙の後、祈はこう言った。


「お兄ちゃん……なんかさっきから、誰かに追いかけられてる気がして」

「……へぇ」


 ふ~ん……狩るか。

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