もっとやべえエロ女が加わって涙を禁じ得ない
それは正に凄まじく沈黙の瞬間だった。
「……………」
場所は生徒会室で、黙りこくっているのは俺だけではない。
この場に居るのはもちろん生徒会メンバーで、俺を含めた蒼汰やヒロインたちだ。
全員が全員、表情のない顔で見つめるのは俺の隣。
「うふふっ、ここが生徒会室という場所なのね。随分と綺麗で居心地が良い場所じゃないの」
物珍しそうに辺りを見回すのは、何を隠そう転入してきた輝夜である。
かつての敵であり、人ではない妖である彼女の転校がビッグニュースにならないわけがなく、こうして輝夜のことを知っている人間がこの場には集まっていた。
(く、空気が重い……)
そう、とにかく空気が重い!
ここに居る全員が輝夜の正体を知っているのはもちろんだが、俺が助け彼女は危害を加えないから大丈夫だと言ったことも知っている……そしてラスボスとの戦いが終わってからも、ちょくちょく輝夜が現世に顔を出しては妖を逆に狩っていることも知っているはず……だからたぶん、空気が重いのは確かだけどどんな風に接すれば良いのか分からないんだ。
(ふぅ……でもやっぱ俺はダメかもしれん……だって……だってさぁ!)
輝夜を除いて全員の表情が硬いというのに、俺が気になるのは腕に感じる爆の域に達する乳のことだけだ。
ここに着いてから輝夜はとにかく俺の隣をキープするだけでなく、しっかりと俺の腕を抱くようにしてその大きすぎる膨らみを押し付けている。
この世界の女性……特に俺がエロ女共と言っているヒロインたち全てを凌駕するほどの膨らみは、こんな空気だというのに俺の理性をゴリゴリと削り、内なる獣を暴れさせようとしている。
「っ……」
「ちょっと、離れようとしないで。新天地で不安なのよ……」
な~にが不安なのよだ!
それとなく腕を引き抜こうとした俺の腕を、更に強く抱き寄せて胸と胸の間に挟み込みやがった!
桜花みたいに一切制服を着崩していないものの、普段の着物姿である意味見慣れていたあの乳が、こうしてキッチリと制服に仕舞われているのが逆にエロスを感じさせてくるとか……あぁもう!
こいつは本当にエロの塊だよこんちくしょうが!!
「ねえ、私たちは何を見せ付けられてるの?」
「せんぱ~い、どうしてずっと引っ付いてるんですかねぇ?」
愛華と桜花の顔がヤバイ……なんつうか、俺を見ているようで見ていないというか、どっちかというと隣の輝夜を殺しそうな目で見ているというかもう何が何だか分からねえよ俺には……。
「あ、みなさん集まっておいでですね」
そうこうしていると、最後の事情を知る会長が訪れた。
「会長!」
「一体全体どうなってんですかぁ~!」
「それを今から説明するのですよ――ささ、真面目な話をするので現世さんも離れてくださいね?」
「仕方ないわね……」
会長に言われてようやく、輝夜は離れてくれた。
「それでは説明しますね。事の経緯は――」
そこから話されたことは俺たちの知らない部分でのことだった。
「現世さんは確かに妖であり、人ではありません。ですが正義君を通じるだけでなく、その他でも現世さんはこちらに情報提供をしてくれたり、妖退治に協力もしてくれています。色々とありましたが、彼女との関係は良好と言えるでしょう。そんな中で、彼女が学生生活というものを体験してみたいと相談に来ましてね……現世さんの境遇などを鑑みた結果、であればと生徒会長の特権と家の権力をフルに使って諸々の準備を終えました」
「特権とか権力って言ってんじゃん……」
「そこ、うるさいですよ」
ボソッと呟いた蒼汰に会長の激しいツッコミが飛ぶ。
ただまあ……確かに会長の力があれば、本来人間として存在しない戸籍を用意することなんて容易だろうし、何より転入手続きも苦労はしないはずだ……けど、そこまでやろうと思うくらいに会長が輝夜のことを信頼しているのは中々に意外だ。
「現世さんが妖であることは疑いもない事実ですが、その事実を知っている者は極僅か……わたくしたちしか居ません。それに何より、現世さんがこちら側に居てくれることは大きなメリットとなります」
「メリットになれるかどうかはともかく、私が嫌だと思うこと以外なら最大限協力するつもりだわ。それが正義の言ってくれた人間社会に溶け込むということでしょうし」
輝夜はそう言ってパチンとウインクをした。
会長が言ったことは一部無茶をしたなと呆れもするが、それ以外のことは俺たちにとってかなり助かることとなる。
輝夜だからこそ妖について分かることもあるだろうし、何より実力者の彼女が味方というのは本当に大きなことなのだ。
「これが、現世さんの転入に関する事実です。ですのでみなさんも、どうか現世さんと仲良くしてくださると嬉しいです」
「ま、私としては正義と仲良く出来ればそれで良いけどね」
「……むぅ」
「……なるほど」
もちろん、俺としてもここまで輝夜の転入云々に何か言う気はない。
輝夜もまたある意味で父親である妖の被害者……本来のストーリーで死ぬ寸前に、彼女が普通の女の子として生きたかったという願いを知っているのもあって、何だかんだ俺は最初から賛成だ。
よしっ、ここは俺も援護に入るとするか……必要ないだろうけど。
「既に輝夜のせいで色々変なことを言われてる身ではあるんだが、俺としては凄く嬉しいと思ってる。輝夜はずっと妖として……それこそ、あの父親の道具として生きてきた。そんな彼女がこうして人間社会に溶け込もうとしているだけでなく、普通の女の子のように学生生活を送ろうとしているんだ――俺としてはそれを応援したい」
俺さぁ、たぶん凄い真面目に見えると思うんだ。
もちろん嘘を言っているつもりはないし、出来るだけ輝夜のことを言い人っぽく口にして無理に認めさせようとも考えていない。
ただ……たださぁ、この場に居る男って俺と蒼汰だけなんだわ。
つまりただでさえエロ女ばかりだったこの空間に、それを上回るレベルの最強エロ女が加わったわけで……さっきから色気がムンムンと融合しまくってえらいこっちゃなわけ!
「そう……だね。正義君が言うなら認めないわけにはいかないよ」
「ですねぇ……何度か戦ったわけですけど、あれ以降は助けられたこともありますし! 何より正義先輩が言ってますから!」
「あぁ、俺たちは君を歓迎するよ。よろしく現世さん」
……って、俺が思ったよりも簡単に受け入れたな。
だけどまあ、こうして輝夜が受け入れてもらえたことは良かった……よしとっとと退散しよう。
「俺なんかの言葉が受け入れてもらえて嬉しい限りだねぇ……ってことで俺はもう戻るから!」
これ以上ここに居たら前屈みになっちまうぜ……。
(幼馴染系無自覚エロ女、淫乱ギャルピンク、横乳エロ女……そしてそこにそれらを上回るサキュバス系エロ女かぁ……ちくしょう、割とマジで生徒会を抜けることも考えるかぁ?)
あの様子だとほぼ確実に輝夜は生徒会室に入り浸るだろうし……つうか別に生徒会じゃなくても妖を狩り続けることは出来る。
だから辞めても問題なくね……?
ちなみにそう考えた瞬間、複数の視線に射抜かれたような錯覚を感じ体が震えた。
▼▽
「俺なんか、なんて言うのね彼は」
「う~ん、正義君って変な所で謙遜するからね」
「先輩が凄いだなんて誰もが認めるんですけどねぇ」
若干前屈みという変な姿勢で去って行った正義に関して、残された者たちの会話が弾む。
正義が居なくなっても輝夜に対する見方が変わらないのは、ここに居る全員に彼女が受け入れられたということに他ならず、正義が居たから仕方なく頷いたというわけではもなさそうだ。
「俺たちはあいつが現世さんに対して……」
「あ、普通に名前で良いわよ。現世って名字、あまり好きじゃないの」
「そうか……? じゃあ輝夜さん」
「何?」
「あいつが輝夜さんを助けたことは知ってるし、どんな風に接したかも知ってる。輝夜さんは正義を凄く信頼してるんだな?」
「信頼してるわ……むしろ、信頼という言葉では足りないくらいかしら」
何故なら正義は、輝夜の価値観を全て否定しただけでなくひっくり返して未来を示してくれた……それが正義に対してクソデカ感情を抱かせないわけがない。
しかも過去に飛ぶなんてことをやって人間に犯された痕跡さえ消し、憎しみを断ち切ってくれた……だがこれに関して喋るつもりはなく、輝夜だけが知る正義からの特別なのだと微笑むだけに留める。
「なんだか~、色々と聞いてみたい気分かも。ねえ輝夜先輩? やっぱり妖の側からも正義先輩は恐れられてたの?」
「先輩……」
初めて先輩と言われ、輝夜は不思議な気分になったら悪くなかった。
これが人間社会というもの……悪くないわねと心の中で思った輝夜は、桜花の言葉に頷く。
「そうね……正義は私の父が初めて恐れた相手だった。何が何でも殺さなければならないと、そう他の妖たちへ必死に通達するくらいにはね」
「上級妖でさえ強力なのに、それらを束ねる最強の妖が……分かってはいましたが、正義君は本当に凄いんですね」
正義が居ないところで、彼に関する話が盛り上がりを見せる。
妖である輝夜しか知らないことが話される中、その場の全員が輝夜の言葉を聞き逃すまいと耳を傾けている。
「父の部下には強力な上級妖が何体も居たわ。中でも空間から空間を渡ることが出来る妖と、心を読む妖は特に信頼が厚かった」
「それ、俺たちも知ってる。元々データベースで知ってたけど、何人もの人間を貶めてきた代表格だって」
輝夜は頷く。
「あれは私も覚えているわ――前半の妖は、傷だらけで逃げてきたけどまさかの空間を切り裂くように追いかけてきた正義に斬られた。その時に言った言葉も覚えているわね」
目を閉じ、その時のことを輝夜は思い返す。
『この空間に俺はずっと居られない……でも、そいつは仕留めた――覚えておけよラスボス野郎、てめえの好きにはさせねえ……仲間を守るために必ず、お前は俺が……俺たちが仕留めてみせる』
全身に返り血を浴びた正義だったが、その時既に正義とラーメンを食べに行ったこともあったので、輝夜は素直にかっこいいと口にしていた。
「後半の妖に関してはお気の毒としか言えないわね。本来であれば心を読まれるというのは大きなアドバンテージを取られるのに、正義の心は読めなかったみたいなの――心を読もうとしても戦術の類は見えず、唯一見えたのはただただこちらを殺そうとする言葉無き意志だけだったらしいし」
「……聞くだけで凄いとしか言えないんですが」
「そうよ、正義は凄いのよ」
そんなこんなで、正義の居ないところで随分と盛り上がったとか。
ちなみに、この話に出てきた妖たちは本来であれば死ぬことはなかった存在で、本来のストーリーでは暴れに暴れて何人もの妖狩りを仕留めた。
男は殺し、女は苗床として……だが当然のように、その妖たちも正義の滅茶苦茶パワーで倒されていた。
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