妹がやっぱりエロいと思ったら色々大変なことに
「お兄ちゃん」
「っ!?」
妖を狩り、輝夜と会った後のことだ。
途中でコンビニにでも寄ろうかと思ったけど、見るからに大学生くらいのヤンキーが屯していたのでスルーした。
そうしてアイスの一つも買わなかったことに若干の後悔をしながら帰ったら、家の前で祈が待っていたんだ。
「どこに行ってたの?」
「どこって……妖を狩りに」
「……やっぱりそうだったんだ。怪我はしてないよね?」
「俺が怪我をするわけないだろ? んなことをしてお前や母さん、父さんに心配は掛けたくないからな」
「そっか……あれ? 確かに温かくなってきたけど、それでもまだ夜は冷えるよね? それなのに上着を着ていなかったの?」
「上着は……友達に貸した」
友達……まあ間違ってはないだろう。
俺と輝夜の関係性なんてそんなもん……いや、友達相手にそんなもんだなんて言うのは失礼か。
「ふ~ん……?」
「祈?」
祈はジッと俺を見つめたかと思えば、そのまま近付く。
くんくんと俺の匂いを嗅ぎ、知らない女の人だと小さく呟いた。
「……何してる?」
「何でもない。ただ、誰なんだろうって思って」
「だから友達だって」
「でも不思議な香りだよ? こう……本能から同じ人間じゃないって感じるような感覚」
「……凄いなお前」
念のため、俺も自分の服の匂いを嗅いだが全然分からん。
とはいえ若干甘い香りが染み付いているような気がしないでもなかったので、祈が感じたのはおそらく輝夜の匂いだ。
女性は匂いに敏感なのかはともかく、輝夜のことにもしもそう思えたなら大した勘だ……流石は俺の妹ってやつ?
「ま、とにかく祈が心配する相手じゃないよ」
「分かった」
「……えらく素直に頷いたな?」
「お兄ちゃんがそう言うなら間違いないもん」
「そか」
「うん」
これは……物分かりが良いと喜べば良いのか、逆に何を考えているのか分からないことを怖がればいいのか……。
「……ふわぁ」
「眠たいの?」
「少しな……」
どうやら輝夜との出会いに神経をすり減らし過ぎたようだ。
つうかあの女……マジで目の前に立つだけでエロさが際立つというか、見た目もそうだけど雰囲気とか喋り方とか……声音とか全部に色気が混ざるのほんとやめてほしい。
(……しっかし、前世でも思ったけどああいう着方には疑問しかない)
着物を着崩して胸の谷間を見せるようにしてるんだけど、なんであれってあのままの位置で固定されるんだ? まさか……エロい何かしらの力が働いてああいう重量を無視したことを可能にしてるとでも言うのか?
「……分かんねえ」
「何が?」
「何でもない」
その後、相変わらずジッと見つめてくる祈と一緒に家に入った。
リビングに向かうと父さんと母さんが談笑しており、俺が居なくなったことは知らないはずなのにおかえりと言ってきた。
「……何も言ってないのに何で分かるの?」
「分かるさ。息子のことだからね」
「分かるわ。息子のことだもの」
たったそれだけ……それだけ俺のことを両親は理解してくれていた。
……ったく、最近は常にエロい妄想に囚われてどうしようもない俺なんかには勿体ない両親だ。
マジで愛してるよ父さん、母さん。
「ふっ」
「なんでドヤ顔?」
さ~て、それじゃあちょいシャワーを浴びて寝るとしますかねぇ!
しかしシャワーを浴びて部屋に戻った俺を迎えたのは祈……だったのだが、俺はそこで雷の打たれたかのような衝撃を受けた。
「おかえりお兄ちゃん」
「おかえりじゃねえだろぉ!?」
俺はもしかしたら、いまだかつてないくらいに妹へ大声を出した。
もしかしたら一階に貫通して両親をビックリさせたかもしれないが、そんなことはどうでも良い……良くないけど!
「なあ祈……一体どうしたんだ? なんでそんな服を着てるぅ!?」
「なんでってパジャマだよ。これを着て寝るの」
「……………」
パジャマ……いや、パジャマなのは分かる……問題はどうしてそういうパジャマなのかってことだ。
さっき祈が言っていたようにまだ少し夜は冷えるので、モコモコとした温かい質感のパジャマなのは別におかしなことじゃない……だけど、だけどそれは何だ!?
「それはなんだよ!?」
俺が指を向けたのは祈の胸元……中学生とは思えないほどに大きな膨らみが包まれているその場所だが、何故かハートマークで繰り抜かれたように穴が開いている。
こんなの……俺は漫画とかアニメでしか見たことねえぞ!?
「……ここが気になるの?」
祈は無表情のまま、その穴に指を近付け……胸の谷間に差し込み、押し広げるようにしていく。
「ちげえよ! 胸の谷間が気になるんじゃなくてその穴だ!」
「穴だよ? ほら、良い感じに迎え入れられそうな穴になった」
「やめろおおおおおおおおおっ!!」
おかしい……妹がおかしいよおかしくなっちゃったって!
俺はすぐに部屋を出て再びリビングへ向かうと、父さんは居なくなって母さんだけが残っていた。
慌てて訪れた俺に母さんは目を丸くしているが、俺はそれを気にすることなく口を開く。
「マミー大変だ!」
「どうしたの? マミーに教えてちょうだい」
いつもはマミー呼びなんてしないよ?
ただそれだけの重大事件が発生したことで、俺の慌てぶりの証明だと思ってくれ。
「祈が大変だ……なんかやべえパジャマ着てる!」
「やべえパジャマ?」
「そんなにヤバいかな?」
「っ!?」
後ろに付いてきていた祈から飛び退き、母さんの背中に隠れる。
ここはやっぱりそういう刺激的なパジャマはダメだと、兄妹間で万が一があったらダメだと母さんから怒るべきだ……だから注意してくれよ!
そんな一抹の希望を抱いたが、母さんはこんなことを言いだす。
「別におかしくなんてなくない? 可愛いわよ祈」
「でしょ?」
「……??」
え……?
何、このハートマークズリ穴ファッションは普通なの……?
ま、まあ俺が男で祈も母さんも女だしそういう感覚なら……そうかとしか言えないか……ってあれ?
(……待てよ?)
俺はそこで一つ、重大な事実を思い出した。
そう言えばこの世界は俺が居た世界ではなく、エログロ上等の今ではエロしか残っていない世界だった。
それを考えた時、俺の中で急速に靄が晴れていく。
ただでさえエロい体を持った女たちが居るだけでなく、その服装なんかもエロい物が多い……横乳エロ女っつう極みが傍に居るし、あれに誰も違和感を持たないならこの二人の感覚は正常で逆に俺だけがおかしいってことになる。
(……そういうことぉ?)
いや、これを認めたらダメだろおおおおおっ!?
てかそうじゃなくて認める必要なんて一つもない……だって俺がこれに対してエロいと思うんだ……内なる獣が暴れ出しそうになるんだからそれを我慢するために、俺が反抗するのは何一つおかしくないじゃないか。
「今日はこれでお兄ちゃんと寝るから」
「……はっ?」
「もう決めたから」
「あら、良いじゃないの。もっと誘惑してしまいなさい」
「母さんは母さんで何を言っとる?」
「祈は正義のことが大好きだものね。それに血の繋がりはないし」
「大好きとかそういう問題じゃ……うん?」
待て、マミーは何と言った?
俺と祈に血の繋がりがないだって……? たぶん、今の俺は物凄い顔をしていたに違いない。
だが、クスッと笑った祈と母さんの姿が俺に嘘だと教えてくれた。
……はっ、そういう息子の揶揄い方は泣くぞ俺。
「ごめんなさいね。明日はすき焼きにするから許してくれる?」
「うん」
それなら良いよ。
それから部屋に戻ると当たり前のように祈も部屋に入り、そのまま彼女は俺のベッドに入り込んだ。
「言ったでしょ? 今日はここで寝るって」
「……………」
「ほら、寝るんでしょ?」
これは……どうあっても部屋を出ていく気はないらしい。
つうか分かってるのか? ベッドはそこまで大きくないし、二人で寝ようとしたら結構詰め詰めになっちまうことを……正直寝づらいぞ?
「引っ付いて寝れば良し」
「……………」
いやそれは……ったく、妹だからこそ別に良いかと思えるから俺も意志が弱いなぁ。
半ば諦めて祈が待つ自分のベッドに入り、俺に体を向けて祈が抱き着いてくる。
(ぐおおおおおっ……!! やっぱ妹もエロい……なんでこんな立派に成長しちまったんだよ……しかもスリスリしてくんなよぉおお!!)
これじゃあ学校でも溜まったモノが家でも溜まり続けてしまう……これはやはりどうにかしなければ……っ!
年齢を偽ればそういうお店なんていくらでも行けるし……よしっ。
「何を考えてるの?」
「何も?」
「そう……? ねえお兄ちゃん」
「……なんだ?」
「血の繋がりがないとか、そういう事実はないよ。私とお兄ちゃんはちゃんと兄妹だから」
「もう分かってるって……」
でも少しばかり、マジでって思ったのは申し訳ない。
祈は俺の妹……大切な妹でそれはずっと変わらない……祈はこんなにエロくても大事な妹――。
「ちゃんと兄妹だからずっと一緒に居られる……何があってもずっとね。でも間違いをしてしまう背徳感も正直悪くないし、お兄ちゃんなら責任を感じて一生私を傍に置いてくれそうだしそれはそれで……」
……これ、俺が眠たいから聞こえている幻聴に違いない。
▼▽
一体、いつ大人のお店に行って手助けしてもらおうかと考える今日この頃だ。
あれから輝夜に出会うことはなかったので、俺の上着はあいつに預けたまま……連絡先も知らないから会おうにも難しく……けど妖を狩っていればまたいつでも会えると思うのでまあそこまで気にしちゃいない。
だが、その日の学校は朝から大波乱だった。
「今日は転校生を紹介します」
転校生……?
こんな時期に転校生って珍しいなと思いながら、封妖に来るってことは妖狩りかなと軽く考えていた。
だが、聞こえてきた声に俺は思考が停止する。
「現世輝夜です――よろしくお願いします」
「……ううん??」
まず、教卓の方を見る前に目を丸くする愛華が視界に入った。
何だろう……とてつもなく嫌な予感がするなぁと思いつつも、怖くて顔を上げずに居た……すると、誰かが俺の前で立ち止まった。
「……?」
クラス中の唖然とした視線が俺と……前に立つ誰かに注がれている。
そしてようやく、俺はそれが彼女――輝夜であることに気付いた。
「……なっ」
「ふふっ、はあい正義。これ、返しに来たわよ」
そう言って手渡されたのは綺麗に畳まれた上着……一昨日、俺が彼女に貸したものだ。
「あの夜はありがとう。あなたから与えられた温もりが忘れられなくて、こうして学校でも一緒に過ごしたくなっちゃったわ」
その瞬間、教室中から悲鳴が上がったのは言うまでもない。
そして何より……物凄い形相をした愛華を蒼汰が必死に抑えようとしている姿も見え、俺は一目散に教室から逃げたくなった。
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