サキュバスみたいにエロい女だぜ

「救世先輩、こんにちは!」

「先輩! 俺、先輩の教えを胸にもっと頑張ります!」

「もし良かったらまた今度、新しい戦術を教えてください!」


 昼休み、食堂で俺はそんな言葉を沢山受け取っていた。

 普段は愛しのマミーが作ってくれる弁当を持参しているのだが、今日は珍しく風邪を引いてしまったとかで学食で飯を食うことになったんだが、こういう場所に来ないのもあって姿を見せた途端にこれだった。


「ははっ、大人気じゃないか」

「さっすが正義君だよ!」


 一緒に飯を食っている蒼汰と愛華がそう言うが……正直、こういう扱いはまだ慣れない。

 これもまた俺が暴れ回った結果ではあるんだが、俺は別に自分のことを英雄だとも凄い奴だとも思ってないわけで……それでも俺はそんな奴じゃないと大々的に否定しないのは、こうして慕ってくれる人が多いからである。


(それもあるけど……絶対に幻滅されるだろ――今の俺が、この学校に蔓延るエロ女共たちのせいで内に眠る獣を律するのに大変だってことを)


 つっても仲の良くて身内同然の親しい連中は、俺の口から飛び出る俺はそんな奴じゃないという台詞は聞き飽きてるだろう。


(そうだよ……俺は確かに強い人間だよ。ある程度の妖ならぶっ倒せるというか、ラスボスにも単独で傷を付けられたさ……でも俺はエロに脳がやられてんだよ)


 もう色々と我慢ならねえ!

 そんな勢いで親しいエロ女たちにこれでもかと色々口にしたが、何故か以前よりも親しみを感じるというか……とにかく距離が近くなったことが解せない。

 おかげで最近の俺は毎晩のようにティッシュを……げふんげふん。


(ま、俺も一人の男ってことだな!)


 ティッシュの量が増えた所でゴミ捨ては自分でやるから問題ないし、変に思われることも絶対にない。

 ただ……最近祈に呼ばれて部屋に行った際、俺よりも捨てられたティッシュの量が多いのは大丈夫かと気になる。

 あの子は俺と違って繊細だし、体も俺のように頑丈じゃない……花粉症とかの話は聞かないけど……ちょい不安ではあるな。


 ▼▽


 さて、そんな風に妹のことが気になった日の夜。

 近所で妖の気配を感じ、刀を手にして家を飛び出た。

 俺の転生特典である最強パワーは日を追うごとに強力になっていく実感があるのだが、こうして現れたばかりの妖ですら感じ取れるくらいになってしまった。


「俺、段々と人間を止めてる気がするのは気のせいかな……」


 今でも十分そんな気はするけど……なんて、目の前で両断された妖を見て呟く。


「最上級妖……ラスボスを仕留めたってのに、マジでなんでこいつら生まれてくるんだろうなぁ。ボスをやればすべて終わる……なんて単純なことじゃないのかねぇ」


 そう単純ならどれだけ楽か……。


「……むっ!?」


 その時、俺の髪の毛が僅かに逆立つ。

 ビビッと感じたこれはエロ女の気配が近付く感覚……! それも特級クラスのやべえ奴だ警戒しろと俺の中の獣が歓喜の舞を踊るように警告してくる。


「はぁい、こんばんは正義」

「……輝夜」


 空に浮かぶ満月の光を浴びながら、着物姿のエロ女――輝夜が姿を見せた。


「何してんだよこんなところで」

「散歩よ。でも時には気分で出歩くのも悪くないわね――こうしてあなたに会えたんだもの」


 クスッと笑った拍子に、着崩した着物から覗く胸が揺れた。

 ……なんで? なんで笑った拍子というか、それだけでその大きな胸が揺れるんだ? 柔らかそうな感触を暗に伝えるかのように、ぷるんって震えるんだエロ過ぎんだろどうなってんだ。


「ねえ正義――」

「言っただろ。俺に近付くなって!」

「そんなのどうでも良いわ。はい、捕まえた」


 しゅんと姿が消えたかと思えば、すぐの目の前に彼女は現れた。

 これが敵対していた時なら瞬時に飛び退いていたものの、輝夜はもう敵対する気がないだけでなく、時にはこちらに協力してくれるようになったので危険という意味で警戒はしていない。

 だからこうして、彼女が懐に入り込むのを許してしまった。


「ば、馬鹿野郎なんで抱き着いてくるんだよ!?」

「良いじゃないの。だって前にちょっと会ってからご無沙汰だったじゃない? だからこれくらいは良いかなって思うのよ」

「全然良くはねえよ!? つうかそのデカい乳を擦り付けんな! 足を絡めてくんじゃねえ!」

「ふふっ、本当に意識してるのねぇ。以前の刃物のようなあなたも素敵だったけれど、そうやって一丁前に照れる姿もやっぱりそそるわ」


 そそるじゃねえよ……くそっ、つうかこいつも愛華みたいに力が強いどうなってんだ!?

 妖だから強いのは分かってるけど……ってそうだった。

 こんな風に体を絡ませられるのは初めてだったわ……いやいや、そんなことが今までにあったらやべえだろ!


「男はみんな、私の外見だけは求めるでしょう。けれど人間であれば私が妖であると知れば恐れるでしょうし、同じ妖であれば潜在的に恐怖を抱いて離れていく……ねえ分かってる? 私はとにかく孤独だった……そんな私の孤独を埋めてくれたのがあなたなの。私に手を差し伸べてくれたあなたが、私にとって唯一なのよ」

「……………」


 切なそうなその瞳から視線を逸らせなくなり、俺はジッと見つめる他なかった。

 ドクンドクンと強く鼓動する心臓の場所に輝夜は指を当て、そのまま円を描くようになぞる。


「こうやって接近し、心臓を一突きするのが常だった……それが初めて出来なかったのがあなた。何をしても壊せないと思ったのがあなた……私が妖であると知っても恐れなかったのがあなた――ねえ正義、あなたはどうして私を救ってくれたの?」


 どうして救ってくれたか……そんなもん決まってる。


「助けたかったからだ――俺にはその力があるから」

「……そうよね。前にもあなたはそう言った……ほんと、憎たらしいほどに不思議な人間ね」

「俺からすれば、お前はあまりにも妖らしくないけどな」

「あなたがそうさせたのよ。だからこうしてる」

「なんでだよ!?」


 あ、ちょっとヤバいかもしれない……一応、ちょいシリアスな会話と彼女と繰り広げていたものの、俺は常に彼女の体から発せられる凄まじいフェロモンと戦っていた。

 しかし、それももはや限界が近い。


「そんな必死に唇を噛むようにして我慢するなんて……よっぽど私の体は魅力的なのかしら?」

「おま、分かって言ってんだろ……お前の体が魅力的じゃなかったら世の中の女は誰も魅力的じゃねえぞ」

「それでも最後の一線は我慢するのね。私は妖であなたは人間、どれだけヤリまくってもノーカンでしょうに」

「ねえ、さっきから止めてくれない? どんだけ俺を狼にさせたいんですかねあなたは」


 俺からすれば、妖も人間も何も変わりはしないっての。

 そりゃ親しいかそうでないかの違いはあるし、そもそもの戦いの発端になった輝夜の父や、問答無用で人を襲う妖は排除の対象だが。

 俺は体に力を入れ、輝夜の肩に手を置いた。

 直接触れる肌は冷たい……ってそれもそうだ夜だし。


「全然寒くなさそうだけど、肩冷えてるぞ?」

「寒くなんてないわ。そもそも、妖である私には問題ないから」

「……これ、着とけ」


 俺は上着を脱いで輝夜の肩に掛けた。


「……温かいのね」

「ずっと着てたからな……つうかよぉ、頼むからマジでこれ以上俺を誘惑すんじゃねえよ」

「改めて聞かせてくれる? どうしてそうなったの?」

「あ? あぁうん」


 最近、やはりちょっと疲れがあったのかもしれない。

 改めてベラベラと俺は輝夜に話す――最近、マジで近くに居る女にエロスを感じて大変だってことを。

 ナチュラルエロ女の愛華とか、淫乱ギャルピンクや横乳エロ女のこともしっかりと伝える。


「それで以前、心に余裕が出来てとか言ってたのね」

「そうだよ……そうなんだよもう気になって仕方ねえんだよ。でも終わってんだろ? 守るって決めた相手に欲情するとかさ……それってなんか違うだろってなっちゃってんの」

「その言い方だと私のこともしっかり守る対象だって言いたげね?」

「は? 当たり前だろうが――俺はもしも、輝夜に危険が迫ったらすぐに駆け付けるぞ?」

「っ……」


 輝夜ももう大事な仲間みたいなもんだから……だから欲情すると困るんだよ分かってくれよなぁ!?


「ま、お前にそんな心配は要らねえだろうけど」

「……分からないわ。私だって何かあるかもしれないわよ? つい最近、あなたのことを考えてて曲がり角で小指をぶつけたもの……壁が崩れたけど」

「何してんねん」


 とにもかくにも、妖は滅したからもう帰るとしよう。

 これ以上ここに居たら……それこそ輝夜が傍に居たらもうダメだってなりそうだし。


「その上着、また会った時に返してくれればいいよ」

「そう……? ならまあ、近いうちに必ず返しに行くわ」

「いや、会った時で良いから」


 俺が勝手に渡したものだからと、そう言って輝夜の元を去るのだった。


「……ふぅ」


 しっかし、本当にエロくてやべえ女だと再認識した。

 やっぱり輝夜にはこう……人間にはない魅力というか、ちょい違った何かがあるんだようなぁ。


「そういや、輝夜の裏設定というか……実際に経験した人は居ないけど彼女とエッチしたら本当の意味で天国に行けるくらい気持ち良いとかあったよな……はっ、完全にサキュバスじゃねえか」


 結論、輝夜は超ド級にエロい女ってことでやっぱあぶねえわ。


「……クソッタレ、面白がって揶揄いやがって」


 流石大量の二次創作を作り上げた女だぜ……。




『全部、なくなってしまったわ』

『なくなってねえよ。お前の命はそこにある……だから生きろよ』

『……どうやって生きれば良い?』

『好きに生きれば良いじゃねえか。お前はもう何にも縛られちゃいないんだよ。勝手に生きて、勝手に楽しんで……んで、好きな男でも出来たら勝手に恋をすりゃいい。輝夜みたいな魅力的な女に迫られて我慢出来る奴なんてそうそういないぞ?』

『ふ~ん……?』


 実はそんな会話も、正義はしていたりする。

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