妹もエロいけどそこまで意識はしねえ!

「なあ」

「うん?」

「最近、どうしたんだよ」

「どうしたって普通だよ」

「普通じゃねえだろ……まるで中身が変わったみたいじゃん」

「変わってねえよ。気にするようになっただけだ」


 そうだよ、俺は何も変わっちゃいねえ。

 ただ目の前で理不尽に振り撒かれるエロスが気になり、青少年として正しい反応をしているだけに過ぎねえよ俺は。

 そう口にする俺を見つめる男は沖田おきた蒼汰そうた

 俺なんかと比べ物にならないくらいのイケメンで、明らかに女子ウケする顔立ちにムカつくことはないが、何を隠そうこいつこそこの世界の主人公君だ。

 作者の人が新選組が大好きという話もあり、それで名前も沖田総司にちょい寄せたらしい。


「逆に聞くけどよ、なんでお前は気にならないんだ? 生徒会の会議だけじゃなくて、普段の教室でもエロい女ばかりだ。お前の幼馴染を筆頭に健全な青少年を刺激するエロ女ばかり……なんでお前は何も感じないんだよもしかしてもう勃たねえのか?」

「は? 朝からバリバリ元気だが……ってそうじゃなくて。ほら、それだよそれ」

「何がだよ」

「今まで正義はそんなこと言わなかっただろ? それがいきなりそういう言動をしだしたら不安になるんだって」


 なんだこいつ良い奴だな……分かってたけど。


「俺は今まで、とにかく必死に戦ってた。自分でもビックリするくらいやれることは多いし強いけど、だからこそ目に見える部分だけじゃなくて迫りくる理不尽すら払い除けたかった」

「……そうだな。正義はそうだった……それに俺も愛華も、多くの人たちが救われた」

「そこまで責任深いつもりはないけどさ、強い力があって守れるからこそ誰であれ手を差し伸べたかったんだ。この世界に蔓延る理不尽はクソくらえって感じで……ほんと、必死だったわ俺」

「……………」

「そんな風に必死だったから気付かなかったわけだ――傍に居る女共が如何にエロい存在で、いつ俺が狼になってもおかしくない状況だったってことに」

「……うん?」


 話を始めたのはお前だからな? しばらく止まらねえぞ俺は。

 ポカンとする蒼汰を見つめながら、俺は自分の心に抱える物を吐き出すように……さも政治家が演説をするかのように言葉を続ける。


「蒼汰、俺は男だ。健全で、エロい物には目を向けちまう罪深い存在なんだよ」

「お、おう……」

「そんな俺の傍に……否、この学校にはでけえ胸とかでけえ尻とか……それだけじゃねえ! 派手な奴は胸元のボタンを外して谷間を見せてやがるし、スカートは短くてちょっとその気になればパンツなんて丸見えじゃねえか。更に言えば、妖が苗床として求めてる時点で彼女たちはエロい存在だって言ってるようなものなんだよ!」

「お、落ち着けよ少し!」

「落ち着いていられるか馬鹿野郎! そんななあ! そんな中に居て何も考えるなってのが無理なんだよ! 色々と気を張る戦いから解放されて気楽になったからこそ、そういうことが気になって仕方ねえんだ!」


 そんな俺に比べて、この主人公野郎と来たら常に澄ました顔でイケメン面してやがる!

 俺と同じでエロ女共の巣窟に居るってのによぉ!


「お前恥ずかしくねえのか? 他の男子とか、街中を歩いている男共は見るからに欲望の目を向けてるってのに……それなのにお前と来たら男の風上にも置けねえ」

「なんで俺がディスられてんだよ!」

「愛華とはどうなんだよ。あんなエロい女が傍に居て」

「いや、だって愛華は……あぁもう! お前はきっと疲れてるんだ数日休んだらどうだ?」


 疲れてる……?

 ふむと、俺は顎に手を当てて考えてみた……確かにラスボスを倒してからも妖狩りは続いているし、休日もどこかに妖が出て悪さしてないかと気にしまくりだが……。


「俺たちはみんな、正義に何かあったら心配するんだぞ? 良いか、よく覚えておいてくれ――俺たちにとって、お前は大事な仲間であり友達なんだよ。だから休める時にはしっかり休んでくれ」

「……おう」


 ……こいつ、やっぱ主人公だわ。

 一応今日も生徒会会議はあるのだが、蒼汰にここまで言われたのなら早めに帰ることにしよう。

 終礼が終わってすぐ近付いてきた愛華、教室に突撃してきた桜花のエロダブルスには蒼汰が事情を説明してくれたので、俺は堂々と一足先に帰らせてもらった。


「ただいま~っす」


 特に寄り道することなく帰宅する。

 主人公やヒロインたちに比べれば、本来の立ち位置からすると俺は誰しもが気にも置かないモブだろう。

 だがそんな俺にも当然家族は居る……大事な家族が。


「おかえり、お兄ちゃん」


 玄関を開けてすぐ、その場に立っていた存在にビックリする。

 自宅ということもあって気を抜いていたからか、あまりにも分かりやすい気配に全く気付けなかった。

 そこに居たのはこの世界における俺の妹だ。

 名前はいのり、黒のボブカットと無表情が特徴で……妹も例に漏れずとてもエロい体をしている。


(クソが……血の繋がった妹にエロいとか最低だろ……これも今まで全く気にならなかったのによぉ!)


 悲報、俺には家でも安息の瞬間はない……なんて思ったものの、実はそうでなかったりする。

 確かに祈も凄まじいほどの暴力的スタイルを持った美少女だが、家族ということもあって普通に接することが出来る……まあ、妹に対して欲情出来ないというのもあるんだろうが。


「ただいま祈。ずっと待ってたのか?」

「うん」

「友達とは?」

「今日は早めに帰ったの。何となく、お兄ちゃんが早く帰るかなって」

「へぇ、大当たりじゃん」

「やったね」


 お、今少し笑ったか……?

 しかし……こうして改めて見ると理不尽というか、フツメンの俺に比べて妹の美少女っぷりはヒロインたちに引けを取らない。

 これで中学三年生だって言うんだから色々凄まじい。


「どうして早いの?」

「あ~……友達に最近疲れてるんじゃないかって言われてさ。それでじゃあ早めにってことで帰ってきた」

「……疲れてるの?」

「分からん……って心配するほどのことじゃないぞ?」

「でも……ならお兄ちゃん、私が癒してあげる」

「え?」


 そんなこんなで、しばらくした後……リビングで俺は祈に添い寝をしてもらっていた……なんで添い寝?


「えへへ、お兄ちゃんが傍に居るの好き」

「はっ、可愛すぎかよ」


 いや、妹が可愛すぎて最高なんだが?

 なんで添い寝と思ったけど、祈なりにこれが俺の疲れを癒せると思ったんだろうか……いやもう全部が可愛すぎる。


「俺、お前のお兄ちゃんとして生まれて幸せだわ」

「私もお兄ちゃんの妹で幸せ♪」


 前世では妹なんて居なかったからなぁ……なるほど、全国のお兄ちゃんはこんな風に妹に癒されていたのかよ地獄に落ちやがれ俺以外。


「ほら、眠たかったら寝てもいいよ?」

「そうだなぁ……それじゃあしばらく寝るとするか」


 でもさぁ……流石に胸に顔を埋めて眠るのはマズいと思うわけよ。

 横になった瞬間それをしてきそうになった祈を断固として止めたけど、いくら俺が妹相手に手を出さないとはいえそれは刺激が強すぎるんだ。

 それから少しした後、自分でもビックリするくらいに早く眠りに就くのだった。



 ▼▽



 正義は自分のことをモブ的立ち位置だと言っているが、それはある意味で間違いはない。

 何故なら彼は、実際にストーリーには存在しないから……いや、もしかしたら同じ名前でどこかに居たのかもしれない。

 本当にモブのような存在で、それこそどこかで死んでしまい誰の記憶にも残らないような形で。


「お兄ちゃん、寝ちゃったかな?」


 祈に問いかけに正義は反応しない。

 そんな正義の様子をこれ幸いと思ったのか、祈は彼の頭をその豊満な胸に抱く。

 中学生にしてはあまりに発育が良く、学校中の視線を吸い寄せるその桃源郷へと、彼女は兄を導いた。


「むぅ……」

「ふふっ、くすぐったい」


 兄から与えられるどんな刺激も、祈にはご褒美だ。

 祈は……彼女は最初、特に正義のことを特別に考えたことはない……むしろ、家族の心配を他所に妖と戦うことを止めない姿に嫌気が差していたこともあった。


『お兄ちゃんは……どうしてお母さんやお父さんの気持ちを分かってあげようとしないの? お兄ちゃんに戦ってほしくないって、傷付いてほしくないって言ってるのに』


 一度、そう問いかけたことがあった。

 それに対し、正義は真っ直ぐこう返事をした。


『俺には力がある――だからこそ、守れる存在はなんだって守りたいんだよ。もちろんそこには母さんも父さんも、祈だって居る。なあ祈、お前のお兄ちゃんは死んだりしねえよ……心配はさせるけど、それだけは約束するからさ。だから安心して見守っていてくれねえか?』


 頭を撫でてそう言ってくる正義に、祈は何も言えず頷くしかない。

 そんな祈だが、かつて一度だけ妖に攫われたことがあった――その時に偶然一緒に居た封妖高校の生徒会長である白雪も一緒に捕らわれ、祈は恐怖でいっぱいいっぱいだった。


『大丈夫……大丈夫です。隙を見てわたくしが必ずあなたを逃がします』


 白雪の言葉は祈を安心させてくれたが、それではあなたが犠牲になってしまうと祈は言った。


『良いのです。妖狩りになった時点で、誰かを守って犠牲になれるのなら本望ですから――幸い、わたくしが居なくなっても頼れる後輩は多いですからね。あなたのお兄様も含めて』


 妖に捕まった者がどのような末路を迎えるか、知識として祈はしっていた……女の尊厳を破壊されるだけでなく、人としての形を……機能を持ってどんな見た目でも死ねた方が幸せと言えるほどの扱いを受ける。

 仮に全てが失敗した場合、祈もそうなってしまう……というより、仮に白雪が逃がしてくれても祈が逃げ切れる保証はどこにもない。


『……お兄ちゃん』


 見るからに気色悪い触手が迫ってきたその時だった。

 彼が……祈の兄である正義が駆けつけたのは。


『よぉ、俺の大事な妹と先輩を攫いやがったカスはここかぁ?』

『ど、どうしてこの場所が分かった!?』


 現れた兄は正しく鬼神のようだった。

 生理的嫌悪を植え付けるだけでなく、人が居れば見境なく襲い掛かる妖の触手たちが動きを止めていた……意思を持たないはずのそれらは、怒りに打ち震える正義に恐怖していたのである。


『どうして分かったか、そんなの簡単なことだ。この俺が、大切な存在の危機に駆け付けられない道理はねえんだよ――祈、来るのが遅くなってごめんな? それと会長、自分を犠牲にするやり方は止めろよな……もっと自分を大切にしてくれ』


 正義は、一瞬にして全てを切り刻んだ。

 妖から飛び散る血を浴びても表情を変えず、ただ大切な者を守るために刀を振る姿……祈だけでなく、白雪もただ見惚れていた。


『これで終わりっと。なあ祈、言っただろ? 俺は守るために戦ってるんだって……だからこれで認めちゃくれねえか? これからもお前たちを守れる、強い兄で居させてくれねえか?』


 なんてことを言われてしまったら祈も認める他なかった。

 そしてこの時から祈は兄を考えない日はない……彼女の心に根付いた感情は、どこまでも兄を求め続けている。


「お兄ちゃんはずっと私と一緒なの……どこまでもずっとね」


 妹として、何があっても兄を愛し続ける……これもまた、正義が暴れまくって齎された祝福のろいだ。



【あとがき】


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