第9話

「マチ、ウルリの調子はどうだ?」


「傷が目立つだけでそこまで深刻なものではないらしいから、一先ずそこは安心ね」


ウルリは魔力が強いため相手を凌げたのだろう。


「後、ありがと。私達のためにここまでしてくれて」


「……いや、別にいい」


心臓が痛い。


俺達は今、ナナリー先生を待っている。


今日の学校は休んだ。


そもそも俺はナナリー先生がいないと授業ができないしな。


「ねぇ、アルバス。何でナナリーは逃がす手助けをしたのかしら」


「おっ、ちゃんと気付いてたのか。流石だな」


「当たり前でしょ。戦闘中でも周囲には気を張ってるわ


「まぁ、それも含めてナナリー先生に聞けばいいさ。ほら、あそこに先生が…」


「!」


ナナリー先生の姿が見えた。


先生もこちらに気付いたらしくこちらと視線が合う。気まずそうな表情をしていた。


「あんた、今どんな気持ちで学園に来たのよ」


マチが厳しい言葉を投げる。


「…あなた達には申し訳ない事をしたと思ってるわ。特にマチには…」


言葉が切れた。マチが先生を殴ったからだ。


「何が申し訳ないよ!そんな言葉で済まされると思ってるの!?」


「……」


「何とか言いなさいよ!!」


「まあ、マチ。落ち着けよ」


マチは興奮していた。無理もないが。


「先生、何であそこに居たのか奴らと協力してたのか教えくれますか?」


「あれは、二年前のことだったわ」


先生が重い口を開く。


「私の受け持った生徒の一人に腕白なんて言葉では言い切れない、暴力的な生徒が

いたわわ。名前は、エドラド・セル。魔力が強く、大人顔負けの魔術を行使できる優秀な生徒だった。その子は他の生徒だけでなく街の住人や他校の生徒にまで魔法で危害を加えていた」


マチに目をやると少し落ち着きを取り戻していた。


「っていうか、セルってもしかしてあのコロシアムに居た奴か?」


俺は尋ねた。


「そうよ。ドラコはセコンド・セルの息子なの。そして、私を含め他の教師陣も彼を厳正な処分をすべきと学園長に申し立てたわ。だけど学園長はその申し入れを受け入れなった。それどころか、私の監督不届きだと言いて来たわ」


なるほど、話が見えてきた。


「そして、ある日事件が起きたの。教室でドラコが暴れ生徒に手傷を負わせてたの。私は止めるために魔力を使い彼を、吹き飛ばしたわ。だけど当たりが悪かったせいかその場からピクリとも動かなくなったの。それ以来、今も植物人間状態、いつ意識が戻るか分からないわ」


「それでセコンドが先生に責任を求めてきたわけだな」


「弁明の余地はない。いくら止めるためとはいえ一人の生徒の人生を台無しにしたのだから」


「だけど今のあんたは一人の生徒どころか多くの子供たちの人生をめちゃくちゃにしてるわ」


マチの発言に内心俺は舌打ちをした。


「そんなことは分かってる!!!でも他にやりようがなかったのよ!!」


ナナリー先生は泣き出した。せっかくいい感じに情報を引け出せるところだったのに。


しばらくして先生は泣き止んだ。


俺は気なることが幾つかあるので質問した。


「セコンドの奴は学園側には責任を求めなったのですか?」


「勿論、求めたわ。でも学園側は私に全ての責任を押し付ける形で話がついたわ」


先生は泣きはらした顔で言った。


「そういえば、ロド校長はきな臭い噂があるわね。政治家や裏社会の大物に学園がプールしてる資金を使って人脈を築いてるとか」


マチが言う様に確かにその噂が出回ってる。


ロド=ドロと言う名は、センテンス学園の校長だ。


(まあ、その噂は十中八九本当だろうな…。世界が独立してることなどありえない)


「先生、ドラコは今病院に?」


「ブラス病院という所で入院してるわ」


「おいおい、そこって……」


「アルバス、知ってるの?私はそんな病院聞いたことないんだけど」


知ってるも何も、ブラス病院は俺が創設したのだから。


死への旅(デストリップ)の連中を治療する為に造った。


それだけでなく資金源の徴収の役割もあった。


病院は儲かる。


「ブラス病院は闇の住人というか、表には出てこれないような奴らが治療する所だ。とは言っても表向きにはカタギの連中の診断とかもするんだけどな」


「アルバス君、詳しいわね」


「前々から思ってたけど何でそんなにあなたは裏社会のこと知ってるのよ」


「マチ、先生、学校の勉強だけがすべてじゃないのだよ」


俺は適応な事言って誤魔化した。


「でも、ドラコはなんでそんな場所で入院してるのかしら」


「さあな、とりあえず行ってみよう。先生もいいですか?」


「ええ」


そうして俺達はドラコが入院してるブラス病院へ行くことにした。


俺の予想ではナナリー先生は嵌められたのだ。


セコンドとロド校長に画策によって。

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