第8話 脱出

試合が再開された。


「三回戦目を始める!アルバス・ボルグ対ウルリ・マチ!」


(!マチの妹、生きていたのか)


ウルリが現れた。


髪はマチと同じで赤色で長さは短い。


気の強さが顔に出ているが姉に負けず劣らず美人だ。


(目立った傷はないが、体力と精神が摩耗しているな)


早くこの場から連れ出さなければ命に係わる。


「アルバスさん?…なんでここに」


ウルリがか細い声で問いかける。


「俺だけじゃない。マチもいる」


「姉貴が?」


「試合始め!!」


試合が始まった。


ゴウッッ!!!


爆炎が起きた。


注目が巻き上げられる炎に集まった時、俺はウルリ連れて脱出を図

った。


「そうくると思ったぜ、ガキ共が」


セコンド・セルが立ちはだかる。


「後で相手してやるからさ、そこどいてくれや」


「いや、今ここで相手してもらう!!」


セコンドの右腕が肥大し殴りかかってきた。


「だったら私が相手してやるわよ!!」


マチが攻撃を防いだ。


「お前…中々できるな」


「炎舞(ブエン)!!」


両手両足に炎を灯しセコンドに殴りかかる。


攻撃力は勿論、炎で動きを加速させて

いる。


「チッ!手加減は無用か!」


セコンドは全ての攻撃を捌いた。


更にマチは火柱や火球を相手に放つ。


お互い一歩も引かない戦いが続いた。


「このまま逃がすと思うかガキ共!!」


下っ端連中がわらわらとやって来た。


(面倒くせえな!)


「ギャッ!」「うわっ!!」


次々と雑魚共が倒れていく。


(これは、風の魔法だな。目に見えない斬撃を放っている)


これ程視認しにくい魔術を使える奴はそういない。


(ナナリー先生…)


その魔力辿るとナナリーが俺達を助けたようだ。


「あ~なにもかも億劫だ。一纏めにしてつぶしてやる!」


セコンドの身体が六十メートルがあろう大きさに変貌した。


コロシアムの天井が貫かれ、その異常な状態に観客共は逃げまどった。


「アルバス!私が渾身の一撃をあいつに当てるからその隙ににげるわよ」


「分かった」


「いくわよこのデカブツ!!“バーストアタック”!!」


全身に炎を纏い巨大化したセコンドに体当たりをした。


その巨体に見合う爆炎が巻き起こす。


セコンドが呻き声をあげると共に倒れ、俺とウルリはその隙に逃げた。


(我ながら情けない。ここまで何もできないとは)


後からマチも追いつき、俺達は巨木の大きな窪みの中で息を潜めた。


「ウルリ!ウルリ!大丈夫!?返事して!」


マチが必死になってウルリの身体を揺らす。


「今は眠ってるだけだ。緊張から開放されたんだろう」


「でも傷が酷いわ。ずっとあいつらに戦わされていたのでしょうね…」


「そうだな」


マチの顔が悲壮感に満ちていた。


「ねえ、アルバス。何でナナリー先生があそこに居たんだろう」


当然の疑問だった。俺も予想がつかない。


「明日にでも聞き出してみるか」


「そうね。今日はどうする?」


「もう、追手の気配がない。家に戻っても大丈夫だろう」


俺達は、一旦ここで解散した。


「ナナリー、お前何故あいつらが逃げるのに加担した?」


「何のことかしら」


「お前が、部下達に攻撃したことは分かっている」


「……」


セコンドがナナリーに問い詰めていた。


「忘れたか。お前は俺の息子の人生を狂わせた罪がある」


「それは、あなたにも言えることでしょ!何人の子供達を悲劇に落としてるのよ!」


「そしてお前はただ見てるだけだ。お前も同罪だな」


「!!!」


ナナリーはただ黙るしかなかった。

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