第5話 ナナリー先生は無視します。

「はい、もうすぐ授業が始まるから席に着いて」


俺のクラスを受け持つナナリー・ポートマン先生が教室に入ってきた。

茶髪で少し癖毛であり、また彼女を見れば誰もが振り返る程の美しい教師である。


「席には着いてますよ」


「……」

無視された。


だが、これは仕方のない事だ。


その理由を簡単に話すと、入学の際に、魔力テストを行うのだが、俺は一定量の魔力を使い果たし五歳児の子供の姿に変わった。更にその状態で“クラーケンの手“を発動し、ナナリー先生の甘い声を響かせてしまった。


それ以来、先生には話しかけてもろくに返事を変返してはもらえず、もっと悪いことにほとんどの女子生徒達から嫌われてしまった。だが、野郎共には感謝された。


「先生、授業の難易度なのですが、まだ一年なのに既に三年の内容をやるのはいかがなものでしょうか」


「……」


「…他の生徒達もついていけてません」


「…この教室には、私と君しかいないわ」

そう。


この教室での生徒は俺一人だけ。理由は今更書く詳しく言う必要はないだろう。


まあ、要するに魔力をコントロールすることは必要最低限の技術であるということであり、それができない俺は学園一の落ちこぼれなのである。


「それに君はこのレベルの授業にもついてこれているじゃない」


「もし、ついてこれなかったら俺はどうなっていたんですか?」


「勿論、退学よ」


(おいおい、それが教鞭をとる人間のいうことか)


元々は、こんな教師ではなかったらしい。


どんな素行の悪い生徒でも出来の悪い生徒で真摯に向き合う、そんな人だったらしいがいつ頃か覇気が抜けて今の様になってしまったらしい。


「先生、たまには実技の授業もしたいのですが」



「君には才能がない。唯一の取り柄である頭を働かせる方がいいだろう」


(この女、そろそろ痛い目にあわせてやろうか)


思わず少しだけ殺気を覗かせる。


「!!!」


ナナリーがこちらを振り向いた。顔が若干強張っている。


(いかん、この程度の事で怒りを抱くとは)


前世は最強で最凶の魔法使いとうたわれた俺が狭量なことをしてしまった。


「まずは、しっかりとした知識を身に着ける必要があるわ。知識がっての魔法よ」


「はい」


「君には、人並み以上の才能がある。だが、それを操れないようでは宝の持ち腐れ」


「はい、分かりました」


「まあでもそろそろ実技の方も始めてもいいのかもしれないわね」


少しだけ教師らしい振る舞いをみた。


一日の授業も終わり、放課後になった。


マチと妹のウルリを探すためヨルダン地区へ足を運んだ。


「闘技場ってどこにあるのかしら」


「ああ、そうだな」


俺は当たり前だが、知ってる。


「だが、探すのはそんなに難しいことじゃないと思うぞ」


「どういう事?」


「奴らは、魔力の強い奴らをターゲットにしてるわけだろ?だったら俺達でそれをアピ―ルすればいいだけだ」


「確かに!!アルバス、あんた今日は中々冴えてるわね!」


マチの声が弾んだ。


「でもどうやって連中に魔力を示すの?」


「俺とお前で戦うんだ」


「今?ここで?」


「そうだ。力が疲弊すれば奴らも俺達を攫うために動くだろう」


(アルバス。本当に頼りになるわ)


さっそく、二人は戦闘を開始した。


とは言っても、あくまで魔力の消費が目的なのでお互いに外傷が出ないよう手加減した。


(そろそろ、身体に変化がくる頃だな)


俺の身体は小さくなり、マチもわざと大技の魔術を連発したので魔術の底が尽きかけていた。


「ハァハァ、そろそろ来るかしら」


「あ、ああ。現にもう来ている」


「!!」


いくつもの足音が聞こえる。そうと思えば、十人くらいの人攫いがやって来た。


(来たか…)


俺とマチは特に抵抗することなく目隠しをされ、連中にお持ち帰りされた。

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