第73話 断罪裁判はちょー混乱!?

開かれた扉の先では一人のイケオジ貴族が前に立ち、顔を真っ赤にした小太りのおっさん貴族が騒ぎ立ててるようだった。


「ん?『探求尋問官』だと?そんなものが来て何になるというんだ!早くそいつの罪を裁いてくだ さい!」


「少しは落ち着いたらどうなんだ、みっともない。王の前だぞ」


「うるさい黙れ犯罪者が!」


「静粛に」


黒いコートと金の冠を被る中央に座っている鋭い目付きの男。これが国王様か。その隣が裁判長かな?


「さて、これより探求尋問官が尋問を始めるだろう。探求尋問官が尋問する際には、どのような立場の者であろうと隠し立てすることは許さん。

では尋問官殿。頼むぞ」


「はい」


すっごく緊張するな。いきなり裁判は予想外だったからなぁ…。よし!仕事をこなすとするか。


「紹介されました、『探求尋問官』のクート・アワセと申します。若輩者ですが故に、多少の失礼をすることもあるかと思われますので、どうぞ寛大な心でお許しを」


「………」


「それでは尋問を開始します。私の質問には全て『はい』と答えてください。貴方の名前はロウラ・ギナイ公爵閣下であっていますか?」


「はい」(正解)


「貴方の性別は女性ですか?」


「はい」(間違い)


「貴方は魔王国に情報を売りましたか?」


「はい」(間違い)


「…貴方の罪は濡れ衣ですか?」


「はい」(正解)


「偽装系スキルを所持していますか?」


「はい」(間違い)


「国王陛下並びに裁判長様。私の尋問の結果ですと無罪になります。ですので…」


「そんなわけ無い!そいつは絶対に犯罪者だ!そうだ!買収されたのだ!国王陛下に裁判長様!こんなガキの戯言ざれごとを信じないでください!!」


「エンプ・ライビー男爵、静粛に。クート・アワセ尋問官。今の尋問程度では証拠を覆すに至りません。何を言おうとしたのか、続きをおっしゃってください」


こいつが男爵だったのか。


「はい。ですので、私にエンプ・ライビー男爵が持ってきた、証拠とされる品をお聞きすることは可能でしょうか?何分なにぶん、急かされて来たものですので」


 「ふむ、いいでしょう。エンプ・ライビー男爵が持ってきた証拠は魔王国貴族への直筆サイン入りの亡命文書です。対価としてこの国の情報を流すと書いています。

過去の公爵のサインと同じものかどうかをスキル持ちで試したところ、確実に公爵の筆跡だと」


「そうですか…では、次に男爵への尋問を行っても?」


「な、私を尋問するだと!?そんなことが許されると思っているのか!この似非尋問官風情が!」


「探求尋問官よ。私がその尋問を許そう」


「な!?国王陛下!私はこの国の不正を正そうとする忠臣ですぞ!?」


「自らを忠臣と言うのであれば尋問を受けよ」


「な…フン!どうせ似非の尋問ごっこだ!付き合ってやろう!感謝しろ!」


「それでは許可も出ましたので尋問を開始します。私の質問には全て『いいえ』と答えてください。貴方はエンプ・ライビー男爵閣下で間違い無いですか?」


「全く、無駄だと言うのに、いいえ!」(正解)


「貴方の性別は女性ですか?」


「いいえ!」(間違い)


「それでは………?あれ?」


「?どうかしたのか尋問官」


「……」


「尋問官?」


「貴方はこの国を愛していますか?」


「いいえだ!」(正解)


「誰だ?」


「なに?」


「お前は誰だ?国王陛下!裁判長!こいつはエンプ・ライビー男爵ではない!性別は女です!」


「なんだと!?」


「お前は誰だ!」


「……アハッ。アハハッ。アハハハハハハッ!」


「な!?」


エンプ・ライビー男爵の顔から凄い高い女声が出てくると違和感しかないな。


「こんなスキルの持ち主が居るなんて、もう少し調べておけばよかったかしらねぇ。もう少しで厄介なロウラ・ギナイを殺せたというのに」


「貴様!一体どこのものだ!」


「あら、それを言う必要がありまして?」


「魔王国の者か!」


「だから答えるわけが無いでしょう?」


「つまり魔王国の者ではないということだな!」


「…何を言っているの?意味が分からないわ。気でも触れたの?」


「間違い、か」


「…何?」


「国王陛下!この者は魔王国の者で間違い無いです!」


「ハァ!?答えてもないのにどうして確定出来るのよ。バカじゃないの?」


「そうだ。この女は答えていないのに何故分かるんだ?」


「そういうスキルだと思ってください。後で詳細を伝えますので。それよりもこの女を捕まえる方が先かと」


「む、それもそうだな。お前たち!この女を捕らえよ!」


「ハァ、折角の裏工作も全部パァじゃない。また次の計画に変更ね」


「貴様に次など無い!」


エンプ・ライビー男爵が、いや、女が懐からスキルオーブのような物を取り出す。


「……スキルオーブ?」


「そんなもので何をする気だ!」


「さぁ、なんでしょうね?アハッ」


そのオーブを女が握り潰す。すると女の身体の周りを光が覆う。


「!?王よ!恐らくあれは転移結晶かと!」


「!そういうことか!クソッ。本来の姿も見せずに消えるつもりか!」


「あら、分かっちゃったの。つまんないわね。アハハッ。本来の姿なんて見せる訳ないじゃない。バカ何じゃないの?」


転移結晶!?つまりこの女はここから転移して逃げるつもりってことか!どうする?

既に光が身体の下半分を覆っていて止めるのは厳しそうだ。というか止め方も分からないし。

どうする、どうする?……あ、そうだ。スキル名を出さずにスキルを使って勘違いさせよう。


「あの女の真実の姿を!『正解偽解』!」


「?何を…?どうして!?私の『偽装』が解けて!?」


女の偽装が解けてエンプ・ライビー男爵の身体の下から肉付のいい女の姿が。そして……。


「頭に角だと?お前、本当に魔王国の者であったのか!」


「ハッ、クソッ。こんな能力まで!クソ野郎!次会ったら必ず殺してやる!覚えてやが…」


そうして、女は光の中に消えて行った。これにて一件落着?


「探求尋問官殿」


「!は、はい!」


「君のお陰で助かったよ。濡れ衣も晴れた。本当にありがとう」


「い、いえ!これが仕事ですので…」


「…ハハ!そうか!なぁ君、クート君と言ったかな?どうだい。私の孫娘と婚姻を結ぶ気は無いかね?」


「え、あの…」


「これ、ギナイ公爵。探求尋問官は常に中立だ。善でも悪でもない。より正しい方へ手を伸ばすだけだ。それを貴様の身内に引き込もうとするな。


今この場で聞いてる者達よ!今後彼に何かを依頼したい場合は我が娘宛に依頼を出し、報酬を用意せよ!報酬は彼が納得のいく物を差し出すのだ!分かったな!!」


「「「「「はい!!」」」」」


「よし。尋問官もそれでいいな?」


「あ、はい」


「それでは今回の報酬を考えなければいかんな」


「え、あ、今回の報酬は必要ないという契約でして…」


「あぁ、確か3回までは報酬無しだったか。それはもういい。今回の仕事で帳消しだ。いや、それでも有り余る恩だ。望む報酬を願うがいい」


「望むもの、ですか…」


「ああ、王女はまだやれんぞ?」


「い、いえ!要りません!」


「……要らんだと?」


「あ、ああ、ええと……」


どうする?絶対求めないとダメだよな?ここで報酬を有耶無耶うやむやにしたり、辞退したら今後もそうすることを求められるかもしれないから。でも王女様は本当に要らないぞ?どうする?どうする……あ。


「スキルオーブを」


「む?」


「『し』のスキルオーブを戴きたく存じます」


「…スキルオーブ。それも『し』か…」


「ダメでしょうか?」


「……貴様はそれをどのように使うつもりだ?」


「それは…」


『し』のスキルオーブは危ないから回収してるんだもんな。どう答えるのが正解か……。


「わ、私がスキルマニアだからです!」


「…スキルマニア?」


「はい!数多のスキルを集め、ステータスを眺めるのが趣味なのです!」


どんな趣味だよ恥ずかしい!!でも、あの短時間じゃあ、これ以外の説得を思いつかなかったよな。


「…趣味、か」


「はい!」


「…………よかろう。此度の報酬は『し』のスキルオーブを与えよう」


「はい!」


「それと」


「はい?」


「貴様を尋問官として正式に認めると同時に、公的立場として周知させよう。いいな?」


ああ、これは反論を許さない目だ。公的立場、つまりは完全にこの国所属になるってことだろ?


「はい…」


「よし!それでは皆のもの!解散することを許可する!行ってよし!」


ゾロゾロと他の貴族達が出て行く。

すると公爵が近付いてきた。


「クート君」


「はい」


「君のお陰で助かったよ。何度も言ってしまうが、来てくれてありがとう。まあ、がしていなかったから大丈夫だとは思っていたけど」


「予感?ああ、いえ。仕事でしたので。仕事が来るかは王女様次第でしたのでお礼は王女様に…」


「ああ、そうだったのか。実は昔、あの子の教育係をしていてね。本当に頭のいい子に育ったよ」


「そうなんですね」

(だから王女の対応が少し変だったのか?)


「あの子に感謝していると伝えておいてくれるかい?」


「分かりました」


「ありがとう。それじゃあね」


公爵は裁判所を出て行った。

すると今度は裁判長が近付いてきた。


「探求尋問官殿」


「はい!」


「そう緊張することもない。これからは裁判の度に顔を合わせることになるかもしれんのだぞ?肩の力を抜きなさい」


「はい」


「それでは、失礼する」


そう言うと裁判長も裁判所から出て行った。

さてと、俺もそろそろ外に…「待て」…はい?


「探求尋問官」


「はい。なんでしょうか」


「何故あの女が魔王国の者、魔族だと気付いた?あの女は質問に答えていなかったはずだ」


「ああ、内緒にしていてくださいね?それは自分ですよ」


「なに?」


「自分で疑問を持って、それに対して答える。すると自分のスキルが『正解』か『不正解』かを判断するのです」


「………そういうことか」


「はい」


「話はこれだけだ。スキルオーブは追って与えよう。もう行って良いぞ」


「はい!」


この人相手だと俺が嘘を付いてるってことを見破ってそうな気がしてくるんだよな。この国王にしてあの王女あり、だな。


そして俺は自分の部屋に歩き出…そうとする前に、騎士に捕まり事情聴取を取らされることが決定した…。

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