第10話 二つ
私は祖母の家の外に立っていて、母が何をしているのかと呼びにきた声で我に返った。
玄関を開け放したまま外に出ていたため、母が気づいたそうだった。
すっかり陽は落ちて真っ暗になっており、玄関の外にも明かりが点いていた。
私は母に何も言えなかった。
夫に電話をかけていた、と言っただけだった。
こんな日にこんなことを言ったら母が大騒ぎすることが目に見える。
信じてもらえない、というよりは母が感傷的になったり、意味のあることに捉えたりすることが嫌だったのかもしれない。
そして私は夫に電話をしていなかった。スマホはスカートのポケットに入っている。
右手の指はわずかに黒く汚れていた。
祖母の家であの花瓶を触ったからだろうか。あの花瓶は新しい家に持ってきてあるのだろうか。
2つ記憶がある、と先ほど話しました。
そうなんです。
この記憶の他にもう1つ。
白昼夢というものだったのか。
今思っても、何がなんだか。
どちらもやけにリアルな手触りがする、というのでしょうか。
夢のように突拍子もない感じがしない。
けれど絶対にあり得ないことが起こっている。
やはり心霊体験という言葉で片付ければ良いんでしょうか。
私に起こったことに何か名前がつけば、なんだか気が楽なように思えるんです。
もう1つの方の記憶では、あの家には入れなかったんです。
ただあの家は同じように無くなってはいなかった。
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