第7話 はじまり
このあとすぐ新幹線に乗って帰る、という従兄弟たちもいたため、全員がわっと日常感を取り戻した。
新幹線の駅に向かう従兄弟たちは慌ただしく皆に挨拶をして車へ乗って帰っていく。
どっと疲れた。こうなると一刻も早く喪服を脱ぎたい。
私は祖母の部屋だった場所で着替えた。
もう祖母のものはほとんどない。10年以上前に、母と伯母が買ってあげたドレッサーがポツンと置いてあるだけだ。中にまだ祖母の化粧品は入っているのだろうか。
伯母と母も後から入ってきて、喪服を半分脱いだ状態であれやこれやと話をしだすので、早く着替えなよと笑う。
喪主をつとめた伯父が部屋の外から早くおいでと急かしてくるので、私は母たちを置いて茶の間へ行った。
父はソファに座って、コーラか何かを飲んでいる。彼は下戸なのだ。
私は伯父にビールをすすめられて少し口にした。
座卓の上には近所のおばさんたちが用意してくれた料理が並んでいる。
私と同じように明日帰る予定の従兄弟と一緒に漬物などを喜んで食べた。
従兄弟や伯父と話しながらも、明日帰る時に娘のお気に入りのお菓子を買っていこう、夕飯は何がいいかな、などとずっと頭の片隅で考えていた。
まだ自宅を離れて1日しか経っていないのに、夫と娘と随分長く会えていないような、妙な寂しさを覚えた。
新幹線で帰る従兄弟を送って行った伯父やそれぞれ着替えに行っていた皆が茶の間へ戻ってきた。
ごめんなさい。ここからどう説明したら良いのか…。さっきから話の流れが止まりがちで申し訳ないです。
とりあえず覚えていることをそのまま話します。
どうかそのまま聞いてもらえますか。
私の記憶は、ここから2つあることになるんです。
そう、言っていることがおかしいですよね。
それは分かっているんです。
だから、夢でもみていたんじゃないかと思われることを心配していました。
同じ時間に起こった2つある記憶をそれぞれ話したら良いでしょうか?
そうですね、それが良いか。というかそう話すしかないですよね。
あと、ごめんなさい。
どちらの記憶の中でもおかしなことが起こっているんです。
どちらかが正常なら、どちらかを夢で片付けることができるのに。
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