第6話 骨の住処
祖母の骨は小さく少なかった。
細かに割れてしまっていたような気がする。
それぞれが箸で拾っていて、他の人に交代するため、妙に急いでしまった私はじっくりと見ていられなかった。
祖父の時は骨の立派さに父や伯父たちが感心していた気がするが、今回は何の声もしない。
そんなに多いわけではないが、人の骨を見るたびに思う。
肉がなくなるって不思議なものだ。というか、肉だけを焼いて骨だけをこれだけ綺麗に残せるのはすごいな、と馬鹿みたいに思う。
私みたいにみっしり肉がついていたら、きっと焼き上げるまでに時間がかかるのだろう。今死んだら、みんなを長時間待たせることになるんだろうか、と静かに骨を拾っている皆の黒い背中を見る。
コツコツと黒いヒールの踵をちょっと鳴らして少し離れ、あとは静かに祖母の骨が納められていくのを待った。
カサカサとした白い骨になってしまうと本当にあっけないものだった。
もうそれは祖母ではなくて、骨だった。
これまでに数度経験しているが、骨を見るのが一番がらん、とした気持ちになる。
葬儀の緊張感もほとんど薄れているこの時間はやけに空っぽだ。
長く感じられる1日ももうすぐ終わりなのだな、と思う。
普段とは全く違った時間の流れ方をしている今日が、もうすぐ終わるのだ。
この辺りの風習で骨はそのまますぐお墓に納められる。
墓を開けた時に祖父の骨が見えるぞと、伯父たちや父が妙なはしゃぎ方をしていたことが、やたらに今思い出される。
私は見なかったが、近くにいる親戚たちがかわるがわる覗き込んでいた。
それにしてもどんよりとした日だ。
くもり空がしっとりと空を覆い、ほんのりとした暗さが続く。夕方近くになってきてさらにグレーが濃さを増した。
湿った晩秋のにおいが強かったのもこの日の天気によるものだろう。
集落の墓場は狭いが、どれも良く手入れされて綺麗だ。花を手向け線香を上げる人が普段からちゃんといる、という感じがした。
カラスが数羽、墓地に植えられた木から飛び立つ。ぎょっとするような大きな音がした。
雨が降らなくて良かったなぁ、と父や伯父たちが口々に言っている。
全員同じことを言わないといけない、と思っているかのように。
それでも10年ほど前に祖父が亡くなった時より皆が老けたからか、なんだか静かだった。
私の髪の毛も皆の髪の毛も、それぞれの喪服もしっとりと湿気を含んだように重く感じられた。
最後に皆でお墓に手を合わせて終わりだ。
言い方は悪いが、やれやれと言った空気が流れていった。
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