第12話 隠し事


「おれは、ずっとここにいたいんです。ここにいて、みんなと、一緒に、旅を続けたい。戻りたくない……。ここが、いい……」



 こみ上げてくる悲しい思いを抑えきれず、小さな子供のように泣きだした。



「もとの世界で、やり残したことはないの?」


「あります、けど、でも、ないです。何もない。おれは、もう、向こうじゃ、何もできないから……」



 ゼンタはたまらず立ち上がり、ロウの頭を撫でた。



 2人は向こうでロウが置かれている状況を知らない。ロウだけでなく、この4人は誰のことも詳しくは知らないのだ。


 だが、あまりにも苦しそうに話すロウを見て、今までそれに気づいてやれなかったことを、2人は悔やんだ。



「ごめんなさい。あたしたちのせいで、言えなかったのね」



 ロウは今まで嘘をつていたのだ。

 1人だけ戻りたくないなどと言えば、一緒にはいられないと思ったからだ。



「わるかった。おまえの本心を隠させるような態度をとった」


「い、いえっ……。おれが、弱いのが、悪い、からっ」


 ロウは泣きじゃくりながら首をふる。



「おまえ、もしかして……」


 シアンはロウを見て、ふと、何やら思うことがあるような反応を示したが、「あ、いや、いいわ」と出かかった言葉をしまった。




「ところで、ロウ、おまえ魔王の居場所もわかるな?」



「……はい」


 ロウはもう隠しても意味はないと理解したのか、素直に頷いた。



「はあー、やっぱそうか」


「うそっ! そうなの!?」


 ゼンタは驚きのあまり声が裏返った。



「どうりでこの1年、なかなか魔王に辿りつかねえわけだわ。いつも行き先は適当に決めてたからな。おまえ、魔王がいないとこばっかドアつなげてたんだな」


「……はい」



 ゼンタは開いた口がふさがらなかった。



「だけど、どうやってわかるの?」


「こいつの目だ」


「金色の目が関係あるの?」



「金色を作るには、純粋に色を足すだけじゃなく、いろんな物質を混ぜる必要があるんだが、そのなかの1つに、黒を使ってより金色っぽく見せるやり方がある。

 おそらくこいつ目には魔王の魔力の欠片が使われている。5年前の魔王との戦いで回収された『黒い槍』の欠片だ」



「確か『黄の国』が回収したって……」



「そうだ。瞳にあるその欠片のおかげで、こいつは魔王の魔力を感知することができるんだ。まあほかの被験者じゃ無理だろうかな。そういうのに長けているやつじゃないと」



 ゼンタが確認するようにロウを見る。

 ロウは力なく頷いた。



「ここに魔王がいるとわかったから、おまえわざと門番にメガネとらせて、早くここから立ち去ろうとしたんだろ。魔王が暴れる前に」



 何もかもその通りだった。



 『金の瞳』には魔王の欠片が使われている。だがそれは相容れない異物を無理やり入れて作った色でしかなく、こんな地獄のような副作用があるとは誰も予想していなかった。

 おれ以外にも実験の被験者はいるが、みな同じ症状となり、実験は頓挫している。



 本当はここに来たくはなかったが、ビーフストにこの街のこと聞いていたため、さすがに避けるわけにはいかなかった。

 魔王がいるとわかっていたため、早くここを去りたかったのだ。




「はあーーー」


 ゼンタは長い息を吐いて目を閉じた。



 この話し合いをしてからたった数十分しかたっていないのに、おそろしく長い間こうしていたような気がする。



「あんた、まだ何か隠してるんじゃないでしょーね」


「……さあな」


「やっぱりあるのね!? この際だから全部言っちゃいなさいよ! もう隠し事はやめてよね!」



 ゼンタにせっつかれ、シアンは眉間に深いシワを寄せて考えこんだ。



「あー、まあもう頃会だな、言っとくか。俺たち4人は同じ世界から来てる」



 シアンの爆弾発言に、またしても2人の心臓は止まりそうになる。



「本当、ですか?」


「ああ、本当だ。」


「あたし、なんだかビックリ通り越してドン引きなんだけど……」



 ゼンタがドン引きしているのは4人が同じ世界から来ていることに対してではなく、それを今まで隠していたシアンにだった。



「じゃあ、向こうで、会おうと思えば、会えるんですか?」


「そうだ」



 ロウの暗かった心に、小さな明かりがついた。だが高揚した気持ちをすぐに胸の奥へ押し込めた。


 向こうで会えるからといって何になる。おれは向こうじゃ、何もできないんだ。ここにいたほうがいいに決まってる。ロウは自分に言い聞かせた。



「いつ、わかったんですか?」


「おまえがその服を作るときに、アニメとか映画とか言って、あとなんだ……移動手段に電車とか飛行機とか言ったときだな」


「それって、めちゃくちゃ最初ですよね?」


「あたしは?」


「……おまえの入れ墨だ」


「!? あんた、これ知ってるの!?」


「ああ」


「そんな人はじめてなんだけど。でも、なんで知ってるのよ」


「それについては、またあとで話す」



「イトのことはなんでわかったの? イトはこのこと知ってるの?」


「いや」


「なんで今まで隠してたのよ!」


「まだ時期じゃねえと考えたんだ。それと、俺はイトのことは正直わからねえんだ。だが、1人だけ別の世界から来てるっつーのもおかしな話だ。おそらく、みんな一緒だろ」


「あんたねえー! 秘密主義も大概にしなさいよね!」


 ゼンタはテーブルをバンと叩き怒鳴った。



「イトにはいつ言うのよ!? 連れてかれちゃったじゃない!」


「4国の柱で会談を行う。そこで話す」


「はあ!?」



 またなにをわけのわからないことをとゼンタは顔をしかめた。



「イトが見つかったんだ。それについて、『白の国』に情報を開示しろと告げる。1年以上行方不明、その間のことを聞く権利が他の3国にはある。そのための会談の場を設ける。

 イトに会うチャンスはそこしかねえ。魔王の痕跡を見つけられたかとうかもそこで問いただす。んで、今話したことについても話す」




「それはつまり、あたしたちも、国へ帰るの?」


「いや、俺らは複製体を動かすだけだ。ここから遠隔で操作する」




 なんだか話がどんどん進んでいき、ゼンタとロウは頭を整理することで精一杯だった。

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