第13話 内側4国の会談


「本日は、『白の国』にお越し下さり、誠にありがとうございます」



『水の国』『黄の国』『紫の国』の柱が、『白の国』に集結した。



 3人は予定通り、『白の国』に会談を開くよう頼んだ。『柱』から直接事情を聞きたいと『白の国』に申し出たのだ。




 1年前の突然の失踪後、3つの国は『白の国』の分まで結界を張らなくてはならないのかと大いに揉めた。(実際にはイトが行方不明になっても『白の国』の結界は消えなかったので、この話は一旦取りやめとなったが)



 どうして行方不明だったのか、理由を知る権利は十分にあるはずたと3国の『柱』が言えは、迷惑をかけた『白の国』は「はい」と言わざるをえなかった。



 それぞれの柱は、自国を表す色と同じ色のマントをかぶり、顔には同じ色の面をつけている。

 そして、各々一人ずつ自分と同じ色のマントを羽織った側近を連れていた。



 会談を行う部屋は真っ暗だ。



 『柱』は基本的には誰にも姿を見られないようにしている。自国にいるときでさえ、ずっとマントと仮面をつけ、ほとんど部屋からでないのだ。『柱』の正体がバレればそれだけで国が危機に陥る可能性があるからだ。



 お互いの姿が見えないよう明かりを消し、声だけでやり取りを行う。


 正方形の部屋の四角にそれぞれの国の『柱』が座り、その後ろに側近が控えている。



 厳かな空気のなか、最初に話しだしたのは、『白の国』だった。




「えー、本日は、おわつまり、あつまり、えー、うわつまり……あれ? なんだっけ」


「ぶーっ」


 ゼンタが吹き出す。



 すかさず側近がイトへ耳打ちすした。


「おわつまり? おあ? おあつまり、か。えー、本日は、おあつまり、いただき、ありがとうございます」



「ヒッヒッヒッ」とシアンが笑いを堪え、肩を震わせる。

 ロウは緊張していたのがバカらしくなってきた。



「私が、姿をけしていたことで、多大な、ご迷惑をおかけしました。まことに、申し訳、ございません」



 暗闇でみなには見えていないが、イトが頭を下げたのが服の擦れる音でわかった。


 それにしても、話し方がずっと棒読みなのは、用意してもらった文書を読んでいるからなのだろう。



「これまで私が、何をしていたか、お話い、たします」


「まず、1番大事な話を。私はつい最近、魔王に会いました」


「とある街で、魔王と、交戦しました。ですが、攻撃をやめたところで、魔王の気配が消えてしまったので、街中を探しました」


「すると、女の子に声をかけられました。その子は目に包帯が巻かれ、擦り傷だらけでした」


 シアンはピクッと反応する。



「何をしているのか、と聞かれたので、魔王を探している、と答えると、『私が魔王』だと言いました」


「噂では、魔王は黒髪黒目、だということでしたが、女の子の容姿はちがいました。赤い髪に赤い目で、ここが『赤の国』の領地だから、この姿にしている、と言いました。服はワンピースでした」


「少しの間、あの街の近辺に留まると言っていました。ケガをしているから、疲れたと」



 ふうーっと小さな息がもれた。

 難しい言葉をたくさん使い、イトは少し疲れたようだ。



「魔王は自身の傷を治すことはできないのですか?」


 ゼンタが尋ねる。


「うん。あ、はい」



「そのとき魔王に攻撃はしなかったのですか?」


 シアンが尋ねる。


「しようと魔法で武器をだしたんだけど、すぐにシールドを張られちゃいました。『遅いよ』って」


「なるほど」


 シアンは何やら考えこむ。



「あと、自分の居場所を、特定できる人がいると、言ってました。えーっと、その、それが誰かっていうのは、教えてもらえなかったんですけど、でもヒントがあってー、3人の」

「ああ、それについては問題ありません」


 イトが余計なことを話すまえに、シアンが口を挟む。


「えっ? そうなの?」


「はい。確認済みですので、他の話を」


「わかったーりました」


 側近がイトに「詳しく聞かないくいいのですか」と耳打ちするが、「問題ないって言ってるからいいんだよ」と答える。



 イトはシアンを信頼している。

 シアンが問題ないと言えば、問題ないのだ。



「それにしても、『白の国』の『柱』であるあなたでさえも、魔王には叶わないのですね? 至近距離では攻撃する隙がないのですね?」


「ええっと、まあ、うーん、どうかなあ。ちょっと難しい感じはしたけど、でも無理ではないと思うんだけど」


 シアンの言葉にイトはなんとも言えない返事をした。



「最初から武器を出したままだったら一発で仕留められたと思うけど、魔王って言われてから出したから、ちょっと遅かったみたい」


「ですが、あらかじめ武器を出していると、魔王も警戒してシールドを出したままにするでしょうから、どのみちあたりません」


「あー、そうか」



「我々や魔王レベルになると少しの魔力でも感知できます。その隙をつくのは至難の技です」


「うーん。ムズカシイなあ。戦い方は、なんだか自分に似てるなあと思ったんだけど」


「どのあたりが?」


「うまく言えないけど、こう、何もわからないまま戦ってる、みたいな雰囲気が、自分に似てる気がした。しました」


「真の力を隠している可能性も充分にありますね」



 ロウは街でのことを思い返して言った。確かに、単調な攻撃はイトの攻撃スタイルと似ているのかもしれない。



「魔王が見た目通り本当に子供なのだとしたら、まだ戦闘経験が浅く、攻撃のレパートリーが少ないのかもしれませんね。魔王が現れてから7年経ちますが、いつ生まれたのかはわかっていませんので、なんとも言えませんが。

 ま、私がその場にいれば、そんなおこちゃま魔王など、たいした脅威ではありませんね」



「あなたなら、その場で魔王を倒せた、とおっしゃりたいのですか? 『水の国』の『柱』」


 シアンの強気な発言に、ゼンタが顔をしかめる。



「ええ、そうですよ。『紫の国』の『柱』。もし私が我が国の兵士を率いて魔王の討伐に繰り出せば、必ず勝てます」



「お言葉ですが、戦闘であなたに何ができますか? 戦闘力で言えば、あなたは我々4人の中では1番低いと思いますが?」



「ははは、おもしろい冗談ですね。私の力があれば、『不死の軍団』を作ることができるのですよ。誰も死なない、死なせない。何度でも魔王に立ち向かえる。魔王が自身の治癒ができないのであれば、これほど有利な話はありません」



「おほほほ、そうでしょうか? あなたの魔力は無限ではありません。いつか終わりがきます。私の軍団であれば『尽きない魔力』で際限なく攻撃することができます。もちろん、防御も。私のほうが確実に魔王を倒せるでしょう」



「いくら魔力が尽きなくても、攻撃がしょぼいんじゃ、魔王は永遠に倒せないのではないですか?」


「それはあなたにも言えることじゃありませんか? いくらケガを治しても、ハエを叩くくらいの攻撃しかできないのなら、意味がないのでは?」



 また始まった。


 イトとロウは呆れる。

 こんなときまで口喧嘩できるとは。



「どのみちお二人とも後方支援のほうが向いているのですから、魔王への直接的なダメージは少ないのではないですか?」


 言い合いに付き合ってられないので、ロウが早々に割って入る。



「へえ、では、あなたたらどう戦いますか?『黄の国』の『柱』」


 シアンは少し馬鹿にしたようにロウに尋ねる。



「魔王とどう戦うかは、まだわかりませんが、お二人の軍団を戦闘不能にすることなら可能です。ドアを使いお二人をどこか遠くへ飛ばせば、おしまいですから」



「……」

「……」



「なにか反論はありますか?」



「クソが。だからおまえはやっかいなんだよ」

「あの子の能力だけなんかせこいんだけど」


 2人はコソコソと文句をたれた。



「ぼくは、どうだろうなあ。魔法なしだったら絶対勝てるんだけど」



「そもそも、我々は結界を張るという使命があります。自国を離れることはありません。なので、魔王と戦うというお二人の妄想が実現することもありません」


 ロウがもっともなことを言う。



「ま、我々はともかく、『白の国』の『柱』は今回のことで今後厳重に監視されることでしょうから、もう2度と国から出ることはないんじゃないですか?」



 シアンは冷ややかな言葉をかける。



「そう、だと、思う……」


 明らかにイトの心が沈んだ。



「そもそも、どうやってお部屋から消えたのですか?」


「ええっとー、夜、隙を見て出ていったんです」



 本当は、ロウのドアを使い部屋から消えたのだが、さすがにそんなことは言えないので、イトは国の人間に適当なことを言ってごまかしたのだ。



「もういっそ、魔王が消えるまでお部屋にこもっていたほうがいいのでは?」


「たぶん、そうなると思う……。そんな話をされた」


 2度と今回のようなことにならないよう、イトの待遇が厳しくなるのは当然だ。



「部屋の前には常に見張りを置くべきですね。自身も部屋から出ないほうがよいでしょう。それと、誰か訪ねて来ても、絶対に部屋にはいれないでください。もし誰かが入ってきたら、問答無用で殺すのがよろしいかと思います」


「そこまで、ですか?」


 シアンの提案にロウが驚く。



「『白の国』の『柱』は、魔王に顔を見られていますし、魔王の顔を知っているのも『白の国』の『柱』だけです。狙われる可能性は高いです。我々で結界を張ってるとはいえ、予想外の方法で魔王が内部に入ることもあるでしょう。万が一に備えて、『部屋の扉を開けたものは殺す』。みなにもそう周知させたほうがよいかと。生活する分には、その部屋だけで問題ないでしよう?」



「……うん。そう、します」


 イトはしょんぼりと頭をうなだれた。

 側近が聞いているのだから、この提案はすぐさま実行されるだろう。



「約束してくださいね。それを守ってくだされば、我々も安心です」


「はい……」



 イトのさみしげな声を聞いて、シアンはふっと笑い、こう告げた。


「それと最後に。我々4人は、同郷だということがわかりましたよ」


「どうきょう?」



 しまった!

 ロウの心臓がギュッとなった。



「故郷が同じってこと」 


 シアンの言葉をゼンタがわかりやすく伝える。


「……ほんとに?」


「はい」


 イトの表情は3人には見えていないが、ものすごく喜んでいるのが手に取るようにわかった。



 ロウは握った手に力をこめ、顔を歪めた。



 やられた――と。



 シアンの作戦に気がつくのが遅かった。



「ぼくら、また、会える?」


 イトは希望に満ちた眼差しで暗闇を見つめる。



「はい。心配なら、神様にお願いしてみてはいかがでしょう? すべてが終わったら、もう一度会えるように、と。魔王を倒したら、4人で集まって、故郷の話をしましょう。そのときは、このような格好ではなく、ぜひ姿でお会いしましょう」



 シアンはロウのほうを見る。



「わかった!」


 イトはシアンの言わんとしていることを理解したようで、元気よく返事をした。



 ロウは焦りと同時に、イトのことを思い、胸が締め付けられた。



 4人が再開するには、魔王を倒し、もとの世界に戻るしかない。



 魔王を倒さないということは、4人で会うことは今後ないということ、そしてイトは永遠に部屋から、その場所から出ることができないということだ。





「では、これにて、会談を、終了します。お越しいただき、ありがとうございました」



 ロウの葛藤をよそに、イトは希望に満ちた声で会談を締めくくった。

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