第5話 膨大な魔力


 静かに歩き出す4人。



 タバコを吸いながら一人前を歩くゼンタから話しかけるなオーラが出ていたのを、シアンとロウは感じ取っていた。



「ところでさ、『てれび』と『いんたーねっと』って、なに?」



 空気をまったく読まないイトの質問に、ゼンタの足が止まった。

 後ろの3人も止まり、シアンとロウが目配せをする。



「ゼンタとシアンは知ってるんだよね?」


 ゼンタはくるっと振り返り、眉間にシワを寄せながらイトを見つめた。

 そして、はあーっとため息をつくと、仕方ないわねと声を漏らした。



「いーい? てれびっていうのはね、どこかに素敵な男はいないかしらと探している状態のことよ」


 ピンと人差し指をたて、自信満々に話すゼンタに、シアンとロウの目が点になった。



「は……ヒャッヒャッ!」


 たまらずシアンが大口をあけて笑う。



「何よ? 文句あんの? じゃあんた、いんたーねっとの意味言ってみなさいよ」


「いいか? インターネットってのはな、酒が飲みたくて飲みたくてしょうがないときにだんだんイライラしてくる状態のことだ」


「じゃあんたいっつも、いんたーねっとなのね」


「へえー、ほんとに知ってたんだ。物知りだなあ」


 イトは関心するが、ロウは2人の意味不明な説明に呆れた。



「知らないなら知らないと言ったらどうですか……。よくそんなでまかせすらっとでてきますね」


「口喧嘩なら負けないわよ」


「俺は頭の回転が早いんだよ」



「イトさん、騙されないでくださいね。みなさんいいですか? あのですね、テレビというのは」



 4人は横一列に並び、各々の故郷の話をしながらまた街に向かって歩き始めた。






 ただ、シアンだけは気づいていた。


 この4人が、同じ世界から来ているということを――。









 その街は、四方八方を岩山に囲まれていた。

 唯一の入口は大きな門だ。甲冑姿の門番が2人待機しており、その近くには赤い石でできた小屋がある。中に人の気配がする。そちらにも何人か待機しているようだ。



「通行証はお持ちですか?」


「いいえ、持ってないわ」


「では、この街に何の用ですか?」



 先頭にいるゼンタに、門番の男が声をかけてきた。2人とも赤髪に赤い瞳。どこか高圧的な雰囲気を感じる。あまり歓迎はされていないようだ。



「旅をしているの。近くに来たから、よってみようと思ってね」


 2人の門番が4人をジロジロと見つめる。



「失礼ですが、あなたがたはどのようなご関係ですか?」


「旅の途中で意気投合して、一緒に来ることになったの。同士ってやつよ」


 ゼンタが門番にウインクする。



「意気投合? ぼくら、意気投合してたの?」

「ゼンタさんの勘違いでは?」

「この4人で意気投合とかゾッとするわ。つくならもっとマシな嘘つけねえのかよ」



 後ろの3人がコソコソ話す。



「うっ……!」

「えっ? なになにシアン、どうしたの?」

「ギックリ腰ですか? お腹痛いんですか?」

「あんの男女、やりやがった……」

「あ、シアンが魔力吸われてる」

「黙ってたほうがよさそうですね」

「クソがっ、なんで、俺だけ……」



 そして3人は静かになった。




「街に入る前に、荷物と身体検査を受けていただきます。怪しと感じた物や、魔法でできた物はこちらでお預かりすることになりますので、ご注意を」


「ずいぶんと厳しいのね」


「このご時世です。不安要素は少しでも取り除いておかなければなりません」


「ま、仕方ないわね。といっても、あたしたち見てのとおり、荷物ほとんど持ってないんだけどね」


「ポケットの中身も出していただきます。装飾品もです」



 ポケットと言われてゼンタとシアンが同時に「げっ」という声を漏らした。



「どうしたのかな」

「タバコですね。おれが魔法で作ってますから」






「まず皆さんの魔力を測定します」



 門番がそう言うと、隣の小屋から白いクリスタルを抱えた人が出てきた。


「触ってください」


「はーい」


「あっ、ちょっと待って」


 ゼンタが止めようとしたが一歩遅く、イトがクリスタルを触ってしまった。



 その瞬間、クリスタルは強烈な光を放った。



 イトの膨大な魔力を感知したクリスタルは、あたり一面が見えなくなるほど白く光った。

 おそらく街の中からでも光が見えただろう。




 「なっ、なんだこれは!?」



 あまりの光に、門番が慌てる。



 強すぎる光のせいで何も見えなくなり、みな目を閉じてその場から動けなくなった。



「まずいわ」

「イトっ! 離せ!」


「えっ?」


 シアンの声で、イトはクリスタルから手どけた。

 すると光はすーっとクリスタルの中へと戻っていった。



 クリスタルを持っている人物はよろけ、2人の門番は今起こったことが信じられないというように立ちすくんでいた。



「いまの、光は、なんだ……」


「ありえない……、こんな……」



 門番は顔を見合わせ、次に恐る恐るイトを見る。



 イトは「えーっと、これはー、えーっとー」と必死に言い訳を考えていた。



「壊れた、んじゃ、ないか?」


 門番の顔はあまりの魔力にあてられたのか青白くなっていて、本当に壊れたと思っているようには見えなかったが、なんとか発したその言葉は、そうであってほしいという願望だったのだろう。



「そう、だよな。だって、こんなに光るなんて。そんなこと、あり得ない。こんな子供にそんな魔力あるわけがない」


 もう1人の門番も、そうに違いないと自分に言い聞かせるように答えた。



「ああ。この国で一番強いお方ですら、ここまでの光はでなかった」



 予想外の事態に、門番はクリスタルの不具合だということにした。



「おいっ、別のクリスタルを持って来い」



 門番はクリスタルを持つ人物に指示をだし、別の物を用意することにした。小柄な彼はもろにイトの魔力の光を浴び、まだふらついていたが、よろよろと小屋へとクリスタルを取りに行った。



 その隙にゼンタはイトに詰め寄り、小声で説教をする。



「このおバカっ! 魔力抑えなさい! バレるでしょーが!」


「ごめーん。忘れてた。いきなりだったからさー」


「あんた前もそうだったけどねえ、いつもいつも」


 ゼンタの小言タイムが始まった。



「あんなになんだなー。やべえな、俺ら。今これでも魔力少ないんだぞ? ずっと国の結界張ってんだからよー」


「結界を解けばさらに魔力は増えます。自分で言うのもなんですが、まさに規格外ですね。まあ、誰もそんな話、信じないでしょうが」



 シアンとロウは怒られるイトを見ながら他人事のように話した。



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