第6話 金色の瞳
その後の魔力測定は4人とも力を制御し、平均的な光に留めたので、やはり先程のはクリスタルの不具合だったのたと門番は胸をなでおろした。
「これはなんですか?」
荷物を検査する門番が、シアンとゼンタのポケットにあったタバコを見て眉をひそめる。
「タバコだよ。知らねえのか? 遅れてんなあ」
「何に使うものですか?」
シアンの嫌味をスルーする門番。
「リラックスしたいときに使うのよ。危険性はまったくないのよ〜。あやしくないわよ〜」
門番から見ればどこからどう見ても怪しかった。
「見たことのないものです。魔法でくつられているようなので、すべて回収します」
門番が持つ丸い玉が光っている。これで判断しているようだ。
そう言うと回収袋にタバコを入れた。
「チッ」
「チッ」
2人は門番に舌打ちをした。
「この腕輪も魔法でできていますね。回収します」
「そっか。仕方ないね」
イトは銃をしまっているリングを外した。
「メガネと耳飾りに反応がありますね」
ロウはピアスを外し渡すが、メガネは外さなかった。
「メガネを外してください」
「あ……」
「ちょっと待ってくれねえか」
ロウが何か言う前に、シアンが門番に声をかける。
「そいつ、メガネないと気分悪くなって吐くんだわ。それは許してやってくれねえか?」
「これは魔法でできています。例外はありません」
ロウが外そうとしなかったので、門番はロウの許可も得ずメガネを取った。
「えっ……?」
門番はロウの瞳を見て固まった。
「その目は……、黄色、じゃない……。まさか金色!?」
驚きのあまり顔が強張り、もう1人の門番も思わずロウの瞳を見る。
「金色だ!! そんな人間がいたのか!?」
2人の門番は興奮していたが、ロウはそれどころではなかった。
ふらっと体が前後に揺れ、「うっ」という苦しげな声を出し、突然地面に吐いた。
「うわっ! なんだ!?」
いきなりのことに、門番たちはぎょっとした。
ゼンタが急いでロウのもとへ行き、しゃがみ込む彼の背中をさする。
「落ち着いて、目を閉じて。大丈夫よ」
「はあっ、はあっ」
ロウは胸を押さえた。
心臓を踏みつけられているかのような息苦しさを感じていた。
「返せ」
シアンは困惑する門番からメガネを取り上げ、ロウに渡した。
ロウは震える手でメガネをかけ、ハンカチで口元を抑える。顔は真っ青で、息は荒い。
「おれ……入るの、やめときます。メガネがないと、気分、悪くなりますし、魔王、探せな、い、ですから」
ロウは弱々しく伝えた。
ゼンタとシアンは顔を見合わせる。
「んじゃ、俺もパス。おまえら2人に任せるわ」
「わかったわ」
「と、その前に――」
シアンは門番の首を掴み、そのまま上へと持ち上げた。門番は身長こそシアンと同じくらいだが、甲冑の重さが加わり、相当重いはずだ。
だがシアンは彼を軽々と持ち上げた。
「無理やり取り上げて、吐くっつってんのに案の定吐いて、それですみませんの一言もねえのかよ? ああ? ぼーっと見てねえで、なんか言うことがあんだろうが?」
「うっ! 離せっ!」
門番は足をバタつさせ、なんとかシアンの手をどかそうとするが、びくともしなかった。
「シアンさん、大丈夫ですよ」
ロウがゼンタに支えられ、ゆっくりと立ち上がる。
「おまえが大丈夫でも、俺の気がおさまらねえんだよ」
シアンが手に力を込めると、門番が「うっ!!」と痛みに顔を歪めた。
「それ以上やると、ゼンタさんと、イトさんが、入れなくなりますよ」
そう言われ、シアンは力を緩めた。
少し考えてから、「……ふんッ」とふてくされた顔をして門番を下へおろした。
甲冑がガシャと音をたて、門番は後ろへとよろけた。
「副隊長!! 大丈夫ですか?」
「なんて、力だ……。逃げられる気が、しなかった」
門番は唇を震わせた。
「俺ら行くわ。ロウ、行けるか?」
「はい。大丈夫です」
「頼んだわよ」
「へいへい」
シアンは手をひらひらさて、ロウとともに脇道へとそれて行った。
2人が去りどよーんとした空気が漂う。
門番も気まずさからか、目線を下におとした。さすがに申し訳なかったと思っているようだった。
「さてと、あたしたちは中に入れてもらえるんでしょうね?」
ゼンタは気を取り直して門番に明るく声をかけたが、その目はまったく笑っていなかった。
「ゼンター」
「我慢しなさい。ご飯はまだよ」
「違うよ。後ろ」
イトの言葉に、ゼンタだけでなく門番もそちらを見た。
数人がこちらに向かって全速力で走ってきていた。その表情は、何やら切羽詰まっているように見える。
「た、助けてくれー!」
「何よあれ?」
「あ、さっき邪魔してきた人たちだ」
それはここへ来る途中にでくわしたチンピラたちだった。
「もう! 次から次へとなんなのよ! 街に入るだけなのにどうしてこう問題ばかり起こるの!?」
ゼンタのイライラが溜まっていく。
「助け……げっ! おまえら!!」
チンピラたちはゼンタを見るなり急ブレーキをかけ、その場に膝をついた。息づかいが荒く、相当焦っていたことがわかる。
助けを求めた先にゼンタがいたという不運に、彼らの青白い顔がさらにひどくなった。
「何よ〜、人を化物みたいに」
「充分化物だろうが!!」
「まあ、失礼ねえ。それよりどうしたのよ」
「ま、魔物がっ!」
「魔物?」
「魔物に、はあっ、追いかけられて」
チンピラは走ってきた方向を震える指で指した。
「いないわよ?」
「えっ、あれっ?」
だがそこには何もいなかった。
「さ、さっきまで追いかけられてたんだ!」
「本当なんだ! そこまで来てたんだ!」
「突然消えたというのか?」
門番が疑わしそうに尋ねる。
「わからねえけど、確かにいたんだ!」
「何体もでてきて、襲ってきたんだ!」
だが彼らがあまりにも必死なので、嘘とは思えなくなっていった。
「まさか、魔王が近くに……?」
門番の顔に緊張がはしった。
「ねえ!! あたしたち!! 街に入りたいんだけど!!!」
ゼンタはそんなことはどうでもいいのよと言わんばかりに眉間にシワをよせて、鋭い眼光を全員に向けた。
怒りと苛立ちを含んだ鬼気迫る声に、門番も思わず「どうぞ……」と言ってしまうほどだった。
「シアンさん」
「謝ったら殴る」
「……」
ロウは川で顔を洗い、シアンはそのへんであぐらをかいていた。
少し歩いた先に小川があったので、ここで休むことにしたのだ。
「なんであんとき抵抗しなかった。あんなん振り払えばいいだろうが」
「ちょっと……体が固まってしまって」
シアンはじとーっとロウの横顔を見た。
「そういえば、あの国は、どんなふうに見えましたか? イトさんが赤いと言っていましたが」
「ああ? 全部うんこ色だうんこ色。ひとつもきれいなとこなんてねえよ。見なくて正解だぜ」
ロウは笑った。
これがシアンなりの気のつかいかたなのだ。
「ロウ、大丈夫かな」
「ええ」
ゼンタとイトはようやく街に入れた。
石造りの建物が所狭しと並んでいて、一歩路地に入れば迷いそうなほどどれも造りが似ていた。
道には屋台や商店がならび、活気に溢れていた。いつもなら片っ端から見て回っていただろう。
「ロウの目、シアンにも治せないもんね。シアンなんでも治せるのに」
「ええ」
「シアン、すごくおこってたね」
「ええ」
「ゼンタもすごくおこってるね」
「……ええ」
「ぼくもさ、なんかモヤモヤ? するんだけど、これが怒ってるってことなのかな?」
イトは胸のあたりをさする。
「どうかしらね。それが怒りなのかどうか、あたしには決められないけれど。その感情は、きっと昔のあなたにはなかったものね」
ゼンタはようやく「ええ」以外の言葉を発した。
「うん。この世界に来たばっかりのころは何も思わなかったのに、いろいろ思うことが増えたよ。もし、もとの世界に戻ったら、こういうのも全部忘れちゃうのかなあ。もとの世界のことなんて、ほとんど覚えてないけど」
そう。イトには記憶がないのだ。
「ま、あたしたちのこと覚えてても、どうしようもないからね」
「みんな別々の世界から来たから?」
「そうね」
「そっかー。一緒にいれたらいいのにね」
ゼンタは苦笑いをするだけで、「そうね」とは言えなかった。
もとの世界での自分の置かれた状況のことを思うと、とてもじゃないが3人に見せられるものではなかったからだ。
「とにかく、ささっと魔王の手がかりを探しましょ。こんなところ早く出たいわ」
ゼンタはそう言うとスカートのポケットに手をいれた。
「あっ……、そうだわ……」
「あ、だからさっきからイライラしてるの?」
「最悪だわ」
ゼンタは舌打ちをした。
タバコは没収されたのだった。
そしてこの数時間後、その機会は突然巡ってきた。
大きな爆発音がして、地面が揺れた。
それは何度も立て続けに起こり、建物が崩れる音に混じって、叫び声が聞こえた。
人々はこう叫んでいた。
魔王が現れた、と。
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