第4話 特別な力



「このあたりでいいかしら。イトも来たわね」



 道を外れ、森の中へと入ってしばらく進んだところでゼンタ、シアン、ロウは立ち止まった。


 向こうからイトが小走りでやってくる。



 道中、待ち伏せしていたかのように魔物が現れ、「なあ、もうこいつら無視して進まねえか?」とシアンが面倒くさがったが、「あんた何言ってんのよ」とゼンタに呆れられ、「また人を襲ったらどうするんですか」とロウが怪訝な顔でシアンを見る。



「ぼくやるから行ってていいよ」とイトが言うので、3人はお言葉に甘えて先に進んでいたのだ。



「イトさん、ありがとうございます」


「あれくらい余裕だよ」


「イチイチ相手する必要ねえだろ」


「あんた最近そればっかりね。確かに今のとのろ魔物はそこまで危険性はないけれど、いつ凶暴になるかわからないのよ。死人がでてからじゃ、遅いの」



「そんな度胸あんなら、こんな面倒なことしてねぇだろ」



 シアンはボソッと呟いたが、3人には聞こえなかったようだ。





「じゃロウ、お願いね」



「はい」



 いつものように、ロウが魔力を練る。

 ロウの両手が輝きだし、黄色い光りが溢れ出す。そしてものの数秒で光が大きな扉へと変化していった。


 灰色の両開きの扉は、至ることろに黄色の装飾がほどこされていて、ロウの服装と似たデザインになっていた。



「相変わらず無駄に豪華なデザインだな。魔力の無駄使いだと思わねえのか?」


「かっこいいじゃないですか」



 ロウは想像した物を魔法で作り出すことができる。元の世界のものを作ることも可能だ。

 人間の複製体や遠く離れた場所に移動するドア、イトが持つ魔法の銃もロウが作っている。

 荷物が少ないのも、ロウがたいていなんでも作れるので、持ち歩く必要がないからだ。


『創造』


 これが、ロウが神から授かった特別な力。





「では、行きます」


 ロウは取手に手をかけ何かを念じる。

 そしてゆっくりと扉をあけた。


   





 扉の先は、赤茶色の岩石地帯で、その真ん中に街があった。岩山に囲まれた街は、建物が岩と同じような赤色をしていた。

 正面に門が見える。どうやら入り口は1つだけのようだり



「おお! おっきな街だ! 赤色だ!」


「あー、ドアだとやっぱり楽だわあ〜」


「んだよ、なんか文句あんのかよ」


「岩に囲まれた街ですね」


「おおきな街で探すのは久しぶりだよね」


「そうね。人もたくさんいるだろうから、探すのも一苦労ね〜」


「こいつが魔王探知機を作ればこんな苦労しなくて済むんだがな」


「そんなの無理だって言ってるじゃないですか」


「とかなんとか言いながら、ホントはできるんじゃねえのか? ああ?」


「なんでそんな突っかかってくるんですか。無理なものは無理なんです」


「いーや! おまえはできるはずだ! 俺の勘がそう言ってんだよ!」


「やーめーなーさいっ! そんなの作れるならとっくに作ってるわよ!」


「シアンって時々意味不明だよね。賢い人って一周回ってバカに見えるものなのかなあ」


「んだと? あ、おいこら! 無視すんなメガネ!」



 ロウはスタスタと歩き始めた。

 すると、



「おい、おまえら」



 と知らない声が聞こえてきた。



 4人は後ろを振り向く。



 10人のガラの悪そうな男たちがいた。その手には剣や槍を持っている。



「金をよこせ。抵抗するなら、殺して奪う」



 4人はフリーズした。


「どうした? ビビってんのか?」

「許してくださいって言ってみろよ」





「身長高い順でスタートね」


 イトは何事もなかったかのようにそう言って歩き出した。



「うんこ」

「汚いわねっ! 子育て」

「テレビ」

「……ビール。イト、テメェ今度身長順で始めやがったらぶん殴るからな」


「ナゾ解き」

「危険地帯」

「インターネット」

「特攻」


「ウナヤータマサハ」

「蜂の巣」

「スカイダイビング」

「おいイト、そんな言葉ねえだろ」


「えっ? なんでわかったの?」

「わかるってーの」

「ロウのてれび? とかインターなんとかは何も言わなかったくせにー」

「こいつのはある言葉だろ」

「そうなの?」

「はい。おれの世界にある言葉ですよ」

「ゼンタもわかってた?」

「おほほ、もちろんよお〜」

「本当にわかってましたか?」



 しりとりをしながらスタスタと歩く4人の後ろ姿を、思わずぼーっと見つめていたチンピラだったが、「む、無視してんじゃねえ!」と3巡目にしてようやく声を荒げた。



「あれ? 聞こえてない作戦、うまくいかなかったや」


「意外と賢いチンピラのようね。誰一人タイプじゃないけどね。残念だわ〜」


 ゼンタはタバコの煙を空へ向かって吐き出した。


「こんなやつら毎回相手してたらキリねえわ」


 シアンはチンピラのほうに向かって煙を吐いた。


「まあー、面倒くさいですよね」



「じゃ、ぼく、やろうか?」


 イトはそう言うと右手のリングを触った。



「ダメよイト、こいつら人間だから」


「えっ? そっか、そうなんだ。残念だな。じゃあぼく戦えないや」


 イトがしゅんとする。



「人間だとなんか問題でもあんのかよ? ガキ」


「だって、絶対殺しちゃうもん」



 イトのその言葉に、彼は一瞬寒気がした。「ただの子供騙した」と仲間が肩に手をおくが、震えが止まらなかった。



「おれも戦えません。半分に斬ってしまうので」


「俺も無理だわ。首吹き飛ばしちまう」


「嘘おっしゃい! あんたは調整できるでしょうが」


 シアンの言葉にゼンタがツッコむ。



「テメェがやれよ男女! この前見物してたじゃねえか! ちょっとは動いたらどうだ? 銅像みてえにじっとしやがって! デブまっしぐらだなあ?」


「なんですってー!? あたしのこのナイスバディに向かってなんてこと言うの!?」


 シアンの言葉にゼンタが怒り、喧嘩を始めた。



「あーあ、始まっちゃったー。同じようなことでよく何度もケンカできるよね? すごいよね」


「あの2人は子供なんですよ、精神的に。おれたちのほうが大人です」


「そうなのかな。でもぼくも大人になったらあんなふうになっちゃうのかなー」




 そしてまたしても無視されるチンピラたち。


「おい、たんこぶ頭! 無視すんじゃねえって」

「ちょっと黙ってなさい」



 チンピラどもをゼンタがものすごい形相で睨みつけると、彼らはビクッとかたまった。

 そのうちどんどん顔色が真っ青になって、とうとうバタッと気絶した。



「なっ、何なんだよ! どうなってんだ!?」


 1人残された男は慌てふためく。


「死にたくなければついてこないことね」


 ゼンタの冷たい口調に男は顔面蒼白になり、ただ頷くことしかできなかった。





「みんな魔力吸われて気絶しちゃいましたね」


「なんだかんだゼンタの力が一番怖いよね。気づくの難しいしさ」


「相変わらずエゲツねえなあ」



「どいつもこいつもうるさいのよ! 今度うるさくしたら体内の魔力暴走させて内側から爆破させるわよ。あと、今日の髪型はたんこぶじゃなくてお団子っていうのよ!」



 ゼンタの怒りように、さすがの3人も静かにせざるを得なかった。



 ゼンタは魔力を操ることができる。それだけでなく、周囲から魔力を吸い取り、それを自分や他人に与えることもできる。

 自身の魔力がカラッポになったとしても、集めればまた魔力は回復する。


『尽きることのない魔力』


 これがゼンタが神から授かった特別な力。



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