第27話 普通の人間
「おい、いい加減にしろ」
「ああ? 向こうで決めただろーが!」
「これは俺の意思だ。おまえの指図はうけねえ」
「自分のために使えってか? 生憎と俺は頑丈なんでな」
「おまえに使うって言ってんだろ! 諦めろ!」
「だーー! うるせえ!!」
「戻ったよー。もー、検査検査で。いったいいつまで検査するんだろう」
「おかえり〜」
イトは疲れた様子でロウの病室に戻ってきた。
イトはロウに会ったあと、すぐさま身体を調べられることとなった。
「普通の人間ではない」
研究者はそう告げた。
イトはゼンタに会ったとき腕をナイフで切り、黒いアザのようになっていたのだが、それはアザでも血でもなく、まったく別のものだったのだ。
イトには他にも人間とは身体的特徴が異なる部分が多い。敵国の兵士にも同じような者がいるのかもしれない。
イトの成り立ちを知ることは、この戦争を終わらせるための重要な鍵だった。
それがわかれば、彼と同じように道具として動いている人たちを止められるかもしれない。
それを突き止めるため、イトは四六時中検査をさせられていた。
「ねえ、シアンは何してるの?」
「ロウと話してるんでしょ」
ベッドに座るロウに、シアンが一方的に何やら言っていた。
ゼンタは椅子に座り、新聞をながめているが、ゼンタは文字が読めないので、今のところはただ眺めているだけである。
「でもさ、ロウ、まだしゃべれないよね?」
「そうね〜」
「それなのになんかロウの言ってることわかってるみたいな感じだよね」
「そうね〜」
「ロウは口だけじゃなくて体もまだ動かせないから、何も伝えられないよね?」
「そうね〜」
「じゃあ、あれは何してるの?」
「ロウと話してるんでしょ」
「……どうやって??」
シアンにはロウの言いたいことがなんとなくわかるらしく(それが合っているかどうかはさておき)、それによると、ロウはシアンの力を自分のために使わせたくないらしい。
あの世界での旅自体が自身の願いだったとわかった今、ロウはみんなを巻き込んだという自責の念にかられていた。
向こうで魔王に殺され、この世界へ引き戻される直前、ロウは神の声を聞いた。
『これはあなたの願いだった』と。
そのとき初めて知った。
自分の願いが、神に届いていたことを。
自分の願いにつき合わせておいて、シアンの力で体まで治してもらうなんて、そんな都合の良い話があっていいわけがない。
と、言うことをロウは伝えたいのだが、さすがにシアンもそこまではくみ取れないようだった。
だが、ロウはわかっていた。
きっとそれを伝えられていたとしても、シアンは自分のために力を使うのだろうと。
「いいか? この戦争を終わらせるためには、おまえの証言が不可欠なんだ。俺は向こうでおまえから真実を聞いたが、じゃここで俺がその話を誰かにしても、信憑性がない。その話の出どころであるおまえが話せないのに、どうやって聞いたんだ? ってなんだろ?
今俺にできることは、せいぜい準備だけだ。おまえの口から世界にすべてを伝えたあとで、すぐに動けるよう軍の体制を整えておくこと、それが今、俺にできることだ」
シアンはすでに先を見据えていた。
「おまえの体を治すことは、俺たちだけじゃなく、この国と、おまえの国を守ることにもつながる。俺は、おまえのために力を使うんじゃねえ。自分のために、力を使うんだ」
ロウもわかっていた。
戦争の始まりである自分こそが、この戦争を終わらせることができるのだと。
ロウは覚悟を決める。
シアンにもそれが伝わった。
「よし。いくぞ」
シアンがロウの肩に手を置く。
ロウは、あたたかい何かが体中を巡っていくのを感じた。
そして――。
数日後。
ロウは少しずつ体を動かせるようになっていった。何年も自力で動かしていなかったため、すぐに全開、とはいかなかった。
声も出せるが、あくまでゆっくりとだ。
リハビリに時間はかかるが、時間をかければもとのように動けるようになるだろうと医者は告げた。
奇跡が起こったと、院内ではその話でもちきりだった。
ロウの容態を知る者はみな啞然とした。
いったい何がどうなって回復の見込みがでてきたのか。
何をしても何もできなかったのに。
考えても調べてもわからず、大切な友と会ったことにより身体が何かしらの反応を示したのではないか、というなんとも曖昧な結論にいたった。
ロウはしばらくリハビリをしながら、シアンや軍の人間とともに今後のことについて話し合いをしていた。
イトが使っていた武器の解析が進み、性能や弱点が解ってきた。それにより、5地区前線の敵兵士数名を捕獲することに成功したのだ。
だがそこで、思いも寄らないことが判明した。
彼らは全員、イトと同じ顔をしていたのだ。
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