第15話 戦闘開始
「作戦通りに行くぞ。見た目は子供だが、あれは魔王だ。躊躇するな。必ず殺すぞ」
「ええ」
「はい」
魔王のケガは治っていなかった。
あれから1週間たったが、左目の包帯はとれていなかった。
凄まじい魔力を持ってはいるが、治癒ができないというのは本当らしい。
誰かに治してもらうという手もあったはずだが、おそらくそんなことをすると瞳の色がバレるなだろう。
そしてそれ以前に、そんなことをせずとも3人に負けることはないと踏んでいるのだ。
「結界かあ。外の魔力が探知できないね。解除がめんどくさそうな結界だなあ」
魔王はあたりを見渡す。
3人は縦横100メートルほどの強力な結界を張った。この結界には2つの役割がある。
1つは、魔力探知を無効化する結界だ。今からここで魔王と戦うのを邪魔されないよう、外部から気づかれるのを防ぐためだ。そして内側からも外の魔力を探知できないようにしてある。
幸いあの街はまだ復興に手一杯で、用もなくここに来る人間はいないだろう。
2つ目は、魔王をここに閉じ込めておくためだ。
「この結界を解除しないかぎり、あなたはここからは出られないようになっています」
「そうみたいだね。でも、別に解除する必要はないかな。だって、そんなことしなくても、ここであなたたちを殺せるから」
「どうかな?」
「ま、やれるもんなら、やってみなさいよね」
魔王が黒い魔力の塊をいくつも作るのと同時に、ロウは黄色の剣を魔王の攻撃と同じ数だけ作り、攻撃に備える。
ゼンタとシアンは後方に下がり、2人の前にロウがシールドを張ってあげる。
そして、一斉に攻撃が放たれた。
空中で爆発音が鳴り響き、衝撃で地面が揺れる。
魔王は余裕の表情を見せ、とめどなく攻撃を打ち込んでくる。
ロウもこの程度はまだ問題なく対処できるため、どこかに弱点はないかと探りながらさばいていた。
魔王はゼンタとシアンにも砲撃を開始したが、そちらはロウがシールドを張っているため、2人に攻撃はあたらない。
「これってさ、本当なら、あなたが防御して、白いあの子が攻撃するっていう作戦だったんじゃないの?」
「どうしてそう思うんですか?」
「だって、あきらかにあなたの負担が大きいから。私に攻撃して、あっちの防御までしてあげるなんて」
「まあ、イトさんがここにいれば、そうしたでしょうね」
「捕まっちゃったもんね」
「おかげさまで」
ロウが2人の分までシールドを張っているのは、ゼンタが魔王の魔力を吸い取りロウに渡し、シアンがゼンタの肩に手を置き治癒し続けているからだ。
おかげでロウはまだまだ魔力に困らず、2人のシールドを張ることもとくに苦ではなかった。
「いけそうか?」
「まだ大丈夫よ。あんたこそ、魔力は?」
ゼンタのポニーテールが風で揺れる。気合いを入れる日は、ポニーテールにするのだ。
「まだいける。だが、いつかはなくなる」
「その時が、勝負ね」
「やっぱイトと似てんな。戦い方」
「そうね。動かないとことかそっくり」
「それが作戦なのか、ただ単に戦闘経験の低さのあらわれなのか。ま、すぐにわかる」
この作戦なら、決着がつくのにかなりの時間を要するだろう。
魔王は少し苛立っていた。
相手を削っても削っても回復され、しかも自身の魔力を吸い取られているのだから、さすがに何か手を打つ必要があると考えた。
「もー。めんどくさいなあ。あ、そうだ」
魔王は弾丸のなかに、ほんの小さな攻撃を混ぜ、それをロウの顔めがけてとばした。
あまりにも弱い攻撃だったため、ロウは対処が遅れ、メガネが割れた。
「うっ」
ロウが鈍い声をもらす。
まぶたを切ったようで、血がでていた。
「ロウ!!」
「だい、じょうぶ、です」
ロウはすぐさま目をつぶった。
「ふふっ、見えないのに、私と闘える?」
「ご心配ありがとうございます」
魔王はニヤッとすると攻撃のリズムを少し変えてきた。
だがそんな小細工はロウには通用しなかった。まるで見えているかのように、攻撃は相殺された。
「あ、そっか。あなた、金色だったんだ、忘れてた」
「そうですよ。見えなくても、気配でわかりますから」
「あーーー、めんどくさいなあ」
ロウは剣での攻撃を続けながら、右手に魔力を集中させると、一瞬にしてその手に巨大なスコップが出現した。
「わあ! なにそれ? どーするの?」
魔王は驚きと興奮が入り混じった様子だったが、念の為自身の前にシールドを張った。
「こうするんですよ」
ロウはスコップを魔法で持ち上げ、魔王の手前の地面にグサリと突き刺した。
そして魔力を込め、魔王の真下の地面を思いっきり掘り上げた。
「あわわっ、そーいうとか」
魔王は両手でバランスをとるも足場がグラグラと揺れ、ドサッと地面に倒れた。シールドを張っていたのでダメージはないが、その間魔王の攻撃はストップしたため、ロウはありったけの剣を撃ち込んだ。
「あらら、まずいまずい。壊れちゃう」
魔王のシールドにほんの少しだがヒビが入った。
すかさず魔王は体制を立て直し攻撃を再開した。
「もう少しだったんですけどね」
「こんなのまだ余裕だよ。同じ攻撃はもうくらわないからね」
「そうですか。ではこんなのはどうですか?」
ロウはまたしても右手にスコップを出し、それを魔王の正面から投げつけた。
「もういいよ、それ」
魔王はスコップを魔法で破壊した。
だが次の瞬間、魔王はまた足元をすくわれた。
魔王が正面に気を取られている間に、背後にもう1つスコップを出し、それで地面を掘った。
魔王は「もう! なんなの!」と地面に突っ伏しながら悪態をついた。
その隙にロウはまた剣の攻撃を撃ち込む。
だが、魔王は立ち上がっても攻撃を再開してこず、ロウの攻撃をシールドで防ぐだけだった。
「どうしたのかしら。飽きたのかしら?」
「ありえるな。ガキだからな」
少し様子がおかしいと、2人も気づく。
「なんか、あきてきちゃった」
3人の戦い方に嫌気が差した魔王はそう呟くと、光のない真っ黒な瞳でゼンタとシアンのほうを見る。
左手を2人に向けると、そこから一本の黒い槍が発射された。
それはロウの強固なシールドを突き破り、縦に並ぶゼンタとシアンの胸をまとめて串刺しにした。
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