第16話 解除


「うっ……!!」


「マジ、か……!」



 2人は血を吐き、同時に地面に膝をつく。

 黒い槍は消えず、まだ2人を貫いている。



「シアンさん! ゼンタさん!」



 2人の魔力の乱れを感知し、ロウはなんとか目をあけた。歪む視界のなか、2人が倒れているであろう場所を見る。




「こんな、死にかた、死んでも、嫌なんだけど」


「はは。同感、だな……」



 シアンはなんとか槍を抜こうとするが、まるで体のなかで固定されているかのようにびくともしなかった。魔法で砲撃するも、魔力が足りず壊れない。


 槍を動かすたびにゼンタが痛みで悶える。そしてそれはシアンも同じだった。

 胸からは大量の血が溢れ出し、2人分のそれは地面を赤く染めていた。




「隙を見せちゃだめだよ」



 魔王は2人から目を話せないでいるロウに、ゾクッとするような冷たい声をかけた。

 ロウははっとしたが遅く、黒い魔力の塊が腹部を貫通した。



「……うっ……」



 ロウはよろけるも膝を折ることはせず、腹部を魔法の膜で覆った。

 だが、体に力が入らない。



「おわりだよ。もう治してくれる人もいないし。かわいそうだから、3人が死ぬまでここにいてあげるね。とりあえず、さきにあっちの2人が死にそうだから、見てくるよ」



 魔王はそういうと、ふらつくロウをほったらかしにして、ゼンタとシアンへ近づいていった。




「魔力はかなり消費したけど、やっつけられたし問題なしだね」


 魔王は手のひらを見ながらテクテクと歩く。





「ねえねえ? どんな気分?」



 魔王は後ろで手を組み、ワクワクした様子でシアンに話しかけた。


「そーだなッ……。バカなガキが、1人で浮かれてんなあって、感じだな」


「へえ、まだそんなこと言うんだ」



 魔王は小さな弾を2発作り、シアンの両太ももに撃った。


「うっっ!!」


「ほら、治してみたら? なんでも治せるんでしょ?」


 魔王はまるでおもちゃでも見るかのように、目をキラキラさせていた。



「あんたねえ……」


「あなたもあとで潰してあげるよ」


 魔王はシアンの前にいるゼンタに声をかける。



「ふふっ……」


「どうしたの? いたいの?」


「ほんと、子供って、単純、よね……。経験値が、違うのよ」



「そお? 私、単純? こんなに強いのに?」



「ええ……、おかげて、勝てる、わ……」



「だけど、向こうの黄色の人はもう死んじゃったみたいだよ。魔力が消えちゃったから。あとでお別れのあいさつしようと思ってたのになあ」



 魔王は心底残念そうだった。








 ドスッ!!





「…………えっ……?」








 魔王は、何が起こったのか理解できなかった。


 ただゆっくりと、自身の胸を覗き込む。



 体に、黄色く光る剣が突き刺さっていた――。





「そん、な……、だって、魔力は……」



 魔王は確かに確認した。ロウの魔力が消えたことを。

 魔王はロウがいたところを見る。



 いない――。



「ど、こに……」


 魔王は刺さっている剣を壊し、あたりを見渡す。すると、遠くから光が飛んできた。

 間一髪のところでシールドを出し防いだが、そこでようやく気がついた。



 ロウは、結界の外から攻撃したのだ。

 この結界は内側と外側から魔力探知ができないようになっており、ロウの魔力が消えたのは、ロウがドアを使い結界の外へと出たからだ。


 外からも内側の魔力を探知することはできないが、ロウだけは目をつぶっていても魔王の位置を把握できる。



 魔王はロウがもう死ぬものと決めつけていたため、ロウに気を配るのを怠った。



 ロウは手を緩めず、ものすごいスピードで剣を放っていく。



「どこに、こんな力が……」




 ロウの攻撃力はいままでよりも格段に上がっていた。あれだけの傷を負っているにも関わらず、いったいどこにこれほどの魔力があるというのだ。先程までは確かに死にかけていて、魔力もほとんどなかったのに。


 

 魔王はゼンタを見る。

 ゼンタはロウへ魔力を提供していない。もうほとんど虫の息だ。



 

 


「まさ、か……」




 そこで魔王は辺り一帯を覆う結界を、強力な砲撃で破壊した。一度では壊れず、膨大な魔力を注ぎ3度目でようやく割れた。



「そーいう、こと」



 魔力の流れを感知できるようになり、そこでやっと理解した。



「ようやく、気付いたか、バーカ。さっさと、壊さねえからだ」



 ロウだけでなく、ゼンタとシアンの魔力もとてつもなく大きくなっていった。

 2人は魔法で刺さっていた槍を破壊し、シアンが傷口を防ぐ。


 その顔には、生気が戻っていた。




 彼らは、自身の国の結界を解除したのだ――。





「さ、こっからが、本番ってな」


 シアンは笑った。




「……ほんと、めんどくさいなあ」



 魔王の顔は、苦痛で歪んでいた。











 イトは1人部屋にいた。

 そして、3人の結界が解除されたことに気がついた。



「結界、解除したんだね――」



 イトは魔力を練り、結界の範囲を広げる。

 内側4国が再び結界で覆われた。



「大丈夫。ぼくが、みんなの国も守るよ。だから、みんなも、頑張って」



 瞬く間に魔力が消費されていく。1人で4国の結界を張るとなると、魔力操作が苦手なイトは全神経を注がなくてはならない。



「大丈夫。全部の魔力をこれに込める。カラッポになるまで。だって、これが終わったら、向こうで会えるから」



 イトは信じていた。

 必ず、みんなとまた会えると。


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