第2話 正体
「俺の村が近くにあるんだ。礼がしたいから、ぜひ寄ってってくれ」
助けた男性、ビーフストにそう言われ、4人は一緒にテクテクと歩き始めた。
彼が持っていた荷物はイトが担いでいた。どうやらビーフストは左腕が不自由なようだ。
「おまえさんたち、どこから来たんだ? 見たことろ、4人ともバラバラの出身だろう?」
「ええ、それぞれこの容姿の通りの国から来たのよ。1年前くらいに国を出たの」
ビーフストは隣にいるゼンタ、そして後ろを歩くシアン、ロウ、イトを見る。
「ってことは、わざわざ内側の国から出て来たのか!? あそこの4国は結界に守られてるから、外側の3国よりも安全な場所だろう? どうして?」
「さっきも言ったでしょ? 魔王を倒すことが目的なの。内側の4国も今は少し不安定になっているから。知ってる?」
「ああ、それなら聞いたことがあるよ。なんでも、大陸の中心にある『白の国』の『柱』ってのが行方不明なんだってな」
「そうなの。内側の国では、魔王が現れた時、国を覆う結界を張る『柱』っていう役割がって、その国で一番強い人が務めているんだけど、それがいなくなったからもう国中が大騒ぎなのよ」
「だけど、いなくても結界は作動してるって話だが?」
「まあね。『白の国』の結界は不安定にはなっているけれど、消えたわけじゃない。それに周りを囲む3国の『柱』が結界を張り続けているから、魔王の侵入を防げているわ。だけど、いつ魔王にその隙をつかれるかわからない以上、以前より危険は増しているわね」
「そのために早く魔王を倒さないとってか? さっきのであんたらがものすごく強いのはわかったが、さすがに『柱』よりは弱いだろう?『柱』ってのは一人で国を覆うほどの結界を張れる、化物みたいに強いやつらのことなんだろ?」
「……さあ、どうかしらね」
ゼンタは少し目を伏せ、意味深な笑みを浮かべた。
「それに、『白の国』の『柱』は死んでるっていう噂だ。実際はどうか知らんがな」
「大丈夫だよ。この通りちゃんと生きてイタッ!」
イトの声が聞こえ、ビーフストが後ろを振り返る。
イトはうつむいて脇腹を抑えていて、その隣でタバコを加えるシアンが、イトを鬼のような目で睨みつけている。
そして反対側にはため息を漏らすロウがいた。
シアンと呼ばれている男は、4人の中では一番小柄だ。
水色のツンツンとした短髪に、水色の瞳。つり上がった目じりと荒っぽい話し方、常に加えているタバコが、少しガラの悪い印象を与える。歳はゼンタよりは下だ。
深い青色のダボッとしたパンツに、グレーのジャケット。胸ポケットにはタバコが入れてある。
ロウは黄色の髪に、薄い黄の色がはいった丸メガネをかけている。そのため、瞳の色はわからない。
肩にかかる髪を後ろで一つにまとめていて、耳には白のピアスをつけていた。
丁寧な話し方で、口数は他の3人と比べると少なく、比較的大人しい。
足首まであるグレーのコートはウエストのあたりが少しくびれていて、同じ色のズボンを履いている。ところどころに黄色の装飾が施されており、他の3人と比べて明らかに服装がゴージャスだった。
「気にしないで。いつものことなの〜。結界を張る『柱』が行方不明だと大変よねえ。早く見つかるといいわよね〜。おほほほほ」
ゼンタが笑ってごまかす。
「ふざけんなよテメェ! 自分の立場わかってんのか!?」
シアンは小声でイトを怒鳴る。
「あはははは、ごめん」
「笑ってる場合じゃないですよ。イトさんの正体がバレたら、おれたちの立場も危なくなるんですよ」
「そうだよねえ、ごめんねえってイタッ! なんでまたお腹つつくの?」
シアンがイトの脇腹に手のひらをぐさっと刺した。
「おまえが反省してねえからだろ!」
「あ、もしかして頭を叩けないから脇腹なの? シアンの身長じゃ、僕の頭には手が届かないんだね。それなら仕方ないね」
イトが憐れむような目でシアンを見る。
「見下ろしてんじゃねえ! 言っとくけどな、俺は175あるんだ! 世間一般では175は普通に高いほうなんだよ!」
「それはシアンさんの世界での話ですよね? シアンさんはおれたちの中では一番低いですよね。おれは180で、ゼンタさんは182、イトさんは190ありますから」
「4人並んだらシアンは小さく見えるもんね。態度は一番でっかいけどね」
シアンのぐーパンチが飛んできたが、イトはヒョイッとよけて笑った。
「あはは、残念だねー」
「待てっ! やっぱ頭殴らせろ! 跪け! 殴る! おまえ本当は神に身長でかくしてくれって頼んだんだろ! そうに決まってる!」
「ぼくは言葉とか心?がわかるようにしてもらっただけのはずだから、見た目はそのままだと思うよ。もとの見た目知らないけど。シアンこそ、そんなに身長気にしてるんなら、高くしてくださいって言えばよかったのに」
「うるせえ! 俺はおまえらと違って神に何も頼んでねえんだよ。なんたってもとからパーフェクトボディだからな」
「静かにしてくださいよ。聞えちゃうじゃないですか」
最初こそ小声で話していた3人だが、今では丸聞こえだった。
「何の話をしているのかわからんが、あんた、大変だな」
ビーフストはゼンタに同情した。
「そうなの。あたし一番歳上だから、仕方なくおもりしてるんだけど、ホント疲れるわあ」
ゼンタは遠い目をする。
「ははっ。村には小さいが温泉があるんだ。よかったらそこで疲れをとるといい。ほら、見えてきたよ」
ビーフストが向こうを指差す。
道を下った先に、ポツポツと民家が見えてきた。
そこは緑に囲まれた小さな村だった。木造の家が間隔をあけて並んでいる。一つ一つの家は大きく、どの家にも畑があった。
「部屋が2つ余っているから、よかったら泊まっていくかい? ベッドがないから、床に布団を敷くことになるが、それでもよければ」
「助かるわ! ありがとう」
「荷物があるなら、先に家を案内するが……、ん? そういえば、君たち旅をしているわりにやけに身軽だな。気が付かなかったが、乗ってきた荷車はおいてきたのか?」
ビーフストは4人を見る。
彼らは手ぶらで何も持っていなかった。
「ああ、あれはいいのよ。あたしたちの荷物は特にないから大丈夫よ。それより、お腹がすいたんだけど」
「え? ああ。じゃあ食堂があるから、先にそっちへ行こうか。さっきのお礼にぜひご馳走させてくれ」
「ご飯!?」
イトが飛び上がった。
「ヒャヒャッ! 酒だ酒!」
「ふああー、眠くなってきました」
「俺は先に荷物を置いてくるから、食堂へ向かっててくれ。場所はそこの道を右に曲がってすぐだ」
「ぼく、荷物持つの手伝おうか?」
「いや、もうすぐそこだから、大丈夫さ。ありがとう」
そう言うと、ビーフストは右腕に荷物を下げ、家へと帰っていった。
「さてと。あんたたち、いいこと?」
ゼンタが人差し指をピンとたて、声をひそめる。
「毎度言ってるけれど、くれぐれも派手な行動は控えてね。ここに内側4国の『柱』全員が集まってることがバレたら、魔王を倒せなくなるのよ。もとの世界に戻るどころか、国へ強制送還されて2度と出られなくなるわよ」
「イト以外の俺ら3人は身代わりとして複製体を国に置いてるし、全員結界は遠隔でここから常に張ってる。これでバレたら逆にすげえけどな」
シアンが他人事みたいにヒャヒャッと笑う。
「まさか外からあんな巨大な結界を張ってるとは、誰も思わないでしょうからね。まあ、ほとんど誰にも言わずに出てきてしまいましたから、見つかったらパニックでしょうね」
「国では顔はずっとお面で隠してたから、ほとんどだれもぼくの顔知らないと思うけどね。でもぼくら、こういうところに来ると、何もしてなくても目立つよね」
「あたしが美人だからね」
「俺が天才だからだろ」
「おれの服がかっこいからです」
「みんなが変人だからだよ」
3人がイトを睨みつける。
そろいもそろって高身長、内側4国の人間だと一目でわかる紫、水色、黄色、白の容姿。
すでに遠目から物珍しいそうに4人を見ている人もいた。
「とりあえず、今日の課題は、無事にご飯を食べてお風呂に入って寝ることよ! そのすべてを大人しく静かにこなすこと! わかったわね? 大人しく静かによ!」
「はーい」
イト。『白の国』の『柱』。
190センチ、年齢不詳。
魔力操作が苦手で、複製体を操ることができなかったため、黙って国から脱走。世間的には行方不明となっている。
世間知らずで素直だが、それゆえ毒舌。
「へいへい」
シアン。『水の国』の『柱』。
175センチ、28歳。
国にいるのはシアンの複製体。
とても賢く、常に上から目線で物を言うが、実際の目線は一番低い。
「はい」
ロウ。『黄の国』の『柱』。
180センチ、24歳。
国にいるのはロウの複製体。複製体はすべてロウが作成している。他にも生活に必要なものはすべてロウが魔法で作っているため、ある意味この旅の生命線。
他の3人が変人のため、ここに来てからため息が止まらない。
「不安だわ……。魔王を倒さないともとの世界に戻れないっていうのに、なんでこんなやつらと一緒なの……」
ゼンタ。『紫の国』の『柱』。
182センチ、32歳。
国にいるのはゼンタの複製体。
みんなのお母さん的ポジションだが、それを言うと「お姉さんでしょ?」と笑いながら胸ぐらを掴んでくるので、もう誰も言わなくなった。
髪型は毎日変える。
それぞれの国の最強が、魔王を倒すために集まった。
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