そして、転生した4人は魔王を倒す旅に出る

矢口世

第1話 最強の4人


 彼は願っていた。



『ずっと、夢をみている。

 誰かに言ったら、バカな妄想だって言われそうだな。



 それは、こんな夢。

 ある日、あの扉から誰がが入ってくるんだ。

 どこかで会ったことがあるような、懐かしいような、そんな人が。



 会いに来たよ! って言うんだ。



 そうして、ここから連れ出してくれる。

 それを、ずっと待ってる。

 そんなことあるわけないとわかっていながら。



 それでも、だた、ずっと。

 それだけを、誰かに祈っている』







 ――――――









「ねえ、魔王ってどこにいるの?」


「それがわかればね、こんな苦労はしてないのよ〜」


「隠れるのがうまいですよね、魔王」



 3人はガタガタと揺れる荷車の上にいた。

 大きな1枚の板に、4つの車輪がついてあるだけの、簡易的なものだ。



「おい、おまえら、はあっ、はあっ」



 そして先頭の自転車がこの荷車を引っ張っていた。



「シアン大丈夫? こぐの変われたらよかったんだけど」


「ダメよ〜。言い出しっぺこいつだから、変わったらダメ〜」


「まあ、自業自得ですよね」



「クソがっ! おまえら、覚えてろよ」



 シアンと荒い息遣いと、ペダルをこぐ音が重なる。



 両サイドを森に挟まれた道は何の整備もされておらず、石や木の枝があちこちに転がっていた。デコボコと足場の悪い道に、シアンの体力はどんどん削れていく。



「あらあ〜、息が上がってるわよお。タバコの吸い過ぎかしらあ? しんどいならしんどいって言ってみなさいよ」


「男女は黙ってろ! テメェも今吸ってんだろうが!」


「あたしそんな貧弱な肺してないもの。あとあたしの名前はゼンタよ」



 男女と呼ばれたゼンタはタバコを口元へ運んだ。タバコを持つ手には花の入れ墨が彫ってあった。


 吐き出した煙は心地よい風にのって後ろへと流れてく。



「誰かさんが体力には自身があるとか言いだしたからこうなるんですよ」


「ロウ! このメガネ野郎! 俺のほうが歳上だぞ! 敬え!」


「ちゃんと敬語使ってるじゃないですか」


 ため息交じりにロウが答える。



「ねえゼンタ、ぼくも敬語使ったほうがいいかな? たぶんぼくも年下だけど」


「あのねイト、敬語っていうのはね、尊敬する人にしか使っちゃいけないのよ」


「あ、そうなんだ。じゃあ使えないや、残念だな……」


 イトは心底残念そうな顔をした。



「イト、テメェは、あとで殴る。デカいからってなあ、殴れねえと思ったら、はあ、大間違いだからなっ!」



「たまには違う探し方をしたほうが言いっていったのはあなたでしょう? その通りになってるんだから、文句言わないの〜」


「そうですよ。これはシアンさんの提案ですよ。おれはいつも通りドアで移動してもよかったんです」


「そうだよ。じゃんけんで負けた人は黙ってこいで」



 3人はシアンの背中に向かって話したが、反応がなかった。

 と思ったら、「殴りたい殴りたい殴りたい殴りたい殴る殴る殴る殴る」と、シアンが呪文のようにブツブツ言い始めていたので、3人はやれやれと顔を見合わせ、静かにすることにした。





 それから30分ほど経ったころ、かなり先の道に、何かがいるのが見えた。



「はあ、おい……、はあ、はあ」


 シアンがカラカラの声をだす。



「あら? あれは、何かしら?」


 ゼンタは上半身を乗り出して前方を確認する。


「うーん。遠すぎてわからないわね」


「誰か襲われてるみたいだよ。尻もちついてるのと、灰色の影が2つ」


「よく見えるわねえ。どんな視力してんのよ。

 あたしなんてまだ点にしか見えないんだけど」


 ゼンタは眉間にシワを寄せながら、目を糸のように細めてみる。



「イトさん以外誰も見えないですよ。灰色の影ということは、魔物ですね」


「そうね」


「じゃ、やっちゃっていい?」



 イトはそう言うと立ち上がり、魔力を練る。手首につけているリングが光だし、手のひらに銃が現れた。

 それは190センチもあるイトの身長と同じ長さの巨大な銃だった。



「イト、その尻もちついてるのはおそらく『人間』だから、撃っちゃダメよ。その周りの2体、やっちゃってね」


「はーい」



 イトは巨大な銃を肩に担ぐと、すぐに撃った。

 ドンドンと2発の銃声が聞こえたかと思うと、ほぼ同時に向こうの魔物が倒れた。



「はい。おわったよー」


「イトさん、お見事です」


「さすがね」


「この距離なら楽勝だよ」


「あなたホントに外さないわねえ。暗闇でもあてられるものね」


「へへー、慣れてるからね」




「イト……、終わったんなら、銃を消せ……。重いだろうがっ!」


 銃の重さが加わり、ペダルをこぐシアンの負荷が増していた。

 イトは軽々と扱っているが、高火力と遠距離射撃に特化したこの銃は、とんでもなく重いのだ。



「重い? これ全然重くないよ? あ、でもシアンにとっては重いのかもしれないね。ごめんね、すぐ消すよ」


 イトは銃をひょいっと上に投げて軽さをアピールしたが、その言葉にシアンの顔がひきった。



「まったく悪気のない言葉だから余計に刺さりますよね」


「この子は素直なだけなのよ。思ったことを言っちゃう、無自覚な毒舌なの」



 4人が乗る荷車は、襲われていた人のところへと近づいていった。



「おーい! 大丈夫ー? あ、男の人だね」


 イトは銃を消し、襲われていた人に大声で話しかけた。

 男性は手を振り、無事を知らせてくれた。







「助かったよ、ありがとう」



 深緑の短髪、50代くらいの小柄な男性だった。あたりには男性の荷物が散乱していた。


 イトとロウはそれを拾い、男性のもとへと集めてあげていた。

 シアンは地べたに座り、疲れた様子で自転車にもたれかかっていた。



「お疲れサマ。どお? 久しぶりの運動は?」


「見下ろしてんじゃねえ。余裕だわこんなもん」


 そう言うとシアンは胸ポケットからタバコを取り出した。




「それにしても、すごいな! とんでもなく距離があったと思うが、あんなところから魔物を倒せるなんて、信じられないよ!」


 男性は興奮していた。



「ぼくが撃ったんだよ」


「えっ? 君が?」


 男性はイトをまじまじと見る。



 とんでもなく身長が高く、体の線は細い。

 ショートカットの白髪、白い瞳に長いまつげ、シャープな輪郭、透き通るような肌。白い大きめのパーカーに、グレーのスボン。

 体は大きいが、まだ幼さがある。外見は10代半ば、といったところか。



「女みたいにきれいな顔をしているな」


「あ、それよく言われるよ」


 イトは笑った。



「このあたりには魔物はよくでるのかしら?」


 ゼンタがこちらにやってきた。



「いや、近くの村にでたことはあったんだが、実際に見たのは初めてで……って、あんたは、男、か?」


 男性は今度はゼンタを凝視する。



 イトよりは背は低いが、それでも大きい。180はある。

 紫の瞳、腰まで届きそうな紫色の長髪を後ろで三つ編みにしている。垂れ目で優しい顔つき、仕草に女性らしさはあるが、声はハスキー。そして風にのって煙の匂いがする。歳は30くらい。

 薄紫のセーターに足首まであるグレーのプリーツスカートを履いていて、後ろ姿だけ見れば女性に見えるだろう。左手には花の入れ墨がある。



「ご想像にお任せするわ」


 ゼンタは男性にウインクをした。



「えっ? 男でしょ? 男だよね?」

「男だと思いますけど」

「男でも女でも興味ねえわ」



「だまりなさいあんたたち」



 なにやら変わった連中だなと男性は呟いた。






「あ、また来ましたよ」


 ロウは森に向かってそう言うと、魔法で剣を2本作り、両手に持った。



「ひっ!」


 男性は青ざめる。

 森の中から続々と魔物が現れたのだ。四方八方を魔物に囲まれた。


 灰色のゾンビのような姿をしているが、それぞれに顔はなくのっぺらぼうだ。



「懲りねえなあ、どんなけいんだよ」


 シアンはどっこいしょと立ち上がり、片手に魔力を集め始めた。



「これは全部殺していいよね?」


 イトは今度はリングから手より少し大きめの銃を出した。



「ああ、全部やっていいぞー」とシアンが言うやいなや、イトはものすごい速さで魔物を撃ち抜いていった。



 一発で即死、百発百中だ。

 イトはその場からほとんど動かず、体の向きを変えるだけの最小限の動きでひたすら魔物を倒していった。イトには相手の急所がなんとなくわかるらしい。



 ロウは両手に持った剣を振りかざし、次々と敵の懐に飛び込んでいく。目にも止まらぬ早業で、瞬く間に魔物が真っ二つになっていった。



「あー、面倒くせ。酒が飲みてえ」


 シアンは悪態をつきながらも、右の手のひらに集めた水色の魔力を小さなボールくらいの大きさに分裂させ、それを向かってきた魔物へと放った。


 一撃で魔物の顔面が吹き飛んでいく。



 シアンはタバコを加えたまま、「これに何の意味があんのかねえ」と誰にも聞こえない声でぽつりと呟いた。




「あ、あんたは戦えないのか?」


 男性は隣に突っ立っているゼンタを見上げた。



「おい男女! なに見物してんだよ!」


 シアンが怒鳴った。



「あたしは切り札でしょ〜? あんたたちが死んだらそいつら倒してあげるわよ。まさかあたしの手を借りないといけないほど苦戦してるのかしら〜?」


 ゼンタは煙をすーっと吐き、ニヤニヤしながら3人の戦いを傍観していた。



「ぼくなんだか殴りたい気分」

「殴っていいんじゃないですか?」

「ぜってぇ後で殴る」


「おほほほほ、止まってないで手を動かしなさい」



「つーか、俺だろ切り札! 俺しか治癒できねえじゃねえか! 俺が死んだら誰がおまえら治すんだよ!」



「それを言うならおれが切り札ですよ。おれが死んだら誰があの荷車とかドアを作るんですか? みなさん徒歩で魔王を探すんですか?」



「ぼくはー、神様から何ももらってないからなあ。保留しちゃったからなあ。でも一番強いのはぼくだし、魔王を倒せるのはぼくだと思うんだけど。だからぼくも死なないほうがいいよなあ」




「……なんなんだよ、あんたら」



 男性は魔物に怯えていたことも忘れ、戦いながら不毛な言い合いをするおかしな4人組を見ていた。



「この星に現れた魔王を倒すために集められた同士よ。ま、あたしたちみんな、よそ者だけどね」




 異世界から来た4人は、魔王を倒す旅に出ていた。


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