21、ハナは決意を新たにする
家に帰ると、学校から連絡が入っていたらしく、寿郎に迎えられた。
「大丈夫だったか、ハナ」
寿郎はハナの肩を抱き、心配そうに眉をハの字にした。
「うん。油断してたらやられちゃって。登校中だったから、トンボ玉もなかったしね」
「そうか。ケガは無いか? 痛むところは?」
「大丈夫だよ。心配かけてごめんね」
寿郎にこんなにも心配をされると、ハナの心は痛んだ。ウソをつくということは、ウソをどんどん重ねていくことなのだと、この時改めて学ぶことになった。
「謝ることじゃない。何もなかったならよかったよ。今日は畑仕事は良いから、休みなさい。昨夜の騒動もあって疲れただろうからな」
「大げさだよ、父さん。大丈夫。畑仕事は気分転換になるから、行ってくる」
それから何度か押し問答があったが、結局は寿郎が折れることになった。この後、アロマテラピーを用いた訪問看護があるのだ。「くれぐれも無理をするんじゃないぞ」と念を押し、寿郎は出かけて行った。
袴に着替えて黒豆と共に畑に行くと、そこには守路がいた。畑の中にあるベンチに座り、神妙な顔で水筒のお茶を飲んでいる。
「こんにちは、守路さん」
ハナが手を振りながら駆け寄ると、守路はバッと立ち上がり、ハナの肩を掴んだ。
「河童に襲われたって聞いたよ。大丈夫だった?」
「えっ、あ、守路さんも知ってるんだ……」
「寿郎さんが教えてくれたんだ。俺の他に知ってる人は今のところいないけど、たぶん一族の人もその内知ることになるだろうね」
「そっかあ。またあざみとか当主様に意地悪言われるんだろうね。三日月一族の自覚が足りないだとか」
ハナは乾いた笑い声をあげた。
あの時はセイと一緒にいたい思いしかなかった。しかし今こうして冷静になると、ついたウソの代償は大きそうだ。ハナは嫌味を言われる程度で済むだろうが、セイはどうだろうか。また殴られるようなことが無ければよいけど、とハナは願わずにはいられなかった。
「昨晩の騒動のこともあるから、大目に見てくれないかな。みんな今日は寝不足だったから、仕事も早く終わったんだ」
「そうなんだ。それでここで待っててくれたの?」
「うん。直接顔を見て、ハナが無事だって安心したいと思って。あと畑の水やりも、手伝おうと思って来たんだ」
そう言って、守路はにっこりと笑った。
――こんなにも優しい人まで騙すことになるなんて。もう二度と、こんなウソをつかなくて済むようになりますように。
「……ありがとう、守路さん」
「俺がやりたくて来たから、お礼なんて良いよ。さあ、ハナは座ってて。指示をくれれば俺が水やりするから」
「えっ、いいよ、いいよ! わたしも一緒にやる!」
「わんっ!」
「そう? じゃあ、ハナも黒豆も一緒にやろうか」
今日の日中は雲一つない快晴が続いたため、畑の植物の葉の緑は美しさを増したように見えたが、土はカラカラだった。おかげで畑の全域に水を蒔くことになったが、守路の手伝いと黒豆の応援のおかげで、楽しい時間となった。しかし楽しい時間を過ごせば過ごすほど、ハナの罪悪感は大きくなって行った。
大好きな人たちにウソをつくと、胸がムカムカして、こんなにも気分が悪くなるなんて。十七年間真っすぐに生きてきたハナにとっては、初めて知ることだった。
三日月一族と桜一族の仲が良くなれば、今日のようにセイと一緒にいるためのウソをつかなくて済むようになる。それならば、箒競争で勝つしかない。勝って、自分たちを認めてもらい、堂々と一緒にいられる権利を得るしかない。
ハナは罪悪感をかみしめながら、決意を新たにした。
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