13、ハナは飛行魔法を練習させられる

「聞いたぞ、ハナ。クラスメイトを女郎蜘蛛から助けたらしいな」

 宋生は機嫌よく微笑を浮かべた。

「はい。黒豆も協力してくれて、最終的には楠兄さんも助けてくれましたけど」

「先ほどクラスメイトの両親だという方から連絡が入ったぞ。ハナに心から感謝し、三日月一族を支持してくれるそうだ。ありがたいな」

 何よりも嬉しいのは後半の話だろう。ハナは「はあ」とだけ言い返した。

「やはりお前は魔術の才能があるようだな、ハナ。これで空を飛ぶことさえできれば、紅に次ぐ魔術師になれたかもしれんな」

 嬉しい言葉に、ハナは思わずパッと顔を上げた。

 ――わたしが箒を持たずに空を飛べるって言ったら、伯父さんは喜ぶのかな。

 そう思って、口を開きかけた時、先に宋生が話し出した。

「そこでだ、ハナ。もう一度、箒で空を飛べないか試してみようじゃないか。子どもの頃はできなかっただけで、魔術のコントロールが上手くなった今は、飛べるようになっているかもしれないぞ」

 宋生の目は期待で星のように輝いている。その顔を見ると、ハナはすぐに口を閉じた。なんとなくだが、何も持たずに空を飛べると知っても、宋生は喜んでくれないような気がしたのだ。

「……あまり、期待はできないですけど、やってみます」

「そうしよう、そうしよう。わたしも付き合おう」

 宋生は息を巻いていたが、結果はハナの言う通りだった。

 竹箒を持ち、呪文を唱えても、ハナの体は一ミリも浮くことがなかった。段々と宋生の顔から笑顔が消えていくと、ハナは悲しい気持ちになった。

「……やはり難しいか」

「……すみません」

「いや、いい。わかっていたことだ」

 すごい嫌味、とハナは肩をすくめた。

「ただ、お前の魔術の実力は当主であるわたしも認めている。今後も魔術の力を、村や人々のために使いなさい」

「はい。……あの、当主様はどう思いますか? 立て続けに女郎蜘蛛の事件があって。女郎蜘蛛だけじゃなく、妖怪の事件は少し増えています」

 ハナはずっと気になっていたことを聞いてみた。この頃は、妖怪事件による要請がかなり増えた。具体的に言うと、規模はどうであれ、二日に一回は誰かがどこかで人を襲う妖怪と遭遇し、退治をしている。これはここ数年で最も多い頻度だ。寿郎もこれには首をひねっていた。

 宋生はあごに手を当てて、「ふむ」と言った。

「それについては我々も調査をしているところだが、妖怪が原因というよりは、人間が原因とも考えられそうなんだ」

「人間が?」

「ああ。昨今はSNSの普及がすさまじい。人間が面白がって、妖怪のいるところに入っていき、対抗できずに襲われる、というケースが増えているんだ」

 今回の理仁たちがまさにそのケースに当てはまる。ハナは頭が痛くなった。

「公共の電波やSNSを有効に利用して、妖怪の危険性を今一度市民に知らせる時が来ているのかもしれないな。それについては、東京の魔術協会にも打診しているところだ」

「そうですか。わかりました。わたしも、学校で気を付けるようにみんなに言っておきます」

「そうしなさい」

 最後にもう一度竹箒に乗ってみるように言われたが、結果は変わらなかった。

「もういい、わかった。箒競争では当初の予定通り、魔術を使って妨害から護ることを徹底しなさい」

 宋生はわざとらしいため息をつき、三日月柄の羽織を揺らして帰って行った。

 中庭で一人になったハナも、ふうっとため息をついた。

「褒められたのか、失望されたのかわからないね」

 そうつぶやき、ハナも家に帰った。

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