第9話 私の王子様 (美桜 視点)
私はいつものように学校へ行く電車に乗る。
あまり、電車は好きじゃない。
色んな人がいて狭く、息苦しいし、それに少し怖い。
電車に乗って3分ぐらいが経過した頃だろうか。
え? さっきから手が当たってるよね……。
間違いなく前の男の人の手が私に当たってる。
気のせいかな……?
そうやって段々とエスカレートしていき、誤魔化されないほどまで来ている。
言わなきゃ。でも、もし勘違いだったら……。いや、そんなはずない。
しかし、声に出そうとしても上手く声にならない。
恐怖心が私の喉にこびりついて声を出してくれない。
誰か……助けて。
「あの。手当たってますよ」
大学生くらいの男の人が痴漢の人に静かに話しかける。
「え、おお」
その人は突如喋りかけられたことに驚いたのか、私からすっと手を引いた。
その後、大学生の人が私とその人の間に挟まって立ってくれたお陰で私はその日は何も無かった。
私が降りるまで、大学生の人はずっと私の前にいてくれた。
名前も聞けず、感謝も伝えられなかった。
私はそれからはいつも乗っている車両とは違う所に乗った。
ある日私の車両に大学生の人がいるのが見えたが、流石に満員電車の中では話しかけることは出来なかった。
その人は私が降りる駅の一つ前の駅に降りた。
あの日、私がおりるまでずっと待っていてくれていたんだ。そう思うと、段々とあの人のことを毎日探すようになっていた。
車両を変えたおかげで、前のようなことは無くなったけど、
私を救ってくれた大学生の人に会う機会が少なくなってしまったのが少し悲しかった。
また会いたいな。会って話がしたい。
そう思うようになった。
ある日の学校の帰り、私はその大学生の人を見つけた。
私は嬉しくて舞い上がりそうだった。
勇気を出して話しかけることにした。
「あの。先日はありがとうございました」
その人は少しキョトンとした顔の後、急に思い出したかのように笑顔になった。
「ああ、あの時の。元気そうで良かったよ」
「本当に助けて頂いたおかげです」
「それなら良かったよ。これからも気をつけてね。ああいう人っているから。何かあったら僕がまた助けるよ」
その言葉を聞いて、私の運命の人だと思った。
私の王子様。私を助けてくれる……そんな人。
「あの、お名前お伺いしてもよろしいですか?」
「僕? 僕は鳳 まつりって名前だよ」
「かっこいい名前ですね」
「えへへーありがとう。それで君は?」
「私は三国 美桜です」
「美桜ちゃんか。よろしくね」
「はい!」
その後色々な話をして楽しかった。
その時間はあっという間に終わってしまった。
ずっとこの時間が続けばいいのに……。
まつりさんと2人だけの時間。
ある日、私はいつもと車両を変えて、まつりさんがいる車両に乗った。
ここは私がいつもいる場所とは違って、駅の階段に近く、結構混んでいる。
そして、ぎりぎりまつりさんが電車に乗り込んでくるのが見えた。
しっかりしてそうなのに、案外ギリギリで来る所も愛おしくてたまらない。
私はスマホを出さず、ただまつりさんをじっと見ていた。
あまり、見すぎないようには意識しているが、勝手に見てしまうのだから仕方がない。
そんな時だった。私にとって絶対に許されない光景が見えた。
あの女の人……。まつりさんに触ってる??
その後、疑惑が確信に変わり私は怒りに狂いそうになった。
まつりさんに……。
そして、2人はあまり人の乗り降りがない駅に降りていた。
まつりさんのことだから多分あの後警察に突き出してくれるに間違いない。
今度は私がまつりさんを助けたかったが、満員電車の中ではただ見ることしか出来なかった。
私は決心した。私のまつりさんに気安く触れたあの女を絶対に許さない。
絶対に……。
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