第8話 明らかに何かやばい雰囲気のあるヒロインだって可愛らしい
2人は帰りの電車に乗り込む。
「そこ、座ったら」
「大丈夫だよ。まつりお兄ちゃん」
電車は不特定多数の人がいるので、いつものように敬語を使わないようにしている。
「こんにちは。まつりさん」
先程まで座席に座っていた制服姿の女の子がが突如としてまつりに声をかけた。
「あーこんにちは。
彼女は
「今日も大学ですか?」
「うんそうだよ。美桜ちゃんも学校?」
「はい。今日午前で学校が終わりだったので早く帰れました」
「いいよね、午前で終わるの。クラブとかしてたから、あんまり恩恵なかったけど」
「まつりさんって何のクラブしていらっしゃったんですか?」
「バスケだよ」
「凄いですね。かっこいいです」
「本当? そう言われると嬉しいな」
「だから体がガッチリしてたんだ。その割には背はあまり高くないのね」
瑠依のまつりに聞こえるか聞こえないかくらいの声で独り言を言う。
しかし、その声をまつりではなく、美桜の方が聞いた。
その瞬間、美桜は瑠依へと柔和な印象を浮かばせられる可愛いらしい顔が一瞬として変わる。
「まつりさん。その子は?」
「あー。僕のいとこだよ」
美桜に睨みつけられていることに気づいた瑠依はピシッと姿勢を正して頑張って笑顔を作る。
「どうも瑠依って言います」
「へえー? 瑠依ちゃん。可愛い子ですね」
「あ、ありがとうございます……」
瑠依は少し美桜にビビっていた。
「そういや、まつりさん。今こんな話するのも迷惑かもしれないのですが、昨日大丈夫でした?」
「昨日……?」
「その……まつりさんが女の人にあんまり良くないことされているのが見えたので……。助けようと思ったんですけど、満員電車の中で動けなくて。ごめんなさい」
「どうして美桜ちゃんが謝るんだ。犯人が悪いんだよ。本当! 犯人が悪いんだ」
ジッとした目で瑠依はまつりを見る。
「私絶対にまつりさんにあんなことした人を許さない」
「……必ず見つけたら」
「え? なんて」
「いや、気にしないでください。それよりそろそろ着きますよ」
「本当だね」
美桜のポツリと言い放った言葉はまつりには聞こえていなかったようだが、しっかりと瑠依には聞こえていた。
なにかよく分からない女の戦いが始まる予感……。
「じゃあ、僕たちは降りるね。それじゃ」
「ってあれ?」
まつりたちが降りると同時に、美桜もふたりと一緒に電車をおりる。
「どこかお店に寄りませんか? 久しぶりにまつりさんに会えたのに、もうお別れって思うとあの時のこと思い出して……」
「それなら全然大丈夫だよ。じゃあ、あそこのドーナツ屋に行こうか」
「はい。ありがとうございます」
まつりと美桜はドーナツをひとつ。
瑠依は甘いもの好きなのか3つペロリと平らげた。
「奢ってまでいただいてありがとうございます」
「いやいや。当然だよ、それより少し落ち着いたかな?」
「はい。ありがとうございます。あ、すいません。少し御手洗に行ってきますね」
「どうぞ」
「はあーー」
「どうしたんですか。そんなでっかいため息ついて」
「あの子がいたら、ストレスで死ぬわ」
「どうしてですか? すっごくいい子でしょ」
「あなたの鈍感さには呆れるわ。あなたってあれね。凄い樹液でも塗りたくってるのかしら。ヤバいやつがよってくるような」
「何度も言いますけど、やばいのは貴方だけですよ。美桜ちゃんは辛い過去があって、その事で僕を頼ってるだけなんだと思いますよ」
「頼る……ねえ」
「ごめんなさい。おまたせしちゃって」
「それじゃあ行こっか」
美桜と別れた後、先程瑠依に言われた言葉が脳裏にチラついたまつりは帰る時もずっと視線を感じていたという……。
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