第7話 大量の塩の中にある砂糖は意外に簡単に見つけられる

「え? え?」


 紫音は首をキョロキョロ振り、まつりに対して助けを求める。


「あー羽衣気にしないで。瑠依はちょっとさいきん覚えた難しい言葉を使いたがる年頃だからな」


「そういうもんなんですかー。確かに、小学生の時ってあるあるですよね」


「お兄ちゃんね。今日痴女のh」


「あーーーーーーー」


 それだけは聞かれちゃまずいので、何とか大声を出してかき消そうとする。

 聞かれてしまっては、まつりの学校での地位が最下層に陥ってしまい、居場所が無くなってしまう。


「うわ。びっくりした。急に大声出してどうしたんすか?」


「羽衣気にしないで。僕は急に大声出したくなる年頃だから」


「うわ。気持ち悪」


 まつりの心に少々の傷を負ったが、致命傷は免れたのでまあよしとする。


「それじゃ、瑠依ちゃん行こっか」


「あー。ちょっと待って」


 まつりは羽衣と一緒に行こうとする瑠依を手招きしてこちらに呼ぶ。


「絶対にさっきみたいなことやめてくださいよ。下手したら僕捕まっちゃうので」


「大丈夫よ。完璧に演じきるわ」


 不安しかないまつりだったが、ただその2人の後ろ姿を呆然と見尽くすしかなかった。

 泣きそうなまつりは一限の授業へと向かった。





 まつりの受けていた授業がようやく終わった。

 まつりは授業に一切集中することができず、早く終わって欲しいと願うばかりだった。

 とにかく、まつりは2人がいるであろう部屋へと急いで向かう。

 ドアの前に到着すると、1呼吸置いてドアを開ける。


 ガチャ


「し、死んでる!」


 まつりが見たのは机にうっぷしている瑠依の姿だった。

 人差し指を伸ばし、まるでダイイングメッセージでも書くかのようだった。


「ええ? 何があったの?」


「瑠依ちゃんと恋バナしてただけですよ。瑠依ちゃんも楽しかったよね」


「たぼぢかっだ」


 本当に何があったのか不安だったが、とりあえず一番の悩みの種を消しておくことにする。


「何か瑠依が余計なこと言ってたりしてなかった?」


「別になにも言ってないですよ。私たちガールズトークしかしていないので」


「それなら良かった。ありがとう、羽衣。じゃあ、瑠依行こっか」


「うん。行く」


「バイバイ。瑠依ちゃん。今日の話は秘密だよ」


 紫音は唇の前に人差し指をそっと置いて瑠依と秘密を共有する。

 それに対して瑠依はえへへと流し笑いしてすぐにちょこちょことまつりの後ろをついていった。




「どうしてあんなことになってたんですか?」


「言えないわ。それは……」


「すごく気になるんですけど」


「1つ言えることがあるとすれば、彼女に圧倒されてしまったってことかしら。今週末の日曜日彼女と会うのでしょう? 気をつけた方がいいわよ」


「はあ……そうですか」


「どうします? 僕もう今日は授業ないんですけどどこかでご飯食べますか?」


「あなた時間割の作り方失敗してないかしら……?」


「しっかり休息とる日を大事にする派なので」


「そうね。少し早いけど行きましょうか」



 ◇


「ここのラーメン美味しかったですね」


「思ってるより胃が小さくなってるのね。これほどまでに早く満腹を感じるとは思わなかったよ」


「小さいお口ながらがんばってフーフーしてすすってるの可愛かったですよ」


 無言で瑠依は思いっきりまつりの足をふむ。


「痛って! 何するんですか?」


「まつりくんがちょっと偉そうなこといったからよ」


 そう言い放った瑠依は少し赤面し、耳も心なしか赤く見える。

「変なところで照れるんだなあ」と瑠依の意外な弱い場面を見つけたまつりであった。









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