第6話 可愛い所もあるが、それ以上に可愛くない所がある

 昨日は適当に晩御飯を済ましたあと、すぐに疲れてまつりは眠ってしまった。

 そして、日が差し込み、暖かい部屋でまつりは目を覚ました。

 どうして、カーテンも開けていないのに、暖かいんだろうとまつりは寝ぼけまなこを擦ると……。

 一気に目が覚めたようだ。

 まつりにとって夢だと思いたかった少女が目の前にいたからだ。


「おはよう。まつりくん」


「おはようございます」


「ご飯できてるわよ」


「本当ですか? ってなんて格好してるんですか!?」


 現れたのはエプロンのみを着衣した瑠依の姿だった。

 サイズは以前の大人用のものなのか。確実にぶかぶかで長さがあっていない。

 そのせいで色々とやばい。本当にやばい(まつり曰く)。


「早く着替えてくださいよ!」


「何よ。私が元気にさせてあげようとサービスしてあげたのに」


「なんかもう色々と犯罪臭がすごいからやめてください」


「違うところが元気になっちゃったもんねあはは」


 話が通じない瑠依に少しいらだちを覚えたまつりだったが、しっかりと目は逸らす。

 そういう紳士的なところがまつりのいい所なのだ。


「僕ちょっと顔洗ってきますね」


「ご飯は本当に出来てるから、温かいうちに食べてね」


「ありがとうございます」


 まつりは歯を磨き、顔や手を洗い、豪勢な朝食が並べられた机の前に座る。


「それでは召し上がれ」


「いただきます」


「どう……かな?」


「いや、むちゃくちゃ美味いっすよ。なんか感動しました」


「本当に? 嬉しい!」


「あー!! 抱きつくなーー!!」


 裸エプロン女子に抱きつかれるのは良くない。

 良くない訳では無いが、やっぱり色々と良くない。


「早く服きてくださいよ」


「えーどうして?」


「どうしてもこうしても見えちゃうんで」


「えーでもそういう性癖でしょ?」


「違いますから。まじで」


「それで、今日連れて行ってくれるんだよね?」


「いや、それは嫌なんですけど」


「だってこんなに美味しい朝食を作ってあげて遅刻しないようにも起こしてそんなまさかねえ」


「そう言われると……確かに……」


 すぐに流れに飲まれてしまうまつりであった。


「じゃあ、決定ね。昨日買ってきた服に着替えるわ」


「まあ、この際仕方ないから良いですけど。1つ約束してください」


「なに?」


「その、外で痴女の片鱗見せないでくださいね」


「痴女の片鱗……? なんか黄金の戦士みたいでかっこいいわね✨️」


「かっこよくないですよー」


「任せなさい。その痴女の片鱗を見せずに完璧にまつりくんのいとこを演じきってみせるわ」


 瑠依はすぐに覚えた言葉を使いたがる見た目相応の精神年齢も持ち合わせているらしい。




「準備できたかしら。そろそろ行くわよ」


「なんでそんなに元気なんですか?」


「そりゃあ、大学よ。雰囲気だけでも味わう価値があるわ」


「でも、僕一限から授業なんですけど。その間どうする気ですか?」


「そこら辺をうろちょろしとくわ。別に変なことはしないから安心してね」


「瑠依さんが変なことをしなかったとしても、普通に不安ですよ」


「ふーん」


「なんですか?」


「まつりくんが優しくなったなと思ったのよ」


「一応僕のサークルの部屋が空いてるので、そこにいといてください」


「1人でそこにいろと!? 自慢じゃないけれど、1人で密室にいたら何をしでかすか分かったもんじゃないわよ」


「じゃあ、羽衣にいてもらうことにしますね。多分あいつ一限いつもひとりであそこにいるって言ってたんで」


「あの子妙に鋭い所があるから怖いのよねー」


「まあ、流石にバレないですよ」


「そうね」


 その後も2人は駅まで歩いて行った。

 いつも通りの電車に乗り、満員電車の中ぎゅうぎゅうと押され、まつりの通う法坂大学に着いた。


「まつりくんって法大だったのね」


「そうですよ。今更ですね」


「聞くのを忘れていたわ」


「あーせんぱーい」


 遠くから2人に向かって手を元気よく振る紫音がいた。

 えっさえっさとフリスビー目掛けて走るイヌのように走って来た。


「羽衣。今日はこの子のことよろしくな」


「任せてください。それで瑠依ちゃんだよね。せんぱいが帰ってくるまで何する?」


「えっとそのー紫音さんの猥談を聞きたいです。私は代わりにまつりお兄ちゃんの話するんで」


 まつりは後悔した。

 気軽に和泉 瑠依をここに連れてきてしまったことを。

 この女はやばい!!(まつりの心の叫び)


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