第5話 世の中が物騒なことを身をもって証明してくれる人がいる

 ショッピングモールの中はとても広く、様々な服屋も多い。


「行くなら着いていきますけど、中までは入らないんであとは勝手にしてくださいね」


「偉く冷たいわね」


「知人にこんな状況見られたくないんですよ」


「そんなに恐れることは無いわ。私よ。任せなさい」


「あなただから怖いんですよ」




 その後もまつりは2時間近く瑠依に付き合わされる羽目になった。



「えらくいっぱい買いましたね。全部もつの僕なんだからもう少し遠慮してくださいよ」


「もう終わったわ。ついでに食料でも買おうかしら」


「近くのスーパーでいいでしょ! もう持てませんよこれ以上」


 まつりは完全に両手が埋まっており、その重量もかなりのものなので結構な重労働を強いられている。


「あれ、先輩じゃないですか?」


「え?」


「やっぱりそうだ。どうしたんですかそんなに荷物持って」


 突如として現れたのはまつりのサークルの後輩である羽衣はごろも 紫音しおんだった。


「あれ、先輩ってごきょうだいいるとか言ってましたっけ」


「あーこの子はいとこなんだ」


「そーなんですか。すっごく可愛いですね」


「ありがとうございます」


「お名前なんて言うんですか?」


「和泉 瑠依です」


「和泉……瑠依……?」


「どうしたんだ?」


「いや、和泉コーポレーションの人と名前一緒なんだなって思って」


「和泉コーポレーション?」


「先輩知らないんですか? なんかすっごくぶわーてのびてて、うわーて人気になってる会社ですよ」


「そ、そうなのか」


「そこの社長令嬢さんがすっごく可愛くて私ファンなんですよ。そう言われたら顔もどこか似ているような」


 まつりも瑠依も同様に焦りだした。

 少しボケようとかんがえていた瑠依だったが、この流れはまずいと流石に自重している。


「気のせいだ。間違いなく気のせいだ」


「そうですよね。先輩のいとこさんなら」


「じゃ、じゃあな」


「あの先輩」


「どうした? 」


「今週末どちらか空いてますか?」


「え、多分空いてると思うけど」


 その瞬間紫音の顔が二パーと明るくなる。


「本当ですか? じゃあ、また連絡しますね」


 そのまま逃げるようにまつりと瑠依はその場を離れた。


「瑠依さんって本当にすごい人だったんですね」


「当たり前よ。私よ?」


「そんな偉い人が朝に何やってるんですか本当?」


「まあ流石にそれは反省してるわ」


「本当に会社大丈夫なんですか? 瑠依さんがいなくて」


「別にいちいち出なくても、家で大抵の仕事はこなせるもの。そこまでの支障は来さないはずだわ。それより、あなたって結構モテるのね?」


「別に羽衣はそんなんじゃないと思いますよ。ただ、俺にも懐いてくれているだけで、皆にも好かれるようなやつですし」


「それはどうかしら。彼女、私と同じ目をしていたわ。獲物を前に待ちきれない目ね」


「変質者のあなたと一緒にしないでください。失礼ですよ」


「まあ、どっちみち気をつけた方がいいわよ。物騒だから」


「どの口が言ってるんですか」


「さっさと帰るわよ」


「ちょっと荷物多いんだからもうちょいゆっくり歩いて〜!」



 何とか2人は無事、家に帰って来ることができた。


「はぁー。疲れた」


「お疲れ様。明日はまつりくんはどうするの?」


「大学に行きますよ。瑠依さんは仕事でしょ。頑張ってくださいね」


「いえ、念の為明日は休むわ。だから一緒に大学に行きましょ」


「は?」


「私も久しぶりに味わいたいのよね〜。大学気分」


「絶対に嫌だっっっ」







  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る