第3話 ようやくタイトル回収して、物語が動き出す

「ほら、あの車よ。急ぎなさい」


 エスカレーターを降りた先には黒塗りの高級車があった。

 窓はスモークがかかっていて、外からは見えず明やかにやべえやつであった。

 瑠依がドアの前に着くと自動でドアが開く。


「ほら、あなたも入りなさい」


「いや、僕はいいですよ」


「流石にここまで付き合って貰ってるのに悪いし、橘がおくってくれるわ」


「はあ」


 言われるがまま、まつりは車の中に入る。


「信じられない。本当に昔の姿に戻っているんですね」


「ええ。本当に困ったものよ。訳が分からないもの」


「それでそちらの方は」


 橘と言われる男性はまつりを見るやいなや眉をしかめて強く睨みつける。


「あー。え〜と」


 まつりはかなり焦った。

 このままでいきなり瑠依が嘘をついた場合、まつりは警察に突き出されかねない。

 もう用済みなのだ。瑠依ならばこんな狂行をしかねない。


「私が小さくなった時助けてくれたの」


「そうですか。失礼な態度を取ってしまい申し訳ございません」


「いえいえ。お構いなく」


 まつりは感心した。この女にもまともな良心があったことに。


「橘。私の家に送ったあとにこの人も家へ送ってあげれないかしら」


「もちろんですよ。それよりお父様には連絡いたしましたか?」


「してないけど。橘も絶対にしないで。とにかく家族には内緒にして。一応職場には当分行けないとだけ伝えたから」


「承知いたしました」


「何よその顔」


「いや、和泉さんってなんか偉い立場なんだなって思って」


「ふん。もちろん決まってるじゃない。だって私よ。私が上にたたないわけないじゃない。後、私のことは名前で呼びなさい」


「はあ」


 上に立つ立場の人が痴漢などしないだろとまつりは心の中でツッコむ。


 20分後……


「ここら辺が瑠依さんの家なんですか?」


「ええ、そろそろ着くわね」


「僕もここら辺なんでもう全然下ろして頂いて構わないんですけど」


「最後までいなさいよ」


「えぇ……」


 段々と瑠依の家に近づきつつある中、まつりにとっても段々と家に近づいていった。

 馴染みのある景色。

 馴染みのありすぎるコンビニ。

 そしてそのまま真っ直ぐ行くと……。


「ありがとう橘。また連絡するわ」


「お気をつけ下さいお嬢様。では、まつりさん。それでは行きましょうか」


「あのー僕も家ここなんですけど」


「へ?」


 着いた先は二階建てのあまり大きくない住宅街にあるアパート。

 まさに大学生などが住むような場所で明らかな金持ちである瑠依がいることの方が不思議な程であった。


「何号室?」


「202です」


「私の真上じゃない」


「金持ちなのに、どうしてこんな所に住んでるんですか?」


「……それには深い訳があるからあまり話せないわ」


「そうですか」


「まさかまつりさんもこのアパートに住んでいらっしゃるとは。手間が省けたようなのでそれでは私は1度先に帰らせていただきますね」


「え、あ、ありがとうございます」


 そのまま車はいってしまった。

 ただ呆然と立ち尽くす2人を置いて。


「よし、決めた。ねえ、まつりくん。私と一緒に住まない?」


「ごめんなさい!!」


「どうして断るの?」


「どうしてもこうしてもないでしょ。もうあなたとは関わりたくないし、あなたと一緒に住んだら何されるかわかったもんじゃない?」


「はあ? こんな美少女なのよ」


「関係ないですよ。あと一緒に住んだら、本当に僕がお縄にかかっちゃいますよ」


「ただ早くなるだけよ」


「人のことを犯罪者予備軍みたいに言わないで貰えますか!? それよりお宅の家族に頼ればいいでしょ。あの橘さんとか。結構良くしてくれてたじゃないですか」


「家族は頼れないわ。頼れるのも橘だけよ」


「そうですか……。でも、緊急事態なんだし要件を言ったらどうにかなるでしょ」


「どうにもならないことだってあるのよ。私は逆にこの体になって色々開放されるものがあると思うと気持ち的にも楽なの。だから、家族には頼れないわ。ねえ、まつりくん。学校にも行けない小学生くらいの子を一日中家の中で放置するの?」


「そ、それは……」


 優勢だったまつりの勢いは衰え、徐々にまつりが押され始めてきた。


「私ひとりでこれからも買い物に行って洗濯とかもしなきゃ行けないのよ。流石に小学生くらいの美少女が1人って危ないと思わないかしら。普通は思うわよね」


「思いますね。確かに……」


「じゃあ、決まりね」


「いや、まだYESとは言ってないんですけど」


 まつりはレスバが弱かった。


「ある程度の荷物はそっちに持っていくわ」


「それより服が無いのよね。今日一緒に買いに行きましょう。一応中学時代の制服があるし、結構サイズ違うけど他よりはマシだわ」


 どうして一人暮らしの家に中学時代の制服があるのだろうとまつりは疑問に思ったが怖くてそのことは聞けなかった。


「別にいいですけど。僕変に思われないですかね」


「変態に思われないかってこと?」


「違いますよ。普通に小学生と一緒に買い物に行くことがですよ」


「別にいとことかきょうだいだとか言い方はいくらでもあるでしょう。あ、きょうだいってそっちの兄弟じゃないから勘違いしないでよね。私はないし」


「あんた本当に何言ってんだ!?」


「それより、まつりくんが見た目小学生の私のことをさん付けで呼ぶのはおかしいからちゃんで呼ぶことを許可するわ」


「わかりました。瑠依ちゃん」


「敬語はダメだよまつりお兄ちゃん」


 お兄ちゃんと呼ばれることに少しグッと来たまつりであった。


「一応設定としてはいとこでいきましょう。外に出た時はちゃんと敬語やめるんで」


「じゃあ、また後で」


 今日から、見た目は少女。中身は変態お姉さんとの同居生活がいざ始まる。

 果たしてまつりは無事過ごせることが出来るのだろうか……。






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