第12話 『侯爵の怒り』
王都に隣接する地域にあるサクラメント侯爵家の領地、その領都にある本邸では嫡男のトーマスが恋人と仲良く過ごしていた。
そこに突然王都から、父である侯爵が母を伴い戻ってきたと聞いて戸惑いを隠せなかったが、恋人との時間を邪魔する程度の認識しかなかった。
「トーマス!トーマスはどこだ!?」
普段は滅多に聞かない、父侯爵の怒鳴り声に、トーマスは眉を顰めた。
「トーマス……」
抱き合っていた恋人バーバラが不安そうだ。
そこに小走りの足音が聞こえてきて、粗野な勢いで開いた扉の向こうには、息せき切った父侯爵と母の姿があった。
「トーマス、あなた」
抱き合ったままの2人を見て母親が非難を込めた声を上げる。
今回彼女はたまたま侯爵に同行していたが、普段はここでオフェーリアの教育に力を注いでいたのだ。
それなのに自分の留守中にオフェーリアを追い出して、あまつさえ他の女を連れ込んでいるとは。
侯爵夫人の手の中で扇が嫌な音を立てた。
その夫人の横をスタスタと歩いていくのは侯爵だ。
彼は一直線に息子たちのところに向かい、まずは息子トーマスの頬を打った。
そしてその衝撃で離れたバーバラに、今度は拳骨で殴りかかったのだ。
「ぎゃっ」
口から顎にかけて殴られたバーバラは下顎の骨が砕け、数本の折れた歯が血とともに床に散らばった。
それでも怒りが収まらないのだろう、今度は髪を掴んで身体を起こすとそのまま蹴り飛ばしたのだが、握ったままだった髪が毛根ごと剥ぎ取られ、バーバラは頭も顔も血だらけだ。
「ああーっ!バーバラっ!!」
壁に叩きつけられ床に横たわったバーバラに、這いながら近づくトーマスの横で侯爵は汚物のように、抜けた髪の毛を投げ捨てた。
そしてトーマスの襟首を掴み引きずっていく。
「待って下さい、父上!」
「もう父でも子でもない!
おまえは当家から追放とする。
もちろん廃嫡、親子の縁を切る!」
「あなた!
それでは王家に対して示しがつきませんわ。
……酷ですが、トーマスには“病死”してもらいましょう」
実の母親のあまりの言いように、トーマスは意識を失った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます