第11話 『婚約破棄のもたらしたもの』

 話は少しだけ遡る。


 ほんの数日前までオフェーリアが滞在していた、サクラメント侯爵家の領地にある本宅でトーマスは、先日王都のパーティーで知り合って相思相愛となった男爵令嬢マドレーヌ・ブランシェとの甘い生活を送っていた。

 侯爵夫妻は当時王都のタウンハウスにいて、まさか息子がこのようなことをしているとは、夢にも思っていなかった。


 ある日、サクラメント侯爵アーチボルトは至急との連絡を受け、急ぎ王宮へと参上した。

 そこには以前から懇意にしていた宰相だけでなく、滅多にその姿を現さない大公(国王の弟)も同席していた。


「サクラメント侯爵、拙いことをしてくれたな」


 挨拶も何もすっ飛ばして宰相が話しかけてきた。

 だが、ずっと王都にいた侯爵には、一体何のことを言われているのかさっぱりわからない。


「……もしや、まだ侯爵の耳に入っていないのでは?」


 大公が助けにもならない助けを出す。

 相変わらず侯爵は何の話なのかわからずにいて、憔悴しているように見える宰相からの次の言葉を待っていた。


「其方の家、サクラメント侯爵家と魔法族とのこの度の縁組、とても重要なものだと理解しているものだと思っていた」


「はい、もちろん。

 婚約者のオフェーリア殿には婚姻前の勉学に励んでいただいております」


「それがな」


 宰相が勿体ぶって言葉を一度切った。


「勝手に婚約破棄して、侯爵家から追い出したそうだ。

 そして婚約破棄を告げ、オフェーリア殿がそれを受けた時点で“誓約”は破棄された。

 我々は魔法族の女王陛下より直々の抗議を受けたのだがあちらはかなり激昂されている。

 そしてこれから二度と我が国とは婚姻を結ばないという事だ。

 このことがどれほど重大なことか、貴殿にはよくお分かりだとおもうが?」


 サクラメント侯爵は真っ青になり立っていられなくなった。

 ガクガクと足を震わせ、その場に蹲ってしまう。


「この度の婚姻はようやく我が国に魔法族の血をもたらす、最大の契機だったはずだ。

 それが其方の馬鹿息子のせいで何もかもが崩れ去ったのだ。

 今回のことで魔法族としては、もう一族の血を外に出さない事にしたそうだ」


 大公が、カツンカツンと靴音をたててサクラメント侯爵の元にやってきた。


「こういう事になった。

 国王陛下はあちらへの謝罪に追われておられるが……覆らんであろうな」


 彼らは魔法族の妙齢の女性が、オフェーリアしかいないことを知らない。

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