第10話 『【青い泉】』
偶然にも【青い泉】という宿は商業ギルド御用達でもあったので、ナタリアと連れ立って現れたオフェーリアは思わぬ歓迎を受けた。
そしてギルドカードを提示すると割引きまで効いて、本来なら朝と夜の食事付きで銀貨7枚のところ銀貨6枚に、さらに10日泊まるとさらに割引きがあるそうなのだがオフェーリアはそこまで長く滞在するつもりはないので、とりあえず2泊分を支払って鍵を渡された。
次にナタリアは女将に言って食堂の個室を借りる。
今夜はそこでゆっくりと食事するつもりだ。
「個室なんてあるんですね」
注文した飲み物(ふたりとも、まずは果実水)と料理がきて、ナタリアが女将に呼ぶまでは来ないように言うと、オフェーリアはやっと口を開いた。
「冒険者は煩いからね。
普通、4〜6人くらいでパーティーと呼ぶグループを作るんだけど、この部屋はパーティーで騒ぎたい時用ね」
オフェーリアは冒険者のシステムなどまったく知らなかったのだが、なるほど、と頷いた。
そしてフードに手をかけ、初めてナタリアに素顔を晒した。
それは……ナタリアが御伽噺で聞いていたエルフそのものだった。
透き通るような白い肌。
淡い金髪に鮮やかな紫色の瞳。
そして最大の特徴である、先端が尖った耳。
オフェーリアはエルフのお手本のような姿に色変えしているので、ナタリアはなんの疑いもなくエルフだと信じている。
「本当にエルフなのね……」
そう言ったナタリアは吐息をついた。
「ええ、そういうものです」
そう言うとどこがツボに入ったのか盛大に笑われてしまい、オフェーリアは戸惑ってしまう。
そして訊問……いや、質問が始まった。
「エルフの魔導具はとても秀でていると聞いたことがあるけど、本当にそのようね」
ナタリアはオフェーリアの足元にある、カモフラージュ用のリュックを指差した。
「いくら何でもそれはないわ。
それってアイテムバッグなんでしょうけど、露骨よ?」
実はこのリュックは重量軽減の魔法が付加された普通のリュックだ。
そして盗難防止の魔法も付加されている。
オフェーリアのアイテムバッグはローブの中の腰に付けているウエストポーチの方なのだ。
だが、この事は黙っておくことにした。
さらに異空間収納魔法については言わずもがな、である。
「普通あなたのように他所からやってきた旅人はそれなりの荷物を持っているものよ。
もちろんそうでもない人もいるけど、おしなべて魔導具は高価なのよ。
注意しないと盗られちゃうわよ」
オフェーリアは大人しく頷いておくことにした。
そしてリュックに手を伸ばし、中から取り出すように見せて異空間収納から本物の魔導具であるリュックをとりだした。
これは魔法族の都にいた時、いくつか作ったアイテムバッグのひとつである。
「じゃあ、これって売れますか?
これも路銀の足しにするよう、持たされたものなのですが」
オフェーリアが製作できると知れたら騒ぎになりそうなので、そういう事にしておく。
だが、ナタリアは仰天して、椅子を蹴り飛ばして立ち上がった。
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