第9話 『買い取り依頼』
結局商業ギルドへの登録は、ナタリアの権限をもって行われた。
こうして晴れてギルド会員となり身分証を手に入れたオフェーリアはこれで商いもできるようになった。
だが、その代償として金貨2枚を要求され、わざと銀貨をかき集めて支払うという芝居までしたのだ。
そして同時に纏わりついてくるナタリアに辟易としたが、ここは情報源として役に立ってもらうことにする。
彼女の業務が終わるまでギルド内の売店などで時間を潰すことにし、ナタリアとは一度別れることになった。
オフェーリアはまず、地図を購入することにした。
もちろん金子は十分に持っているが、少々偽装することにする。
オフェーリアは【買い取り】と書かれた窓口に向かい、ありきたりだが森に棲む魔獣のきちんとなめされた皮を取り出した。
「すみませーん、買い取りお願いしますー」
奥の帳場にいた男が足を引きずりながら、ゆっくりとこちらに向かってくる。
「おう、見慣れない嬢ちゃんだな。
……おい、こいつは深林にしかいないグラデナガラ(劣竜と呼ばれるトカゲ種の魔獣。魔法族の都の近くでは然程珍しくも強くもない魔獣だが)じゃないか!しかも完璧に処理されてる。
こいつを一体何処で手に入れた?」
怠惰だった態度が一瞬で引き締まり、それ以上に鋭い視線を向けてきた。
「私は辺境の出身なのですが、人里に出るのが決まった時、路銀にするよう渡されたもののひとつです」
買い取りの責任者ボブゴブは、改めて目の前の少女?を観察した。
……濃い草色のローブのフードを目深にかぶって、見た目は少々怪しい。
だが影になった顔のその中の、鮮やかな紫色の瞳が美しい。
「悪いがギルドカードを見せてくれるか?」
オフェーリアは出来立てほやほやのギルドカードを差し出した。
「それじゃあ、失礼するよ。
……ナタリアが担当か。
それなら大事ないだろう」
「どれ」と言ったボブゴブはカウンターの中にある作業台に皮を広げた。
「お嬢ちゃんも中に入って来いよ。
ああ、これは良い皮だ。
傷もすくないし、いい値がつくぜ?」
フードの奥でオフェーリアが笑った。
「なあ、本来なら御法度なんだが、聞いてもいいか?
これってどこで獲ってきた?」
「ごめんなさい。
旅立ちの時に渡されたのでよくわからないです」
謝罪するように俯いた際に髪が一筋、フードとの隙間から現れた。
それは淡い金色の糸のような髪だった。
「っ!
ああ、いいんだ、別に」
「あの、おいくらくらいになります?
私、あまり金子を持ってないんです」
もちろん嘘だが辺境からやってきた田舎者、という設定に信憑性を持たせるためそう言っておく。
「こいつはなめしも最高だ。
……金貨30枚、いや35枚で買い取ろう」
その値が正確なのか、そうでないのかオフェーリアには判断がつかないが、しょうがない。
「よろしくお願いします」
その後奥の部屋から金貨が運ばれてきて、オフェーリアの初めての取り引きが終わった。
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