第8話 『人誑し』
先ほどの門兵と同じように、ナタリアにとってもエルフは未知のものだった。
滅多に森から出てこない彼、彼女らは極端に目撃例が少ない、それが今目前にいることにナタリアは感動すら覚えている。
「……と、言うことは、この町の近辺にエルフの居住地があるということ?」
オフェーリアを置いてきぼりにして、ナタリアはひとり盛り上がっている。
しかし、真に申し訳ないのだが、そのような事実はないのだ。
「あの……私、転移させられたんです。
だから村の場所はおろか、ここも何処なのかさっぱりわからないのです」
「転移……エルフって魔法を使えるの?」
人族は、王侯貴族などでなければ、魔法族やその下位種族であるエルフのことに詳しくない。
このナタリアもギルドの上級職員だというのに情報を持っていなかった。
「エンシェントエルフ様がお出でになって、転移させていただきました」
「エンシェントエルフ?」
「多分、人族の方たちが【魔法族】と呼ぶ方々だと思います」
ナタリアとオフェーリアの2人はカウンターを挟んでひそひそ声でやりとりしている。
「じゃあ、フェリアちゃんはこの町の名すら知らないのね?」
「はい、森から街道に出てきて、偶然行き当たったんです」
「そう、そう、そうーなのね!」
何となく目つきが怪しくなってきたように感じられるが、まさかこの場でおかしくなることはないだろう。
何しろ昔から【魔法族】を含めたエルフという種族は、人の心を惑わす存在だったのだ。
今でも珍獣扱いされるのは、ある意味必然なのだろう。
「なので、色々と詳しく教えて頂ければ嬉しいです」
そして上目遣いで見上げるオフェーリアはあざとかった。
その後2人は普段は商人が商談などを行う個室に移り、今オフェーリアは地図を前に簡単な地理のレクチャーを受けていた。
さすがに大陸地図を出されてきたのは閉口したが、ナタリアに悪気はないのだ。
ようやく今いる国(ベーヴェルシュタム公国)の詳しい地図が広げられ、以前通過した時は興味すらなかったこの町の名も初めて知った。
「ここは【ボルクンド】と言うのですね」
それからオフェーリアは熱心に地図に見入り、どの方面に行くか考えてみる。
だがそれよりも、まずは地図の入手だ。
「地図?
これと同じものでいいのなら、ギルドの売店に売っているわ」
売店は2階にあると言う。
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